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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
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4話・対魔族戦・初戦 前

地味に予約投稿初めてかもしれない



 セラが魔族に飛び掛かり剣を振るう。先ほど折れた短刀の他には受けに使えるような武器がないのか、男はセラの剣を受けるようなことはせず回避をしていく。


「さっきから避けてばっかりだね、余裕がないのかなっ」

「当たれば大ダメージは免れないからな、ある程度見切るまでは避けるのは当然だろう」


 セラの挑発的な言葉にも全く動じず、冷静に言葉を返しながら回避を続けているところを見ると、相当に戦闘慣れしている。それも、対人戦を何度もこなしている。この辺りは僕らには不足しているので、少し不利と言える。

 セラは騎士学校で対人戦自体はこなしているかもしれないが、恐らく命をかけたものではないだろうし、何よりその時のセラは既に魔法学校を出た後だ。実力の差がありすぎてどれほど訓練になっていたか分からない。

 そう言った意味では僕ら二人での行ってきた対人戦も戦闘数に加えていいか怪しいものだ。僕らが相手をしたのは盗賊や騎士崩れのならず者ばかりで、正直な話取るに足りない相手だった。


 この戦い、僕らが勝って生き残ることができれば大きな経験となるだろうが……負けて、旅が終わる可能性もある。


「ふむ……では、こうだな」

「あれ?」


 そうして、何十回かセラの剣が振られたあと、ある一撃、男が回避をしなかった。

 しかし、その刃が届くことはなかった。男の体に届くよりも先に止まってしまったのだ。


「焼けろ」

「やばっ……」


 男が魔法を発動させる。魔族式の魔法は発動前の解析が難しく、火と土の混合であることは分かったが、発動されるまで溶岩魔法であることは分からなかった。

 セラは()()()()()()()()()()()後ろに飛び退いて回避をしたが、剣は魔法に呑みこまれてしまう。


「溶岩なら……これかな」


 発動後のものを見ればそれがどういった魔法なのか流石に分かる。

 アレは回避だけしてもずっと発生し続けセラを狙って来るだろう。剣が有れば魔法消去をセラに任せても良かったが、残念ながらあれではもう使える状態にないだろうし、この場にあるもにせよ装備品にせよセラの使える魔力は取っておくに越したことはない。

 魔法に向けて砂状のものが詰まったカプセルを投げつける。着弾と共にはじけ、溶岩が固まっていく。

 あの魔法が魔力で事象を再現する現代式では無く、魔力を媒介に事象を引き起こす古代魔法に近いプロセスなのは分かっていたので、対処は簡単だった。


「ふむ……やはり、付き人が優秀か」

「なっ……」


 その声が急に後ろから聞こえてきて、とても不味いと思った時には、身体は勝手に真横に飛んでいた。緊急時の回避の練習の成果か、意識よりも早く体が動いた。

 だが、ギリギリで間に合ったと取るか、ギリギリで間に合わなかったと取るか、発動された火炎魔法の余波を受けて、肌の服で隠れていないいくつかの場所にやけどを負ってしまった。

 重症というわけではないが、利き手に火傷を負ったのは少し嫌だ。感覚がまともに働かないし、何より動かしづらい。薬品や魔法具を取り出すにしてもスムーズには取り出せないだろう。

 視線を魔族の方に向けたまま、腰のポーチの位置をそっと左側に移動させた。


「だが、反応速度や身体能力を見る限り、やはり人間という枠内だな」

「そりゃ、どうも……」


 魔術に関しては素直に褒められ徒と取っておこう、魔族からそう言われたならそれなりに誇れることだとは思うが、大分嬉しくはない。

 恐らく僕の実力を測るためにあえて声を出してから魔法を放ったことが分かるからだ。あそこで無言で攻撃されていたら、たぶん死んでいた。

 それにしても、反応速度はともかく身体能力についてはまだ高品質の薬品の効果がちゃんと効いているはずなのだが、それでいてその評価は随分と手厳しい。この戦いに勝ったとしても、この旅における僕の課題になりそうなことだ。

 もっとも、なによりこの戦いで生き残ることが前提になるのだが。


「あなたもなかなかだ、流石はというか、物体停止を魔道具もなしにあの速度で発動して、勇者の振るう剣を止めるとかどうなっているんだって思うよ」

「それはそちらの勇者が未熟だからだろう。魔術込みの戦闘で物理攻撃を行うなら、消去なり反発なり、対魔法の魔法効果くらい付与しておくべきだ」

「それは確かにそうかもしれないけど、あの速度の剣に合わせて発動できるのは流石としかしいようがないよ……」


 そんな話をしながら、僕の身体で彼の死角となる場所に置いたポーチから、小型の注射器に入った回復薬を取り出して、腰のあたりに突き刺して注入していく。

 適当な場所に刺して薬を入れているのでかなりの激痛だが、そもそも火傷自体がかなり痛いので、多少は顔をゆがめても違和感はないと考えられることだけは助かったと言える。

 もっとも、こちらがこうやって回復しようとしていることくらい相手も気づいているような気がするけど、見逃してくれるのであれば回復させてもらおう。


「停止魔法については慣れているだけだ、実践をこなせば使う機会などいくらでもあるからな」

「それなら覚えておくことにするよ」

「そうか……それで、身体の方はもう治ったのか?」

「やっぱり、分かっていて見逃してくれていたのか……」

「回復薬は自作か?」

「まぁ、そうだね、待っていてくれたお礼にそれくらいの情報は持って帰ればいいと思う。もっとも、生きて帰れればだけど」


 そうは言ってみるものの、自分で言っていてなんだが、発言の主が逆な気がする。

 普通に考えて生きて帰るかどうか分からないのはこっちだ。まぁ、でもこう言っておけばブラフくらいにはなるかもしれない。


 ここからは撤退を視野に入れて戦う。この場での相手の討伐は考えない。


「こちらからも物理武器が亡くなったことだし、それじゃあ、魔法戦でも始めてみるかな」


 そう言って、回復薬と一緒に取り出していたナイフを投げつける。もちろん、魔法反発の効果付きだ、古代魔法に近い魔法を使われると少しあれだが、物体停止などの事象再現系はやはり発動が楽な現代式に魔法になっている。であるならば、魔法反発である程度の魔法は何とかなる。

 投げたナイフにはフラティースヴァイパーというモンスターの毒が塗ってある。

 そのモンスターは丸くて短い変わった蛇だ。歯も微妙に平らで鋭くないし、咬合力もかなり弱く、家畜動物の皮製品すら牙で貫けないという、普通の動物の蛇より弱いんじゃないかというかなり変わったところがあるが、持っている毒だけは異様に強い。

 素手に噛みつかれでもしない限り人が毒に侵されることはないだろうが、もし毒を受ければ5分も経たないうちに取り返しのつかない重症になる。それほどに強力な毒だ。


「なるほど反発か、シンプルだが、悪くない」


 そのナイフは簡単に躱されてしまうのだが、問題ない。男の後ろの方まで飛んで行ったナイフはセラにキャッチされ、振り下ろされる形でもう一度男を襲った。


「その作戦も悪くないが、少々視線が勇者の方に行き過ぎだ」

「うわっ!」


 僕の視線からか、セラの行動はばれていたらしく、腕を掴まれてこちらの方に投げ飛ばされてしまっていた。その際にナイフも奪われている。途中まではセラも放すまいとしていたが、上手いこと腕を掴まれて動かされている時に刺さりそうになって取り落としてしまったのだ。


「ごめん、ナイフ取られちゃった」

「それ自体は良いんだけど、魔力の方は大丈夫」


 ナイフに刻まれたもう一つの魔法(ポーチ内への転移)を起動させながら、セラに尋ねる。

 こちらが場の魔力を使うことを知っているのか、先ほど使われた火魔法は随分と効率の悪い方法で発動されたもので、魔力を根こそぎ使われてしまったので、あまり多く残っていない。なので、ちゃんとした魔法を使うならば、あとは持っている武器や防具、道具にある魔力を使うことになる。

 僕はもともと、錬金術で作ったものや魔術具を多く所持していて、それらを使う戦い方をするのでそこまで大きな問題はないのだが、セラは武器を持って戦いながら、装備から魔力を使って発動する魔法でその補助をする戦闘スタイルだ。残存魔力で戦闘力が大きく変わるだろう。

 なので、こういう会話をするが、それはそうとして、撤退を視野に入れるということをハンドサインで知らせる。一応、会話での意思疎通は小声で行うつもりだが、撤退することは相手から隠した方が撤退しやすいと考えられる以上、声に出さずに知らせることにしたのだ。


「まぁ、魔力は大丈夫だけど、どうするの?」

「そうだね、取りあえずは隙を見つけるために逃げるとしよう、補足されていない方が隙も出来るだろうしね」


 ポーチからいくつか墳煙球を取り出して、地面にばら撒いた。


「なんだ、それは、また魔法具か?」

「さてね、それじゃあ僕らはここで一旦退かせてもらうよ」

「逃がすと思うのか?」

「偵察なら逃がしてくれると助かるんだけどな」


 相手が地面を転がる噴煙球に魔法消去を試みているようだが、それは無駄だ。これは錬金術で作った便利道具で、煙を吐きだすだけの玉だが、そこに魔法的な要素はない。発動時には魔法もちょっと使うが、一度起動しまえば止めたくても止められない撤退用の道具だ。

 まぁ、本格的な撤退を隠すための一時撤退な訳だが、一回撤退を偽装すれば本当に撤退するとは思わないだろうという魂胆のね。


「さあ、逃げよう、セラ」

「うん!」


 おまけとばかりに煙の中にいくつか魔法具を放り投げてから、その場から走り去り、建物の陰まで移動してきた。


 壁が一面崩壊しているし、屋根もぼろぼろだが、身を隠すにはいい建物だ。逆を言うと三面が壁に囲われているし、屋根も完全には駄目になっていないということだからだ。


「わざわざハンドサインで知らせたのに撤退って言っちゃっていいの?」

「ああ、この後もう一回打って出るからね、そこで相手にダメージを与えたらその隙にもう一回身を隠して、その後に転移魔法で撤退する。もちろん明らかに倒せそうになったら、討伐も考えるけど、撤退できるだけの体力は残しておいてね」


 と話していると、爆音が鳴り響いた。

 いくつか投げた魔法具は一定時間経つと魔法が発動するようにしてはあるが、煙の中で発動させるのだ、わざわざこんな爆音が鳴るような攻撃魔法は使ってない。

 陽動のために音だけの魔法は使おうかとも思ったが、相手の行動かどうか音で判別しにくくなると思いあえて使わなかったのだ。煙を晴らすために単純に風魔法を使う可能性も考えられたが、転がっている魔法具は音が出ない土魔法多めなので、それの対処をしつつ煙を払える炸裂魔法を使うと考えたのだ。

 そして、予想通り炸裂魔法を使ったということは煙は晴らされたと考えてもいいだろう。

 さて、ここまでは予測通りなのだが、予想外だったことが一つ。


 先ほどから爆音が鳴りやまないことだ。

 身を隠すなら建物の陰ということを予測されたのは想定内だが、どうやら魔族の男は、そこを探すでもなく炸裂魔法で破壊していっているらしい。

 建材や舗装に使われている煉瓦がはじける音と建物の崩壊する轟音が爆発音に混じって聞こえてくる。

 このままではいずれここも破壊されかねない。

 そうなったら見つかるよりも不味い、それに、一つ一つ探しているわけでもないだろうし、音の間隔からして想像よりも早くその時は来るだろう。


「ジョン、これ不味くない?」

「ああ、そうだね、セラ、結構不味いかもしれない……」


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