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カノジョの指針

私の眼前では何十本もの太い薪が積み上げられ、パチパチと大火が揺らめき燃えている。

心許なく肌の露出度の高いイショウを身に着けていた。同じイショウを身に着けた若い男女が幾人もおり、幼い子どもが三人いて、両親であろう大人の側で焚き火を見つめていた。

その誰もが生気を失ったような表情を貌に張り付かせていた。

瞳も虚である。

焚き火の奥に村の長らしき腰の曲がった老人が、二エグドもありそうな身体の人物と話し込んでいるのが視界に映った。

小石や小枝などといったものは周囲には落ちておらず、裸足で生活を送っても支障はないように思える。

だからなのか、私以外の焚き火を囲む人々も裸足である。

彼らに馴染めないでいるのか、私の周囲には彼らは居ない。

楕円形をした赤茶けた木の実を両手で抱えるように持ち、あいた穴に口を押し当て、木の実から流れ出てくる液体を喉に流し込む。

液体の味は甘ったるいように感じた。


両手首に違和感を感じて、視線を落とすと、手枷が嵌められていた痕跡があった。


奴隷……という身分か。


そう思い至った。


砂浜にへたり込んで、立ち上がろうという気力すら湧いてこない。

私を含めた彼らは、皆奴隷なのだ。

精神が摩滅して、生きる気力すら微塵も湧かないのだ。

絶望の果てにいる人間(いきもの)が流れ着いた土地が此処だと、悟った。

悟ってしまった、(トニッシュ)だった。



誰かが、私に近づいてくる。

サラサラとした感触の白い砂を踏みつける足音が迫ってきた。

膝にぶつかりそうな距離で歩み寄ってきた人物の脚先が止まり、瞳に入る。

顔を上げると、両膝に手を置いて屈んだ大柄な人間が居た。

村の長らしき老人と話し込んでいた人物だった。

その人の輪郭は揺れて、歪んでいて、焚き火の灯りが届かない夜闇と同じ漆黒で判然としなかった。

貌の造りもまったく判らない。

影のような人間(ソレ)は、頭に、額に、細い麻縄を巻き付けているようだった。

カレの左手が差し出され、間髪いれずに私は差し出されたカレの手をとった。

カレは私が立ち上がったのを見届けると、指を口許に持っていき、咥えるとピューと鳴らした。

その指笛を聴いた全員がカレのそばまで歩み寄ってきた。

カレが再び指笛を鳴らすと、リズムに合わせて、彼ら彼女らが思い思いに踊り出した。

生気を感じられなかった彼ら彼女らの顔には幾らか笑みが浮かんでいた。



「——っていう不思議なのを、見たんだけど。そのとき。ミッシェル、何か分かる?」

「ははあ〜。姫君はもう(しがらみ)が砕かれた御身ですぜ〜今は。気になることがあるんなら、姫君の思うままに調べたらいいよ〜。誰かに聞いたらそれで満足いくか〜姫君ぃ?いかねーでしょー。姫君が生きたいよーに生きるのがオツですぜー!」

「それは……そうね、ミッシェル。ヒントくらい、頂戴よ〜ミッシェルぅ〜」

「ヒントかー……そうだなぁ——」


城下町の診療所を出たトニッシュが、契約した妖精のミッシェルに死んだ刹那から目覚めるまでにみていた不思議な夢のようなものについて話した。

ミッシェルは、夢のようなものの正体を話すことはなかった。


——まずは、腐ったこの国を出て大海原(うみ)を渡るこったよゥッ!


私は、ミッシェルの発言に首肯いて、港へと目指す。

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