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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
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11話・ウットテリム領 後

 周りにいる洗脳されているだろう騎士たちのことも調べたいので、色々端折ってだが、山賊のアジトでの出来事や山賊のロニーから聞いたことを説明した。


「なるほど……そんなことが……確かに、それは騎士団に起きていることと近しいような……しかし、魔族が……」

「それで、ダンと言ったが、君はなんで狙われなかった? それに、なんでここに来たんだ?」


 先ほどの話だと、洗脳されていない者は洗脳済みの者から狙われるということだったが、そうでないはずのダンは、洗脳されたものに混じってここまで来ていた・


「ああ、それは、反抗しなかったからです。同じ理由で無事な者もわずかながらいます」


 その後少し話を聞いたところ、最初に消されたのは、騎士団らしからぬ同僚の行動を咎めた騎士だったらしい。そして、次に消されたのがそれに同調した騎士たちだったらしく、これはまずいと思い、従順なふりをしたところとりあえず葬られることはなくなったらしい。

 しかしながら、従順なふりをしている騎士も次々におかしくなっていくので、下手に相談も出来ず恐怖を感じていたらしい。


「なるほど、とりあえず反抗しなければ放置するか……それで、そんな中なんで付いて来たんだ? 助けようにも助けたら殺されるのは間違いないだろう?」

「そ、それは……その、もし、騎士団を何とかできる実力の持ち主なら、協力できることもあるかと思って……」


 なるほど、一種の賭けだ。今まで従順なふりをしていたとはいえ、やはり今の騎士団には思うところがあったのだろう。あるいは、自分の番が来るのを恐れただけかもしれないが、今回のチャンスに望みをかけて付いてきたと言うところだろうか。


「そうか、でも、そうでなかったとしたらどうするつもりだったんだ?」


 そう思って、少し意地の悪い質問をしてみたが、返ってきた返答は予想とは少し違った。


「それは……命をかけて一緒に脱出していたと思います」


 嘘をついているようには見えないが、自分も騙せる性質の人間だろうか。そう言った人間の吐く嘘は一見して本当のことを言っているように見えるので厄介なものだ。


「失敗すれば死ぬかもしれないのにか?」

「それは……そうですが、イアンを訪ねてきた者を死なせるなんてことは出来ないです」


 悔しげな表情を浮かべ、彼はそう言った。


「イアンは、俺の親友でした……最初に洗脳された騎士を糾弾したのも彼でした、ですが、その結果……くっ……」


 そう言うとダンは俯いて言葉を止めた。震える握り拳から彼の悔しさが伝わる。

 親友とまで言っていたし、本当は何とかしたかったのだろうが、きっと力が足りなかったのだろう。

 洗脳されたものがそう強くないとはいえ、同僚の体を殺すことは難しいだろうし、誰が敵かなんてわからない以上下手に手も出しづらい。それに、魔法も使えなければ、セラのような異様な強さも持っていない者が一体多数で戦うのも難しい。

 自分の無力に対する悔しさは分かっているつもりだ、僕はたまたま師匠に弟子にして貰えたから、セラの仲間として旅が出来ているが、そうでなかったら同じ気持ちで帰りを待っていたかもしれない。


「イアンの親友……今の話……だったら、イアンは……」


 どうやら聞き耳を立てていたらしいミックがダンのもとまで駆け寄ってきて、その肩を揺さぶった。


「そうか、イアンは……」


 そして、同じような表情をして俯いた。

 知り合いと言っていたが、ミックにとってもそれなりに仲は良かった相手なのかもしれない。


「まぁ、二人は気持を整えておいてくれ、余裕があるなら洗脳魔法について話してくれてもいいが、ミックは記憶もないんだもんな。こっちは、魔力の流れなどを見てくる」


 そう言い残してセラの方へ向かう。


「ジョン、やっぱり洗脳されているのは間違いないとして、解呪(ディスペル)した方もおかしいかも」

「おかしい?」

「うん、魔力が流れ続けている」

「魔力が流れ続けている?」


 セラに言われて、倒れている騎士に触れ魔力の流れを確かめる……確かに、魔力が流れている。

 次に首から下が土の下にある騎士の頭に触れて魔力を見てみると、確かにこちらも流れている。ほとんどは頭の方だが、全身に流れる魔力も感じる。


「これは……どういうことだ?」

「ね、不思議でしょ」

「ああ……」


 今ももがいて抜けられるはずのない拘束から抜けようと足掻いている騎士たちだが、こちらの洗脳魔法はたぶん正常に働いている。なので、これが正しい魔力の流れだとして、比較のためにもう一度倒れている方の魔力を見る。

 こっちは……魔力は流れているが、なんというか、循環しないで途中で霧散して体から抜けていっているものがあるな。中には循環しているものもあるが……これが洗脳魔法を施している魔力だとしたら倒れているのはおかしい。起き上がって襲い掛かってくるはずだ……だとすれば、これは解呪の魔力? いまいち、良く分からない魔法だが、もう魔力を注いでいないにもかかわらず効果が残っている? だとしたら、霧散している方が洗脳魔法ということになるが、何故こっちも残り続けているんだ?


「ねえ、ジョン、これ見える?」

「セラ、なに?」


 セラが指さす方には何もないが……いや、僅かに魔力が流れているような気がする。色々偽装は施されているが、流れる対象に触れたまま注意深く魔力を辿れば、なんとかわかる程度だが……なるほど、洗脳魔法は継続使用タイプの魔法か……相手がどこにいるかは分からないが相当な距離、それも不特定位置の複数対象を操る? どんな技術だ?


「ジョン、これはね、多分魔力パスだね。頭の中にマーキングされてるよ」

「魔力パス? それは、魔力保持が出来る装備とかで使うアレのこと?」

「うん、魔法開発の抗議でちょっと習ったから知ってるけど、これって、元々は位置が離れた稼働する物と魔力をやり取りできるようにするための物なんだけどね」

「そうだね、だから、セラの剣や僕の杖は実際に触れていなくても、ある程度の距離なら掌握済みの魔力を引き出せるし、余裕がある時は魔力を込められるんだけど」


 逆に今僕が手に持っている魔石はパスを作っていないから、手に持っていないと魔力を引き出せない。ただ引っ張り出すだけなら触れている必要はないが、その後魔力を掌握する必要があるので二度手間感がある。また、パスを作ってないので、掌握済みの他の魔力に干渉してしまうため、マジックポーチ越しには魔力を引き出せないし、新たに魔力を込める時も効率がだいぶ落ちる。


「でもね、マーキングっていう特殊な刻印を入れるとね飛躍的に効果が上がるんだ」

「マーキング? さっきも言っていたけど、それは?」


 だいぶ南の方にいる動物が縄張りを示す際にする行為だとは聞いたことがあるが……パスにおけるマーキングはどういう効果があるのだろうか。


「まぁ、パスの研究を専門にしている教授が言い始めたことだから実際どう呼ぶのかは知らないんだけど、これを付いている者を対象に魔法を使う場合、距離による魔力のロスが減るし、距離が離れている動く物を対象にしても、発動地点がずれないってことらしいよ。なんというか、マーキングの位置から相対位置を割り出して魔法の発動地点の対象に設定できるみたい」

「なるほど、相対位置を設定しなければそのまま対象に出来るってことか」

「そうそう。まぁ、それでも初期発動は結構減衰が起きて消費量はそれなりってことらしいんだけど、これは継続使用の魔法でしょ、それに流れている魔力量的にそこまで消費は大きくないし、結構パスとの相性がよくてマズ目の魔法だと思うんだよね」

「……そうだね、確かに……この魔法を魔族が使うとするなら、一人でかなり多くの人間を洗脳できる」


 その分、洗脳された者は似たような程度の動きしか出来ないのだろう。戦闘面では役に立ち難いし、頭も上手く動いていないように感じられた。

 だが、自由に動けず、ある程度行動に指針を持たせられるとするならば厄介なもので、発動された時点でその者はほぼ死んだも同然だろう。むしろ、なまじ生きている分もより悪いかもしれない。


「まぁ、マーキング自体そう簡単にできるものじゃないから、この方法じゃ実力者を洗脳できないのは幸いだけど、魔族全体がこれを出来るなら本格的に数で戦うことが封じられたことになるね」

「……そうだね」


 この魔法の存在がある限り、練度が十分でない仲間は洗脳されるリスクが伴う。仲間が洗脳されて同士討ちとなれば士気にもえいきょうが出る。

 人間が魔族に対し基本的に勝っている唯一の部分である数だが、相手が魔法を使えるということもあって強みにならないと元々言われていた。だが、この魔法があるとするならば、強みにならないどころか意味すら持たないかもしれない。


「まぁ、二人旅を選択したジョンは正しかったって感じだね」

「練度が足りていない仲間は戦闘の助けになりにくくて、旅の速度が落ちるからっていう理由だったんだけど……やみくもに仲間を増やす理由は減ったね」

「ボクはそれでいいんだけど……そんなことよりも、まずはこの洗脳魔法のことだね。一番の問題はマーキングは契約系の魔法に近くて第三者の干渉が難しいってことかな。だから、魔法消去や魔法解除が完全には効かなかったんだと思うよ」


 その効果が効いた一瞬は洗脳解除されるが、すぐにパスを通じて再洗脳されるって感じか……だとすれば、解呪は魔法を解き続けているが、これは何だろう。


「解呪は一応効果を示し続けているみたいだけど、これの理由は分かる?」


 完全に目醒めはしないが、続けて送られてくる洗脳魔法の魔力を霧散させ続けている。こっちはもう魔力を使っていないし、周囲の魔力を使っている様子もないのだが、どういうことなのか。

 一応一般的な解呪の使い方は教えてもらったが、これに関しては師匠も詳しくないらしく、使い方を教えてもらっただけだ。


「うーん、そうだね、解呪を専門的にするのは魔法開発じゃなくて呪術科とかで、ボクはそっち取ってないから良く分からないんだけど……なんか複合的なもので、呪術に対しても効果があるっていうのと、呪術科の教授曰く魔力の消費量が割に合わないだけで大抵のものが何とかなるっていう触れ込みだったから、一度発動されたあとは、使われた魔力が対象の魔法に対して効果を及ぼし続ける……のかなー? 詳しくはボクにも分からない、でも、多分、洗脳の魔力もすこしは流れているから目覚めもしないってことなんじゃないかな」

「そうか……洗脳に対して解呪は一応は最適解なんだろうけど、その教授の触れ込み通りというかなんというか、正直魔力消費量が割に合わな過ぎるよ。全員に対しては使っていられない」

「そうだよねー、使っている時のジョンの魔力の流れ見ていたけど、4人分でちょっとした大魔法使えそうな量の魔力使っていたし」

「ああ、小さな村を一月は結界で覆えるくらいには魔力を使った」

「そうそう、小さな村なら一発で焼き払える火魔法を放てるくらいの魔力だったよねー」


 久々にミックの目がないからか、少し楽しそうにそう言うが……そのテンションで話す内容にしては少々物騒な気がする。


「それで、どうするの? 全員に解呪するのは微妙なんでしょ」

「睡眠魔法とかで眠らせるか……いや、だとしてもどっちにせよ外で放置したらモンスターのエサか……一番楽なのは殺すことだけど……」


 ダンという騎士のことを考えると殺すのも簡単に決断できない。だが、放置しても死ぬだろうし、連れていくにも邪魔過ぎる。


「一ヶ所にまとめて、結界に閉じ込めておくのが一番無難かな……」

「分かった、じゃあ、結界作るから、ジョンは一ヶ所にまとめてよ」

「ああ、そうする」


 ということで、少し魔力の勿体なさは感じるがわざわざ魔力が残っている土地に運ぶのも面倒なので、地形語と動かして近場に洗脳された騎士たちを集めた。


「じゃあ、結界張るけど、無属性の双方向のものでいいよね」

「それでいいと思う」


 地形をいじったからか、セラが結界を張って騎士たちを閉じ込めたあたりで、ミックとダンが近寄って来た。


「こいつらはどうするつもりなんだ?」


 同僚のことが気になるのかダンは結界の中の騎士に視線を向けながら、こちらにそう尋ねてくる。


「まぁ、取りあえずは3日は閉じ込めることになる。いろいろと大変なことにはなるだろうけど、取りあえず余程運が悪くない限りは生きてはいられると思う」

「3日? なにか手は考えてあるのですか?」

「ミックから聞いているかどうかわからないけど、明日の午後はウットテリム城に向かうことにはなってるから、とりあえずはそこで領主に報告。元凶がいた場合戦闘になると思う。ここで元凶の対処が出来れば明日の内に洗脳は溶けるだろうけどそうでない場合は閉じ込めている間に魔族探しをすることになる」

「それでも見つからなかった場合は?」

「そうなった場合は、ウットテリム領は見捨てて、他領への報告の後、影響の出ていそうな場所は全部滅ぼすことになる」


 ウットテリム市街を滅ぼすまではいいとして、その後村や町を巡っていくのは面倒だと思うし、非道だとも思うが、魔族の影響を他領にまで広げてはいけないので、洗脳の可能性が低いであろう僕とセラがしないといけないことだろう。


「そうならないためにも、元凶が城にいてくれると助かるんだけど……いたらいたで、これからのことを考えると頭が痛くなりそうで、どっちを願えばいいんだろうね」


 そう呟いて街の方角を眺めた。

 領主が住まう城に魔族が住みついて領を乗っ取る。そんなことが既に実現しているとするならば、暫定人間領とされている場所もいくら魔族に浸食されているか分からない。旅だって早々に安全地帯を脱したことになると考えると、非常に先が思いやられるというかなんというか。


「この騎士たちとは距離をとって、野営地を探すことにするけど、ダンはどうする?」

「俺も明日の付いて行かせてもらえませんか……」

「それは……ミックと一緒に待っていてもらおうと思ったんだけど……魔族がいる可能性が結構高いと思うから、正直守りきれる自信はないよ」


 ミックを街に誘った時点では街のどこかに潜んでいる……くらいの想定だったのだが、騎士にこれだけ洗脳されている者がいて、街の者も全体的に雰囲気がおかしいとまでくれば、城に潜んでいる確率はそれなりだ。

 魔族を相手にしたうえで、他者を護れるほど自分の力に自信はない。


「兄貴は俺も置いて行くつもりだったんですか?」

「僕はミックの兄貴じゃないが、まぁ、そうだよ。割と強さに差があるといっても、相手は魔族だし、どんなに弱くても守る余裕はないと思う。だから、場合によっては普通に見捨てることになるし……正直な話、勇者一行的に見捨てると言うのは外聞が良くないから、付いて来てほしくないところが大きい」

「それは……いや、だとしても俺は付いて行く。騎士団の仇がそこにいるんだろう」


 決意を秘めた強いまなざしでダンがそう言いきった。どうやら、意志は固いようだ。

 それに、その言葉を聞いてもう一人も決意を固めたような表情をしている。


「なら、やっぱり俺もついて行かせてもらいます。こっちも仲間の仇なもんで」

「そうか……決意を決めた人を追い返すのも勇者一行らしくはないか……」


 二人がいるとセラがだんまり状態なのでいつもの調子じゃないのもあって、正直付いて来ない方が助かるんだけど……仕方ないか。二人も相手には思うところはあるだろうし、借りは返したいのかもしれない。

 前向きに考えれば、領主が無事だった時二人がいた方が説明がしやすいという考えも出来ないことはない。問題は、街にこれだけ影響が出ていて放置している時点でその領主が無事である可能性が低いということだが。

 さて、明日はどうなることやら……付いてくる二人のことと、城の内部のことを考えながら、野営の準備を進めて行った。


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