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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
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1話・冒険の始まり 後

 森の中、僕達は魔獣を探すために歩き回っていたが、その痕跡はすぐに見つかった。

 森の一角の木々がなぎ倒されていた。それに、葉や小枝で作られたベッドのような物もある。どうやら、件の魔獣はここを住みかにしているようだ。


「凄いね、ジョン。寝床もあるよ。前回のミノタウロスとは大違いだよ」

「いや、前回のは遺跡に住みついたものだったから、自分で巣をつくらなかったんだろうけど、ここは森だからね、ある程度の広さが欲しかったから木々を倒して、そのついでに寝床を作ったんだと思うよ」

「ふーん……」


 今はいないけど、少ししたら戻ってくるだろう。せっかくだから罠を仕掛けるのも悪くはない。


「気配はないし、ちょっとした魔法陣を描く時間はあるかな」


 魔法陣を描く場所に目途をつけてそこに向かって歩いていると、セラが首を傾げた。


「魔法陣を描くって言っても、ここ草とか生えた土の上だよ、あんまり隠匿出来ないんじゃないの?」

「まぁ、罠として使うんじゃないなら、別に相手に見えてて問題はないとは思うけどね、相手も魔獣だし魔法陣を見られたところで解読されて対応されるとも思えないし」

「じゃあ、見え見えの描くの?」


 最初はそのつもりだったけど、せっかくなら罠として使える隠匿性のあるものを描くことにした。


「いや、ちゃんと隠匿するよ。この際だから、セラも覚えるといいよ」


 セラは様々な機関で色々なことを学んできたので、単純な知識量は凄いが、実践的なからめ手などは意外と知らないことも多い。とはいえ、才能と柔軟性からか勝手に正解を導きだすこともあるのだけど……


「魔法陣や魔法式を描くときは魔力記述と物理記述があるのは知ってるよね」

「それは流石に基本だしね。魔力記述は素早く描けるのと、場所を選ばないこと、あとは記述語の秘匿性に長けるけど、環境や外部からの影響を受けやすいことと、持続性が微妙なことが弱点だよね。物理式はインクを使って描くなり彫り込むなりするから、描くだけならだれでもできる点とか、描かれたものを壊されない限りは残るから持続性に優れるけど、形に残さないといけないから、隠匿するためには土をかけたり物理的に隠すしかないのと、物理的に描いたものを壊されたり、崩されたら効力を失うから専門的な知識がなくても破壊が用意なのが弱点でしょ」

「まぁ、そうだな」


 学習機関で習うならそんな風に習うのかもしれない。セラの言っていることは大体あっている。だが、実際のところは魔力式は早く描けることと場所を選ばないことを以外は大きなメリットはない。それが師匠から実践などを通じて学んだ僕の魔法陣や魔法式に対する認識だ。


「じゃあ、今回は魔力式にするの? でもいつ帰って来るか分からないし、相手は魔獣でしょ、持たないんじゃないの?」

「そうだね、魔力式だと多分持たないんじゃないかな」

「じゃあ、物理式? でも……」

「大丈夫。かかる時間に差はあれど、基本的に物理式は割となんでもできるんだ」


 腰に付けた目的のものをイメージのマジックポーチに手を入れる。手に瓶の感覚を感じたらそれを掴んで取り出す。


「それは?」

「粘土質の土とそれと同じくらいになるまで細かくした魔石を混ぜん込んだ水だよ」


 軽く瓶を振って水と混ぜてから蓋を開ける。そして、魔法陣を描く用の蓋を取り付ける。


「それで魔法陣描くの?」

「そうだよ、この蓋を着けておけば液体でも陣を描きやすくなる。後で一個あげるし使い方も教えてあげるから覚えておくと何かと役に立つと思うよ」

「うん、分かった」


 地面が濡れて魔法陣が描かれる。これは、地面を泥化させて陥没させる魔法とその数秒後に硬化させる魔法の二種が刻まれており、捕縛などで使える組み合わせの魔法陣だ。


「なるほどねー、でも、これ全然隠匿できてなくない?」

「まぁ、このままならそうかもしれないけど、ちゃんとひと手間加えるだけで隠せるよ」


 周囲の魔力を集めそれを使って範囲を指定した蒸発の魔法を発動させる。俗にいう乾燥魔法で、洗濯物や髪を乾かす際に使うことがある魔法だ。


「この際、過剰に魔力を集めておくことがコツで、こうすることによって魔石に含まれていた元々の魔力が塗り替えられて魔術的な面でも隠匿ができる」

「なるほど……考えられてるんだね」

「濡れたままでいいなら水だけでもいいけど、乾かすと発動する確率が低くなるから、魔石を混ぜ込んであって、その隠匿のために設置個所にあう物を砕いて混ぜておくと乾いた後分かりにくくなる」


 よし、これで魔法陣の設置は完了。後は待つだけだ。


「それで、どうする? 一旦隠れる?」

「そうだね、木の上に身を潜めよう」

「りょうかーい」


 僕達は木の上に登り、互いに光屈折の魔法を使用して視覚的に身を隠すことにした。

 そうしてしばらく待っているといくつかの小型のモンスターの亡骸を持った、魔獣が現れた。

 僕らには気付いていないようだが、何かを感じ取ったのかその辺りの気をなぎ倒して、まるで棍棒のようにそれを手にした。


「凄い力だね、でも魔法は苦手そう。前回のとは完全に別物だね」

「ああ、A型のタイプだね。前回戦ったのはB型のタイプだったから関節や筋肉の可動域以外は別物と思って戦った方がよさそうだね」


 そう言いながら、魔獣が指定の場所に付いたのを確認した僕は魔法陣を起動させる。


「ッ‼ グモッ‼ モ゛ォオオオォォォゥ!!」

「よし、かかった!」


 そう僕が言い切るよりも先にセラが魔獣目掛けて飛び降りていた。


「はあぁああ!」


 鞘から剣を抜き放ち、落下の速度と体重を乗せて一閃、魔獣の肩から腰にかけて袈裟斬りが決まったかのように見えたが、直後にセラが後ろに飛んで距離を取ったということは少し甘かったということだろう。

 魔法陣は上手いタイミングで決まったと思ったが発動と共に反応されたことと、魔獣のパワーが想像以上だったこともあり下半身を地面に埋めるにとどまっている。本来ならば胸辺りまで埋めるつもりだったのだが、やはり魔獣は油断はできないということか……


 魔獣が手にしている木を振り降ろすがセラは既に身を引いているため、それは地面を叩いた。

 あの魔獣、凄い力だ……大地が振動して、僕がいる木も大分揺れた。それに、片手を地面について、地面から抜け出そうとしている。普通なら抜けられることはないだろうし、むしろチャンスとも取れる行動なのだが、ミノタウロス系のA型は近接戦闘特化の筋力高めの魔獣だ、もしかしたらもしかするかもしれないと考えると気が抜けない。

 脱出行動を妨害しないといけない。そう思ったのはセラも同じようですぐに切りかかった。であるならば僕が取る行動はそれの補助だ。


「こっちだ、ミノタウロス!」


 選んだ魔法は古代魔法の地と火の混合魔法。針状の金属をいくつか降らせてやる。そうすれば、魔獣は目を守るために手を使わざるを得ない。

 狙い通り手にした木で掲げてこちらの攻撃を防いできた。だが、それはセラの前では大きな隙になる。

 高速の一振り。一瞬にして、その剣は魔獣の首を斬り飛ばした。


「よしっ! やったよー、倒したよー!」


 そして、あろうことか、セラは魔獣に背を向けてこちらに手を振って来た。


「ばかッ! 油断するなっ……」


 その瞬間、魔獣の手が動き、振り払われた木によって、セラが弾き飛ばされた。


「セラッ……!!」


 一瞬のことだった、気付けばセラはすぐ近くの木に背中から衝突し、地面に腰をつけていた。


 まずい……打ち所が悪ければ死にかねない威力だ。

 急いで下に降りてセラの元まで駆けつける。


「あはは……油断しちゃった……」


 僕がすぐ近くまでよると、セラはゆっくりと顔をあげて力なく笑った。

 身体を満足に動かせてない様子と、頭から血が流れているがその様子は非常に痛々しくはあるが、そんな様子のセラを見て、僕はほっと一息つくことができた。

 とりあえず、一安心だ。意識がある程度なら何とかなる。

 ここは魔獣のテリトリーだ、あまり油断は出来ない。だが、一刻も早い治療は必要だ。とりあえずの回復薬を飲ませてから、セラの体を触りながらどの程度の怪我をしているか確かめていく。


「いたっ! いてて……」

「だからあれ程油断するなって、言っただろ」

「ごめん……」

「今回のことを気に少しは気を付けるようになってくれればいいんだけど……」

「えへっ……努力します」


 そうは言ってるけど、たぶん完全には治らなさそうだ。まぁ、セラも本当に大切な場面では気を抜くことはないだろうし、そこは信頼してるけど、こういった普通にやっても勝てるだろう戦闘で大ダメージを受けるのは良くない。アイテムの消費的にも、こちらの心情的にも。


「左肩が外れているのと、右腕が砕けている。いくつか内臓がつぶれているのと、右側の肋骨が数本折れたり砕けたりしている。受け身を取ったみたいだから首から上は軽い裂傷だけみたいだけど、これは一歩間違えたら致命傷間際の傷になっていたよ」


 セラの状態に合わせて複数の薬や魔法を使い治療を始めた。

 久々の大怪我だ。ここ半年はこのレベルの怪我はしなかったはずだが、やはり今日は少し気が抜けていたのだろう。最後にちょっとしたやらかしをしてしまったと言うところだろう。

 だが、魔獣相手ならちょっとしたやらかしも死につながりかねない。本当に生きていてよかった。出発初日で勇者死亡は流石に多方面に申し訳が立たない。

 反省しろと言う視線をセラに向けてみると、薬と魔法の効果で少し回復した彼女はニコリと笑って見せる。


「大丈夫、そこはちゃんとまだ戦えるように右肩と両足に被害がいかないようにしたから」

「そういうことじゃない」


 治療に集中したいところだったが、文句を言わずにはいられない言葉につい口と手が出た。

 パチン。彼女に軽くデコピンを当てた。


「痛いって」

「ちゃんと反省しないのが悪い」

「うぅ~、勝ったからいいじゃん」

「……はぁ」

「うわっ、なにそのため息っ」

「いや、別に……」


 確かに勝ったは勝ったけど、僕の治療ありきの勝ちで実質引き分けのようなものだ。まぁ、僕がいなかったら最後の油断はなかったのかもしれないから実際はどうなのか分からないけど、だとしても今回の戦いはあまりほめられたものではない。相手が魔獣で無く魔族だったらと考えると死んでいてもおかしくはないのだから。


「今日は一日リンド村に滞在ね」

「えっ……」

「だって、セラは早く旅立ちたくて、油断しちゃったわけでしょ、だったら罰としてはリンド村に一日滞在がちょうどいいかなって」

「つ、次から気を付けるから……」

「駄目、たぶん村の人がしっかりもてなしてくれるだろうし、それに答えるためにも一日滞在すること」

「むぅー……」


 口をとがらせて拗ねたって、これは決定だ。そもそも村の歓待を断るほど大急ぎの旅ではないのだ、正直セラが先を目指さないのであればどちらにせよ彼らの歓待を受けるのが普通だろう。

 じっとこちらを見てくるセラは無視をして治療を進めていく。彼女の視線は感じるが、黙っている分此方も応答せずに済むので集中できるというものだ。


「それにしても、こんな感じに寝床を作ったり、倒した木を武器のように使うなんてすごかったね」


 治療も終わりかけという頃、村に一泊するのは覆らないと察したのだろう、セラはそんなことを言った。


「そうだね、モンスターに比べると知能が高めではあるのは知っていたけど、武器とか与えれば普通に使ってきそうなほどだったね」

「そう考えると、持っていたのがその辺の木で良かったって本当に思うよ。斧だったら、僕はもう真っ二つにされていたってことでしょ」

「そうだね、臍から上と下で両断されていたと思うよ」

「うっ……ボクがそうなっても、ジョンは助けてくれるよね……?」

「努力はするけど、そこまで重症だと半々ってところだから、過度な期待はしないでね」

「……はーい」


 治療を終え、怪我や痛みが残っていないかのチェックを済ませるとセラが立ち上がる。


「よしっ、完全復活」

「本当に次からは気を付けてくれよ」

「分かってるって」


 そう言って笑いながら親指を立てているが、やっぱりちょっと不安だ。


「いやー、強かったねー、あれ実は魔族だったりしない?」

「明らかに違うでしょ」

「えっ、なんで? 二足歩行していたし、寝床も作ってるし、へし折っただけの木とはいえ武器も使っていたよ」


 そう言ってセラは魔獣が埋まっていた穴を覗き込んだ。

 学園を出ているから、魔獣と魔族の違いも習っていそうな物なんだけど、なんか微妙に間違っている気がする。


「そりゃ、魔法は使っていなかったけど、ほら、前に戦ったB型の方は魔法使ってたでしょ、ならこのミノタウロス系の魔獣は実は魔族でしたー、みたいなことだってありえるんじゃないの?」

「いや、ありえないよ」


 地面の硬化を解いてから穴の下に降りる。埋まっていたのは下半身だけだったにもかかわらず、僕の首ほどまではある、こうしてみるとかなり巨大な魔獣だったと感じるものだ。

 魔核の魔石を拾うと、穴から出てセラの近くに戻った。


「なんで、魔族じゃないって言いきれるの?」

「いやだって、知性が明らかに低かったし」

「えー、それだけ?」

「それだけ……って言うか、そもそものところかなり広義にはなるけど、魔族も魔獣も本質は一緒だからね、そりゃにはすると思うよ。ただ、魔族的にはかなり侮辱されている気分になるとは思うけどね」


 人間が動物って言うのと同じで、魔族もかなり広くとれば魔獣と言えないこともない。あとは獣人がモンスターって言うのも同じ感覚だろうか。


「いや、でも知性あったじゃん」

「にしては言葉もしゃべらないし、魔法も使ってこなかったけどね」

「魔法に関してはこの前のやつが使って来たじゃん」

「そうだね、でも魔族なら大陸の言葉くらい普通に話すと思うよ」

「それはそうかもしれないけどたまたま勉強していないだけかもしれないじゃん」

「だとしても、住処がこんな感じだったら魔族が判定したとしても魔獣認定されてたんじゃないかな」

「本当に?」

「当物にだって賢いのがいるでしょ、たぶんそんな感じだと思うよ」

「うーん、そっかー……そう言われるとちょっとだけ納得するかも」

「でも、あの魔獣が賢い方だったというのは本当かも知れない。村に被害が出る前に対処できてよかったよ、お疲れセラ」

「うん、ありがとう、ジョン」


 いつものように頭を撫でてやると、セラがニッコリと笑った。少しは機嫌が直っただろうか。流石に魔獣討伐して御小言ばっかと言うのもあれだから、褒め言葉はやはり必要だろう。僕のなんかでいいのかとは思うけど、セラ場満足してくれるならいくらでも誉めてやる気はある。


 それにしても、早めに対処できてよかった。アレは並の騎士じゃ相手に出来はないほどの強さの魔獣だった。

 僕が罠を用意したり、気を引いたりしたとはいえ、セラは二回剣を振るっただけで倒してしまったのであまり強くは感じなかったが、実際は戦闘慣れした騎士が殺されてもおかしくない強さだ。最後の一撃でセラが重傷を負ったこと自体がそれの証明となっている。

 セラはいくつかの防御魔法や強化魔法が常に体にかかっているので、並の攻撃じゃ大した怪我を負わせることはできないのだ。

 それをあんな簡単に吹き飛ばし、あれほどの怪我を負わせた……これからの戦いが不安になる一撃だった。

 被害が出る前に僕たちが対処できて本当によかった。最悪の場合、村が壊滅していたはずだ。


「まぁ、村が宴を開いてくれるんでしょ、それなら一泊くらいいかな? 良く考えたらこう言うのも旅っぽいし」

「宴を開いてくれるかどうかは分からないけど……、まぁ、セラがそれでいいなら頼んではみるよ」

「ほんとっ!? やった、ありがとう、ジョン!」


 分かりやすく、態度を変えたセラがウキウキ気分で村へ足を進める。


「いや、本当に開いてくれるかどうかは分からないからね」


 そう呟いた僕の声が彼女に届いているかは怪しいものだった。

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