自由、結ばれた誓い
うぅっ、と低い呻き声が遠くから聞こえ、瞼を上げると見慣れない木の天井がひらけた視界の先にあり、驚いた。
「……っ、此処は——」
抱いた疑問を投げ掛けようと口を開くと、声に反応した小人に似た生物が宙に浮きながら顔を覗き込んできた。
「永い眠りからお目覚めですね、姫君。ごきげんよう、トニッシュ嬢……地上は如何です?」
「私は……」
「三日もの間目を覚まされないから心配したぜ、妾よォゥ。姫君をハメた宰相は地下牢を浸水させたと同時に御陀仏よォッ!あー、御陀仏ってのは、死んだって意味さァ。妾が姫君に授けた祝福で姫君は望んだもんが手に入ったんだ。どうだ、気分は?晴れて、自由の身に成れたんだ。喜べよ、トニッシュ嬢ッ!」
「そう……ジユウ、自由……」
細い腕を胸の上辺りまで上げて、両手を開けたり閉じたりを繰り返しながら、甘美な響きを感じる言葉を反芻した——トニッシュ・アルダニアだった。
「えっと……アナタ、は……?」
「妖精よゥ。名は……無い。姫君……いや、トニッシュ・アルダニア様、妾にどうか名を戴けないですか」
艶めかしい声で種族を言って、かしこまった真剣な声で名付けて欲しいと要求した女性の妖精。
顔の前で——宙に浮かびながら目上の人物に跪く姿勢をとる妖精に驚いて返事が一拍遅れた。
「あっ、うん……えっと、ミッシェルってどうかしら?」
「ああっ!たいそう素敵な名を……とても素敵な名を妾に与えてくださり幸せで御座います。この身を捧げ、姫君を守り抜いていくことを誓います」
私は、悦に浸る表情を引き締め、宣誓するミッシェルという妖精に微笑を向けて応じた。
「これからよろしくね、ミッシェル」
右手を身体の前に差し出す。
差し出されたトニッシュの右手のひとさし指に、ミッシェルの左手の五指が絡められた。
トニッシュ・アルダニアとミッシェルという妖精の間に誓いが結ばれたのだった。