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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
2/29

1話・冒険の始まり 前

ちょっと長かったので二つに分けました。

 僕とセラが魔王討伐のため旅に出てから1年。ここまでは連携の強化や、王都周辺の魔獣退治などで、旅に出たと言ってもほとんど王都周辺にいて、時には王都に戻ることもあった。

 だが、王都周辺にいる強力と噂される魔獣はほとんど倒し終え、一ヶ月前、ついに旅立ちらしい旅立ちをすることが出来た。


「ジョン、ボクたち、やっと冒険に繰り出せるね」

「まぁ、一応は先月には出発していたって扱いなんだけどね」

「でも、実際は周辺のモンスターやら魔獣やらの退治ばっかりで全然王都から離れられてないじゃん、似たようなこと1年近くやってきていたじゃん」

「それはそうだね」

「でしょー」


 これから魔王と戦うための旅が始まると言うのに、セラはなんだか軽いノリでウキウキしているような気がする。ほんの少し不安だ。


「それで、ジョン、最初はどうするんだっけ、確か真っ直ぐ魔王城を目指すわけじゃないんだよね」

「そうだね、まずは少し行った所にあるリンド村というそこそこの村を目指す感じになるね」


 王都と魔王城がある魔族の町を直線で結んだルートを目指すという選択肢はあったのだが、いくつかの問題があったため、今回のルートをたどることになった。

 その問題と言うのだが、まずは、魔族の戦闘力も文献や人から聞いた分でしか知らないということ。今回辿るルートは、魔族が関係している可能性がある場所の付近を通ったりはするが、前半はあまり魔族の影響を受けていない、完全な人間領と呼べるようなところや、時には獣人領と呼ばれる場所を通るが、魔族と接触することになろうとも比較的撤退しやすい場所を進むことになっているため、一番不安である初戦や、二回目三回目という最初の方の戦闘で負けそうになったとしても命を落としにくいような道筋を選んでいる。

 次に、その道では旧人間領だったり旧獣人領と呼べるような、魔族に占領された土地を多く通ったり、魔族領に入ったところで、おそらくこの辺りという感じ想定される魔王城のある場所まで遠かったりと、通る必要のある未知のエリアが多いというのもある。先ほどの問題にもつながるのだが、もしもの時に撤退しにくいのと、戦闘にも慣れて今より成長しているであろう旅の後半であるならともかく、割と序盤の方からそんな道のエリアばかり通るのは危険すぎるのだ。

 ということで、それなりに迂回しつつ、フストリムワーネ王国や僕の師匠の伝手などを使って、協力者の力を借りながら敵地へと向かうこととなった。


「でも、いろんなところを回れるなら、ちょっとした旅行気分だよね」

「大分気軽に言うね、セラ」


 とてもじゃないけれど、僕からすればそんな旅には思えない。

 確かに勇者の力を持っているセラは僕から見ても凄いけど、彼女自体結構抜けているところもあるし、精神的に未熟なところも多い。


「へへっ、大丈夫だって、僕とジョンが揃えば最強だからね」

「まぁ、確かに人間でいったら結構な強さではあるけど……」


 僕は師匠ほど強くないし、セラだって他の紋章持ちと比べて極端に強いってわけでもないと思うから、最強かどうかは怪しい。

 それに、もし人間最強コンビに近かったとして、それくらいで複数の魔族や魔王を何とかできるのであれば、今、人間や獣人と魔族の戦いで魔族が優勢になっているとは思えない。やっぱり楽観的に動くのは僕には難しい。


「いーや、最強に違いないから大丈夫」

「いったい、どこからそんなに自信が出てくるんだ」

「そりゃ、もちろんジョンがいるからに決まっているじゃん」

「僕よりもセラの方が強いし、最強にはならないと思うんだけどな。確かに、セラとの連携で行ったら圧倒的に勝ってはいるだろうけどさ」

「じゃあ最強間違いなしってことで」

「まぁ、セラがそう思う分には止めはしないけど、油断だけはやめてね」


 天真爛漫というか自由本邦というか、そんなセラであることを悪いとは思わないし、彼女のいい所ではあると思うから、無理に変わってほしいとは思わないし、変わってほしくないからこそ僕がお供として付いている。だから、これはこれで、いいと言えばいいんだけど、ここまで楽観的で自信満々だと流石に不安にはなってくる。


「よし、それじゃあ、それなりに急いで移動しよっか」

「この辺りで無駄にゆっくり進む理由はないし、走るのは構わないけど、もしもの時は戦えるように、体力を消費するような全力疾走はやめてよ」

「ボクはそれでもいいだけど、ジョンもいるしね」

「そうそう、僕に配慮してくれ」


 そもそもセラが全力で走りだしたら、魔法や薬を使ったとしても追いつける気はしないけど、僕の運動能力や体力のことを考えてくれるなら、大分手を抜いてくれるとありがたいところだ。

 セラが準備運動のつもりか軽く屈伸している隙に、僕は身体能力増強の薬を口にする。今回飲んだものは小程度の品質のものだが、十分だろう。というか、こんな戦闘でもなければ重要な行動でもないただの移動で中品質以上のものを使うのは勿体なさすぎる。能力を増強するような薬品は他の薬に比べると作成コストが高いのだ。


 セラが走り出すのを見て、それを追うように僕もその場から駆け出す。


「そう言えば、そこそこの村って言っていたけど、リンド村ってどのくらいの規模なの?」

「そこそこはそこそこ……まぁ、僕らの住んでいたラフツと同じくらいかな」

「あー、なるほどね」


 僕らがかつて住んでいたラフツ村は20前後の家がある村だった。基本的には採集と農業で生活が成り立っており、定期的に森の様子などの報告を近くの街であるリヴまで行って報告したり、森で手に入れたものを売ったりして、そのお金で武器や農具を買ったりしている村だった。


「懐かしいなぁ」

「僕も師匠の元に行ってからは帰ってないし、結構懐かしいよ」

「またいつか帰れたらいいんだけどね」

「そうは言っても僕らは村長の家の屋根裏を間借りしていただけだし、いまさら帰ったところで住む場所があるとは思えないけどね」

「それもそうかー」


 僕らを育ててくれたのには感謝はしているけど、今となっては村にいた時間よりは外にいた時間の方が長いわけだし、懐かしさはあるけどそこまで思い入れが強いと言うわけでもない。無理に変える必要もないように思える。


「まぁ、それなら、ボクらで勝手に家を建てて二人で過ごしてもいいとは思うけどね」

「全部終わったらそれも悪くないかもね、幸い魔法については二人ともそれなりに出来るわけだし、師匠みたいに研究をしてそれを売ったりしていけば普通に生活は出来そうだし」

「ジョンのお師匠さん凄い人だもんね、ボクたちもそうなれたらいいね」

「まぁ、魔王を倒せたら嫌でもなれるとは思うけどね」


 魔王を倒したとなれば、地位名声はかなりのものになるだろう。その気になれば、国の運営にも関われるほどだろう。

 しかし、僕もセラもそういったことには興味がない。だが、王都やそれなりの規模の街にいたら、こちらにその気がなくても利用しようとする者は現れるだろうし、勝手に巻き込まれてしまうだろう。なので、魔王を倒した後、二人でゆったりとした日々を過ごすのであれば、師匠のような生活になるだろう。


「魔法とか魔術具の開発かー、うん、なんか楽しそうだね。ボクらの作るものなら結構高く売れそうだね」

「もしかしたら、あんまり張り切りすぎると、高すぎて誰も買えないとか、使用者への能力の要求値が高すぎて使える人が限られ過ぎるとかそう言った問題が起きるかもね」

「ああー、言われてみればそうかも……まぁ、でもそこを何とかするのが腕の見せどころだよ」

「まぁ、そうだね、使用が難しかったり、発動条件が厳しい魔法を使いやすいように補助するのも魔法具の役目だからね」

「あー、楽しみだなー」


 飛び掛かって来た小型のモンスターを切り捨てながらセラが笑いかける。

 今のは……多分……クローラビットだろう。一瞬だったのでもしかしたら別のモンスターだったのかもしれないけど、恐らくラビット型のモンスターで間違いない。

 全体的にあんまり強くないラビット型とはいえ、急に飛び出してきたのを一瞬で倒すのは流石だとしか言えない。


「全て終わった後のスローライフのことを考えるのもいいけど、そのためにも魔王を倒さないとだね」

「うん、任せてよ」

「いや、任せきりはしないよ、それじゃあ何のために師匠に弟子入りしてまで、僕がついてきたのか分からないからさ」

「あはっ、それもそうだね」


 その後少しの間、僕らは会話を続けたが、走っている時間が長くなるにつれ、自然とセラの足の速度も上がっていく。僕も追いつくためにペースを上げるのだが、セラと違い会話するほどの余裕はなくなっていく。後半はセラの話を聞くだけみたいな感じになっていた。


「村があるよ、ジョン。ね、リンド村ってあそこ?」

「……うん」


 セラの問いかけに僕は小さくうなずく。なんとか中品質の薬に手を出す前に辿り着いてよかった。

 村が見えて来たということもあって、徐々に速度が落ちていく。


「あれ、門番が立ってる、珍しいね」


 セラに言われて村の入り口の方を見てみると確かに簡素な槍を持った門番が二人立っていた。

 こういった村の門番は、大きな街で建てられている門番とは役割が違う。

 大きな街の門番は町に不信な者やモンスターを入れないため排除することを目的にしているが、村の門番は基本的に村に近づく危険をいち早く察知して知らせるために立てられる。なので、戦闘力はそんなに高くない。村で健康な成人男性が交代で任せられる程度のものでしかない。

 また、今の時刻、まだ日が沈み始めてもいないこの時間外に門番を立てていることは少ない。夜など多くの人が寝静まる夜ならまだしも、お昼は大抵農作業する者や周囲で採集をする者がいるので、わざわざ門番を用意する必要がないからだ。


「なにかあったのかな」


 セラが足を止めて、考えるようなそぶりを見せたので、僕も足を止めて数秒欠けて息を整える。

 改めて村の方を見てみるが、昼飯の時間でもなければ、日暮れでもない。なのに異様に人影が少ない。これは確かに平時ではないような気がする。


「そうみたいだね、人が少なすぎるし、もしかしたら強いモンスターでも出たのかもしれない。建物は特に損害がなさそうだから、取りあえず村自体はまだ襲われてないみたいだけど……」

「ついに冒険が始まるのかなと思ってたけど、結局は王都周りの害獣退治じゃん」


 セラがぶう垂れ始める。最初は全然だった癖にここ半年はずっと早く色々なところに行きたいと言っていたから、気持ちは分からないでもないが危険なモンスターや魔獣を倒すのが僕たちの仕事だ。

 そういう慈善活動というか、救助活動というか、そのような行動をとる際に問題が置きづらいように、またそういう活動をするからこそセラは国の名前を名乗らせてもらえているのだ。


「文句を言っても仕方ないだろ、僕たちの仕事だ」

「そうだけどさー……」

「というか、最終的に魔王を倒すと言っても、途中ででてくるモンスターや敵対する魔獣やに魔族は倒さないといけないんだろうし、結局どこに行ってもやることは変わらないと思うよ、相手が違うだけで」

「でもー、色々な土地は巡れるし、その土地ならではのものとかみられるじゃん」


 セラは笑顔でそんなことを言うが、この旅はそんなに気楽なものじゃない。ただでさえ強い物が多い魔獣の中でもより強力なものと戦うこともあるだろうし、それよりも強いと言われる魔族とはまだ戦ったこともない。最終的にはその魔族を総べる魔王を倒さなければいけない。気を抜かなくともいつ死ぬかもしれない、そんな旅だ。


「それはそうかもしれないけど……旅行じゃないんだよ?」

「うーん、戦いは多いけど旅行みたいなもんじゃないの?」

「違うよ……」


 このどうしようもないお気楽さは、彼女の自信からくるものだろう。勇者の紋章、国を挙げての教育と訓練、そして彼女自身の資質。それらが合わさっているセラは事実、人間最強と言えるかもしれない。だからこそというのでもあるのだろうが、一番は彼女らしさというのが大きいかもしれない。

 注意はするが、彼女らしさが無くなってしまうくらいならこのくらい気楽でもいいとは思っている。その分僕が注意すれば済む話だ。


「まぁ、セラの旅行気分のことは一旦置いておくとして、話を聞きに行こう」

「はーい」


 門番に不信がられないように歩みのペースを落とし、堂々と歩いて村まで向かう。

 ヘルムのせいで遠くからだと良く分からなかったが、近くから見ると、門番として立たされていた者は僕よりも何歳若いくらいであろうか。少年と青年の間くらいの年に見える。


「えっと、こんな時間に見張りってことは何かあったのかな?」

「あ、あなたは、ジョンソンさん!」

「うーん……ああ、タリーか」


 自分の名前を呼ばれたので誰だろうと思いよく見てみれば、以前この村に来たときに村を紹介してくれた人だ。


「ジョンソンさんがこの村に人を連れて来たってことは……」

「ああ、うん、この人がこの国の勇者、セラフィーナだよ」


 そうやって、彼が待っていたであろう言葉を口にすると、疲れたような表情をしていたタリーが目を輝かせた。


「それなら、この村は助けていただけるんですか!」

「そうだね、そのためにってわけじゃないけど、人間の置かれた状況を打開するって言う目的の旅だからね、困っている人がいたらなるべく助けるのは当然だよ」


 僕とタリーが話していると、セラがつまらなさそうにしていたのでこっちを見ていた。早く要件を済ませろということなのかもしれない。いや、滞在先兼撤退予定地の一つな訳だから、どっちにせよ倒す必要はあるのだけど。

 そんな村の住人相手にずっと害獣駆除を面倒くさがるような感じでいちゃダメだし、せめて挨拶くらいはしておこうよ。そんな思いを込めて肘でセラのことを軽く小突くとしぶしぶと言う感じでタリーの方を見た。


「えっと……初めまして」

「初めまして! 私はタリーと申します! 今回は、この村をよろしくお願いします!」

「ああ……うん……」



 セラは特に感情もない声でそう返答を返した。うん、良くないとは思う……後で人間関係とかその辺りのことについては言い聞かせておく必要がある。

 転移魔法用の魔法陣については説明しているし、今日尋ねる場所の説明もしたはずなんだけどな……。どれだけ、旅立ちを楽しみにしていたんだろう。

 セラの反応を見て、またちょっと微妙な表情になりつつあるタリーに声をかける。


「それで、タリー何があったのか聞かせてもらってもいいかな」

「私が話したい気持ちもありますが、あまり勇者様が来たということを知らせるために、まずは村長の家に向かっていただけませんか? ジョンソンさんはたしか、村長の家の場所を知っていましたよね」

「知ってはいるけど……持ち場を離れられないくらいなの?」


 タリーの隣に立っている青年をちらりと見る。

 前回訪れた時は会わなかったので、名前は知らないが装備を見る限りたまたまここにいたものでは無く、もう一人の門番で間違いないだろう。

 彼はタリーが僕たちと会話している間はより一層注意深く周りを見ていた。一人で置いておいても問題ないような性格の者だと思うのだが、それでも離れられないということは、余程の出来事が起きているのかもしれない。

 そう思ってタリーにそれとなく聞いてみたところ、タリーが小声で話してくれる。


「ええ、ここだけの話、魔獣が目撃されたみたいです。門番をしない村の者には強力なモンスターが出たからなるべく外に出るなとは言ってあります。流石に魔獣が出たとなると騒ぎになる可能性もあるので、あんまり大きな声では言えないのです。なので詳しくは村長の家でよろしくお願いします」


 魔獣か……それは確かに村じゃ対処に困る。

 魔獣とモンスターは、基本的に人間を襲ってくる点は一緒だが、細かいところを見ていくと全く以て違う存在だ。だが、相違点として一番の問題点となって来るのは強さ。その一点だろう。

 モンスターと比べると全体的に魔獣はかなり強い傾向にある。もちろんそこまで強くない魔獣もいるにはいるが、そう言うのはそもそも自分より大きなものに敵対して来ないし、そもそもこの辺りで見かけることはない。だから、現れたと言えば人間に敵対的な魔獣ということになるのだが、これがかなり厄介だ。

 どれほど弱い魔獣だとしても、モンスターでいえば上位から最上位くらいの強さがある。手練れの騎士が何人かで挑んでも被害が出るほどの強さともあれば、村ぐるみで戦ったとしても勝てるとは限らない。


 僕はただコクリと首を縦に振ると、セラを連れて村長の家へ向かって歩き出した。


「いったい何があったの?」


 僕が気を引き締め直したのを察してかセラがそっと尋ねてくる。


「それはだけど……」


 周りに村民がいないのを確認してからこっそりと魔獣が出たという話を伝える。


「なるほどねー、それじゃあ仕方ないかー」

「それじゃなくても、仕方なくもないんだけどね。害獣退治は僕らの仕事だからね。それに、ここは転移の魔法陣設置予定地だからね、どっちにせよ排除は必要なことだよ」

「はいはい、分かってるって」

「まぁ、セラにはいろいろ言いたいことがあるけど、とりあえずは村長の話を聞いて、対象の排除を終えるのが優先から、後回しにしておくよ」

「うへー……」


 どうせ僕の注意の言葉なんて半分くらいは聞き流すだろうに、なんだか項垂れているセラ。いちいち注意するのもあれなので、早く村長の家に向かうことにしよう。村のことを考えると魔獣を早く何とかしないといけないだろう。

 村長の家を訪ねると、僕を見るなり村長の息子のアランはすぐに中に入れてくれた。

 中に入るなり、応接室に通され、僕達と村長のアレックスが席に着いた。


「魔獣が出たということは聞いています、魔獣の特徴と目撃場所を教えていただければ、なるべく早く討伐出来ると思います」


 アランが白湯を持って来るよりも先に話を切り出す。


「なるほど……では……」


 僕から話を切り出したことによって、村長もすぐに話出してくれる。

 聞いた話によれば、目撃されたのは2日前。木のはじける音を聞いた村民がそっとそちらの方を見に行ってみると、木をなぎ倒す魔獣がいたらしい。

 それだけでは魔獣がモンスターか分からないだろうが、二足歩行していたウシ型のモンスターを街で資料探していたところ、似たような魔獣がいるということで急いで村に戻り、家に籠るように指示を出したらしい。


「幸い目撃された場所が最寄りの街まで道とは逆方向で助かりました」


 そう言うとアレックスは白湯を口まで運んだ。それは確かに幸運だったとしか言いようがない。魔獣はモンスターよりも知能が高い傾向にある。なので、場合によっては資料を見に行ったものが村に戻って来られない可能性すらあった。


「なるほど、ミノタウロス系の魔獣ですね……分かりました」

「ではっ……」

「ええ、僕とセラなら大丈夫でしょう、今すぐ討伐に向かいます」

「よろしくお願いします」


 すぐさま僕が立ち上がると、セラも合わせて立ち上がる。

 相手が魔獣であると知って、さっきまでよりは魔獣討伐に意識を向けているようには見える。

 ミノタウロス系の魔獣は確かに一度戦ったことがあるが、油断は禁物だガッチガチに緊張するのもどうかと思うが、中途半端に気を抜くのはもっとまずい。本当に大丈夫なのだろうか、僕の方が心配になってきたくらいだ。


 僕の不安などよりも優先すべきは村の安全なので、今から討伐に向かうのは問題ないのだが、負けたら元も子もない。

 ミノタウロス系ならまず負けることはないだろうが、セラが大けがを負わないか不安なのだ。ある程度までなら僕が治療することも出来るが、ある程度を越えた重症ともなると少し時間がかかる。その隙を狙われたならそこそこのモンスター相手でもどうなるか分からない。


「それで、ジョン。どうするの? 作戦とか」

「うん、まぁ、実際の相手を見たわけでもないし、ミノタウロス系ということならそこまで詳しく作戦を立てるよりも、セラに自由に動いてもらって、僕が合わせる方がいいと思う」


 しっかりと作戦を立てた方が動きやすいのは確かだけど、それはあくまで僕の話で、セラはというとそうではない。セラはその自力の高さや行動の柔軟性もあって、自由に動いてもらった方がポテンシャルを十全に生かせる性質の人間だ。

 もちろん、作戦を立ててその通りに動いてもらうことは出来るが、微妙に動きが硬くなったり、柔軟性が失われたりするのである程度までだったら自由に動いてもらった方がスムーズに討伐が出来る。それはこの半年くらいで分かったことだ。


「了解、じゃあ、さっさと倒して、さっさと村に戻ろう」

「油断だけはしないでくれよ」

「分かってるってば」


 タリー達とはまた別の門番二人に見送られて僕らは森へ出た。

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