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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
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閑話 シャフノッツェトールとフストリムワーネ

 ウットテリムを出て1週間ほど。

 最初の予定通り、時折採集をしながら、徒歩で移動をしていたおかげもあり、薬の消費もほぼないし、採集した物やそれで作った薬などを売ればそれなりに路銀も稼げる見込みだ。

 シャフノッツェトール王国にはもう既に入国しており、目的地であるトレイトルムに明日の昼ごろには到着するだろうと言った所である。ウットテリムで買った食料はそう多くはなかったので、セラが勝手に収穫した野菜や、途中で襲ってきた魔獣の肉などには割と助かった部分がある。

 手持ちの食糧での食事は今晩が最後なので、残った野菜などを使い切る目的でもいつもより少しだけ量の多い食事となる。


「セラ、出来たよ」

「んー、分かったー、今行くー」


 セラは、もう一つ結界魔法を発動させると、たき火の付近まで戻ってきた。


「今日は何?」

「肉は串焼きに、野菜などはスープにした」

「うん、いつも通りだね」

「まぁ、移動も後半というか、街に着く前だし、あんまり凝ったものは作れないかな……でも、パン擬きはある」

「え、なにそれ」


 水で伸ばした粉を焼いただけのものだ。窯もなければ発酵させる時間もなかったので、薄焼きののぺっとしたものでしかないのだが、思ったよりはセラは喜んでくれたようだ。


「やっぱり、せっかく肉を食べるなら、パン的な物は欲しいよねー」

「まぁ、そういうのなら、次はパンの方をちょっと多めに買い込んでおくよ」

「やったー」


 セラの真似をして、串から外した肉を薄焼きのパンで包んで口へ運ぶ。それっぽく作っただけだし、特別美味しいわけじゃないけど、主食があると確かに少し贅沢している感じがする。というより、無いと旅の途中のありあわせ飯の感じが出てくるといったところだろうか。


「……ほうひえは(そういえば)……んぐっ、なんでうちの国と同盟を結んでいるんだっけ?」


 いま口をもごもごと動かしながら話していたセラが勇者であることを除いても簡単にこの国に入れた理由の僕たちが簡単に入れた理由が、フストリムワーネ王国と同盟国であるからだ。


「いろいろと足りない部分を補い合えるというか、お互い利点を生かせるからだね」

「魔法研究と武力だっけ? そういえば戦士が多いんだよね」

「そうだね」

「戦士と騎士も似たようなものでしょ、そんなに数多いの?」

「……まぁ、そうだね」


 自由度の違いとか、収入の安定とかで違いはあるけど、戦士と騎士は似たようなものだ。正確には結構違いがあるのだが、シャフノッツェトール王国に置いては大体あっている。人数の多さもそれに関係している気がする。

 一応、騎士と違って何らかの理由が有ったりすれば、普通に土地の移動も出来るし、戦士ギルドで報酬を受けとる時に、手数料が少なくなったりとメリットはあるんだけど、この国の戦士はフストリムワーネの騎士と同じく、一ヶ所に留まってモンスターを狩ってその土地を守ったりしていることが多いと聞いた。

 前に師匠と来たときも戦士たちは大体そんな感じだったし、たぶん今もそんな感じだと思う。


「村とかにも寄ってないから、国を移動した感覚が薄いねー」

「国境とかも特に見張りを置いていないから、ほぼほぼ出入り自由みたいな形だし、セラがそう思うのは仕方ないかな」

「うーん、番人的な人に一旦止められて、勇者の名乗りを上げるくらいことはあるかなと思ったのに」

「止められるかどうかは置いておくとして、魔族と争っている中だから、余程元から仲が悪い国同士の国境でもない限り、わざわざ審査されるようなことはないと思うけど……」

「でも、だからこそ、調べられる可能性もあるんじゃないの?」

「まぁ、軽く質問されることはあるだろうけど……でもそのくらいだと思うよ。もしかしたら、前線近くの国はセラの言うような取り調べの可能性とかもあるかもしれないけど」

「そっかー、じゃあそう言った出来事は後半のお楽しみだね」

「いや、後半にそういった事が起きるかもしれないけど……別に楽しくはないと思う」


 僕はそう思うけど、セラのことだから、本当に楽しみにしている可能性がある。正直なところ取調べなんて、荷物の多さから時間はかかってしょうがないとことなので、なるべく避けたいと思う出来事の一つだ。セラがフストリムワーネ王国の勇者という肩書があるのである程度はスルーしてくれそうな気もするけど、そこでスルーしてこないほど厳重な警備をされているなら、バッグの中身全て調べられるだろうし、間違いなく時間がかかる。

 前線と呼ばれるような場所はフストリムワーネ王国から結構離れているし、そもそもフストリムワーネ王国自体勇者を指定するのもセラが初めてだから、知名度も微妙だろうし、それまでに何かしら主立った功績をたてないと、間違いなく全部調べられることになる銅から、それを考えると今から非常に面倒くさい気持ちになってくる。


「ごちそうさま! それじゃあ、もうちょっとなんだし少しだけペース上げて行こう!」

「……まぁ、いいけど、走るのは無しだからね」

「分かってるって!」


 そうは言っているけど、セラのことだから「これは早歩きだから」といって、普通の人が走るのよりもはやい速度で動きそうな気もする。


「早歩きとか言って、クローラビットより早く移動するのもなしだからね」

「う……わ、分かってるって」


 僕たちは荷物を纏めて、再びトレイトルムに向かって歩き出した。

 本当は野宿してから向かうはずだったのだが、このまま夜も歩くなら門が開くくらいには着くかもしれない。

 少し体を休めたい気持ちはあるけど、セラが動く気満々な以上、休むのは付いてからになることは間違いないだろう。

 そして、止めたとはいえ最終的に早歩きになることも間違いないと、僕は薬瓶を一つ取り出すのだった。


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