5話・追撃と応戦 後
「お前を……お前を倒して、ジョンを助ける」
な、なにを言っているんだ。
今は逃げるべきなのに、なぜ立ち向かおうとするんだ。いや、それは、僕のせいだろうけど……それじゃあ僕がついて来た意味がない。それなのに、セラは戦いを続けようとしている。
「ほう……だが、お前の付き人はそれを望んではいないようだが?」
「だとしても、ボクが望んでいる以上は、押し通させてもらうよ」
そうは言うが、すぐには動かない。それは、魔族の男を警戒しているのもあるのだろうが、きっと一番は僕の存在だ。
僕が倒れているすぐ近くに男が立っているので、僕を助けようとしてくれているセラは動かないのだろう。
「ふむ、来ないか……そんなに付き人が気になるのか?」
「ジョンは付き人じゃない……大事な仲間だ、ボクたちは二人で魔王を倒す」
その思いは嬉しいが……いや、そうか、そうだ……
確かに、勇者の身代わりはお供としてはこれ以上にない役割かも知れないが、セラの仲間、セラのお供としての“僕”であるならば、役割をこなすどころか、放棄していることにならない。
この旅においてセラに必要な人間はそういう人間ではないということはもう分かっていたはずなのに、身代わりなんかになろうとしまった自分を恥じた。
セラに必要なのは、その旅をサポートして、周りとの関係を考えて活動方針を決めてたり、戦いだけに集中しすぎないためにいろいろしてあげる仲間だ。
そうでなければ、きっとセラは外聞も気にせず、自分のことを気遣うこともなく、ただ魔王を倒すためだけに行動をしてしまうだろう。それでは、ただの兵器と何も変わらない。
最初にセラのお供になると決めたときは、一人で魔王と戦うセラが心配で力をつけようと師匠に弟子入りした。
だが、彼女に必要なものが違うと、一年前、再会した時に知った。
セラは、多分、僕なんかがいなくても魔王討伐を成し遂げられるだろう。だが、その後のことを考えると、それではいけないと思った。
魔王戦になったらセラは自分のことなんて考えない戦いをするだろうし、魔王を倒してもセラが無事とは限らない。それに、無事だとしても、魔獣討伐や盗賊退治の振る舞いや、騎士学校の生徒達の反応などから考えるに、周りとの関係性なんて考えずに権力を使って強行していくことだろうし、その時のセラの評判は良くて普通くらいだろう。
そうなったら、魔王や魔族との戦いで力が弱まっているセラをどうするかなんてわからない。最大の敵である魔王がいなくなったのであれば、セラをどうにかしたいと思う者も増えるだろう。
だから、僕は最後まで生きてこの旅の終わりまで付き合わないといけない。
セラのことだ、魔王討伐を終えたら、特に報告をすることもなくどっかに活きそうだし、僕がきちんと王城まで連れて行かないといけないだろう。
最後までセラと共に戦い抜く覚悟を再度決めると、近くに立つ男からなんとか離れる手段はないかと頭を動かし始める。
そうしていると、男が挑発的な口調でセラに話しかけた。
「二人で魔王を倒す、か……だとするならば、どうする? この状況を……」
「そうだね……こうするかな」
「……ん?」
なんだ、何をするつもりなんだセラ……
周囲の魔力が一気に無くなっていく、いやセラが持つ剣に集まっていく。
どうせ節約しても、こちらの魔力事情を知っている相手だ、先んじて周囲の魔力を自分の装備に集めるのは悪くないが、その剣の性能じゃ、そこまでたくさんの魔力は溜めておけないはず……脆くなったりして剣として使えなくなるかもしれないし、最悪崩壊するぞ。
剣は魔力を溜めこんでいき、その内、貯蔵可能な場所が蓄積限界を迎え剣が光り出していく……これは、すぐに崩壊するな……どうするつもりなんだ、セラ。
そんな風に思っていると、男はしゃがみ、こちらの顔へ手を伸ばしてきた。
まずい、まだ体が上手く動かせないって言うのに、このままではあっさり殺されるぞ。
「む……これはっ……悪いが、お前に行動されては戦いにもならないかもしれない、眠っていてもらう」
「なに? なにを言って……」
そして、すぐに僕は意識を失った。
だが、使われた魔法が何なのかは分かった。使われた魔法は眠りにいざなう、あるいは気絶させるというか、意識を奪うだけのものだ。
抵抗は試みたが体もまともに動かせないし、僕の手持ちの装備の魔力は僕に刻まれた魔法式で、周囲の魔力はセラの剣に集められたことによって、使える魔力がほとんど残っていないのもあって、あっさりと魔法にかかってしまった。
だが、何故、ここで意識を奪うだけにとどめたのかは分からなかった。セラの全力を警戒して僕を生かす方向にしたのか、それとも、魔力の節約をしたかったのか。それも今となっては分からない。
僕が目覚めたのは空が深い紺色に染まり、星々が煌めく頃であった。
跳ねた魚が水面を叩く音で目をさまし、パチパチと火にくべられた木々が音を聞いているうちに徐々に意識が覚醒していった。
「あ、ジョン、起きたね、良かった」
「……セラ?」
「うん、ボクだよ、分かる?」
「あ、ああ……セラは、あの後、勝ったってことでいいんだよね」
死後の世界があると仮定して、ここが死後の世界でない限りは二人揃っているということはそうであるのだろうが、セラは無事なのだろうか。
やけどで痛む身体を起こして周囲を見渡してみると、そこは昼にいたあの湖の近くであった。
月夜に照らされた周りを見渡してみるが、昼と特に変わったところはない。僕が寝ていたところには結界が張られていたので、セラが守ってくれていたことは分かるが……戦闘の後がないし、本当に勝ったのか?
「うん、まぁ、勝ったよ」
セラがそう言うので驚いてそちらの方を見ると、防火布にくるまった姿のセラがいた。
「どうしたのその姿」
「うん、ジョンのポーチから勝手に借りてる」
「いや、まぁ、それはいいんだけど」
逃げる際に使った魔法陣を隠していたものだろう。確かに、セラはそれを仕舞うところを見ていたし、取り出せるだろうから使っていてもおかしくはないんだけど……
「もう戦闘は終ったんでしょ、なんで防火布を被っているの?」
「だって……その……服が……」
「服が?」
「服が全部使い物にならなくて、裸なんだもん……」
「……なるほど」
あまり人が来るような場所ではないとはいえ、ここは外だ。確かに裸でいるのは……いや、セラならしかねない気もしないでもないけど、そこは恥じらいが生まれたということで良しとしよう。村にいたときのセラだって今よりは恥じらいを持っていた気がするし、年頃の女性なら恥じらいは持ってしかるべきだろう。
「それで、着ている物が使い物にならなくなるような戦闘をしたらしいけど、身体の方は大丈夫なの?」
「うん、それは大丈夫……回復薬全部使っちゃったけど」
「ああ、それなら後で渡しておくけど……結果としてはどうだったの? 魔族を撃退したのか、それとも……」
「うん、ちゃんと討伐したよ、ほら」
そう言うと、セラが布の中から魔石を放り投げて来た
「うわっ……と」
何とかキャッチしたけど、取り損ねたら湖の中に落ちてしまいそうだった。浅瀬の当たりだから拾うことになっていただろうけど、夜中に探すのは大変そうだ。
「ここはジョンが倒れていたから、なんとか森の方まで行って戦ってきた、結構戦闘の後は凄いことになっているから、夜が明けたら見に行く?」
「……まぁ、そうだね、そうさせてもらおうかな」
ポーチから薬を数本取り出して、うち一本を口にする。少しして身体の痛みが引いたのを確認してから、服を取り出した。
セラが戦闘で無茶をして服を駄目にするのは初めてではないので、一応一着分はポーチの中にも入れてあった。まぁ、ボロボロになるくらいで全く使い物にならなくなるのは初めてのことだが。戦闘用の服は、普通のものとは違って耐久性に優れたものであるので、見苦しいほどぼろぼろになることはあっても着ることが不可能になるほどに破壊されることはあまりない……というよりそうなったら、大抵の場合、着用者もただでは済んでいない。
かなり大変な戦いだったのだろう。セラが無事で本当によかった……一人で魔族との戦闘に勝ったと言うのは、戦闘における僕の存在意義的には少し微妙なところではあるが、セラが五体満足であるのならばなによりだ。
「じゃあ、ボクは着替えてくるから」
そう言って服を布の中へ引き入れると、セラはどこかへ向かおうとした
「着替えてくるって、どこへ行くつもり?」
「ちょっと森の方まで」
「いや、装備もなしに危険でしょ」
「じゃあ……ジョンはここで着替えろって言うの?」
「うん、着替えている間周りを見張るくらいは出来るよ、まぁ、セラの用意くれた結界もあるし、何もしなくても大丈夫な気もするけど……」
「じゃあ、ここで着替えるからジョンが森の方に行って」
「なんで?」
「うう……ジョンのえっち、へんたい、すけべ」
「……? いや、まぁ、そう言うなら森の方に行くけど、なんか大分今更な気がするよ。まぁ、今後はそうしてくれていた方が体裁とか外聞とかもあるし、僕的にもありがたくはあるけど」
昨日の今日だけど、まぁ、恥じらいを持つことは悪いことじゃないし、素直に森の方へ引っ込んでおこう。なんか、微妙に棒読みっぽかったのが気になるけど、負傷が残っているなら、回復薬も置いて来たことだし、その辺で直してくれるだろう。後でもうちょっと回復薬を渡しておくか。
森の中で使えそうな植物や虫などを物色していると、僕を呼ぶセラの声が聞こえてきたので、湖の畔のほうへ戻ると、たき火が消えていた。
「ん、なにかあったの?」
「いや、なにもないけど、あ、これ、布。返しておくね」
着替えは終っているらしいセラが防火布をこちらに突き出してきたので、軽く畳んでポーチの中にしまっておく。
なにもないとは言うが、薪は残っているのに火が消えている。ということは意図的に火を消したということだが、何か理由があるのでは思ったのだけど……
「それで、そっちはなにかあったの?」
「いや、森でちょっとだけ採集はしていたけど、特に変わった出来事は起きてないよ、戦闘もしてないし」
「じゃあ、なんで何かあったと思ったの?」
「だって火が消えていたし、何かあったのかなって」
「あー、これね、これは、ほら、近くに明かりがあると、ジョンが森の中から覗き見していたら丸見えになるからね、うん」
「いや、しないけど、というか、する必要性がないというか……」
なんでセラの裸をわざわざ盗み見るようなことをしないといけないのか……いや、恥じらいを持ってくれることは、本当にいいことだとは思うんだけど、昨日の今日で芽生えるようなものなのだろうか。いや、女の子のことは良く分からないので、そう言う者なのかもしれない。というか、そう言う物だと助かるかもしれない。流石に女性のあれこれは僕じゃ教えられないだろうし。というか、僕も知らない。
「じゃあ、もう火をつけてもいいんだね」
「うん、そうだね、夜だし、水辺だし、季節の割に結構冷えるし」
先ほどまで燃えていた薪に魔法で火を灯す。水で消したわけではないのだろう、すぐに火がついてパチパチと音をたてはじめる。
「セラはここまでずっと見張ってくれていたし、寝てもいいよ、今度は僕が見張っておく」
「うん、分かっ……いや、いい、やっぱり起きてる」
「なんでさ、魔族との戦闘もあったし、疲れているだろうから、ちゃんと休んでほしんだけど」
「大丈夫、リンド村に戻ったら寝るから……」
「……いや、本当に寝てほしいだけど、明日何があるか分からないし、出来るだけ体調は万全でいてほしいし」
今日だって、セラがいなかったら終わっていた。ならばなるべくセラには元気でいてもらいたいところだ。二人の生存率を上げるにはセラの体調が万全するのが一番だ。睡眠不足は万病も元というかなんというか、徹夜はしないで済むならしない方が良い。旅をしていればどっかでしなければいけないタイミングなんて来るに決まってるし、寝れる時は寝ておいた方が良い。
僕が説得するようにそんなことを言うと、少し迷ったような素振りをしたあと、セラがこちらにじっと視線を向けて来た。
「……ボクが寝ているうちに服とか脱がしたりしない?」
「……はぁ」
思わず大きなため息が出てしまった。なんだその心配は……
「しないよ、というか、どうしたの、セラ。ちょっとおかしくない?」
「お、おかしくないよ、じゃ、じゃあ寝るから、ちょっとでも触ったら起きるからね、おやすみ!」
そう言うと、ちょうどいい大きさの石を枕にして、マントを布団代わりにしたセラは瞼を閉じた。
寝る時くらいグローブを外せばいいのにと思ったが、今からそう言うと「やっぱり起きてる」とか言い出しかねないし、黙っておくことにした。
朝、水面に反射した光が眩しかったのか、僕が触らなくともセラが身体を起こした。
「うー……おはよう」
「うん、おはよう、セラ」
眩しそうに眼を細めるセラをよそに、温めていたお湯でお茶を作り、回復薬の入っていた瓶に入れた。まぁ、お茶と言ってもこの辺りにある植物で香りが良くて毒のない物を煮出しただけなんだけど。
「はい、お茶でも飲んで、目を覚まして」
「うん、ありがと……」
手持ちの食料で簡単な朝食を済ませた後に荷物を纏め、トス村に移動し、もろもろの報告を済ませ、せっかくなので転移の魔法陣を描かせてもらってからリンド村に向かうことにした。
魔族がいて、それを討伐したと言う話をしたらすごく驚かれていたが、そのおかげか魔法陣の交渉がスムーズに進んでよかった。リンド村に比べるとそこまで余裕がある村にも見えなかったから、そう簡単に許可が下りるとは思っていなかったし。
転移の魔法を使いリンド村に着くとここでも報告をする。こっちでもかなり驚かれたが、先に魔獣を倒しているからか、トス村ほどではなかった。
実際には全くと言っていいほど強さが違ったのだが、普通の人からすれば魔獣も魔族も同じようなものなのかもしれない。どちらも戦うことすらできない敵ならば、まぁ、その認識も間違ってはいないだろう。
昨晩、セラが寝ると言っていたので、ここで一泊するかとも思ったが、もうネタから次の目的に行くと言う話をしていたので、アレックスたちへの報告が終わり次第荷物を纏め旅立つことになった。
次の目的地はアンブラー。この村の一番近くにある街だ。リンド村の人が魔族の噂を聞きつけたのもこの街ということになるし、滞在することも含めて一応この辺りのことも領主に報告した方が良いだろう。
始めてくる街ということでその辺を見て回りたそうにしていたが、一人で行動させると何をするか分からないのはもう知っているので、宿をとって部屋に押し込めた。屋台とかで食べ物を沢山買ったし、しばらくは部屋にいてくれるだろう。
その隙に、僕は城の方に向かい、明日訪れる旨を伝えた。昨日のこともあって、今日は色々疲れているし、僕的には明日に死体のだが、セラがいると今日招かれそうだし、かといってセラを街に放しておくわけにもいかないので、こうするしかなかった。
僕の分も含めた追加の食べ物を買って、部屋に戻った。こうしておけば、多少はセラの不満も何とかなるだろう。
「戻ったよ」
「んー、おかえりー」
「……セラ、あの……」
借りていた部屋に戻ると、セラは着替えをしていたわけでもなく……裸でゴロゴロしながら食べ物を食べていた……
はしたないよ、いろいろと。あと、昨晩の恥じらいはどこへ行ったというのだろうか……あれは、夢だったのだろうか。
食べ物をテーブルの上に置きながら、大きなため息を吐いてしまった……
セラ視点での戦闘シーンは書いてはあるのですが、こっちに上げるか分けるかは今のところ分かりません。




