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勇者セラフィーナの道程  作者: 岩塩龍
一章・フストリムワーネ編
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11話・ウットテリム領 中

 次の日の午後ということもあって、今日の午後と明日の午前は時間が空いた。


 直接的に攻撃してこないとはいえ、この街の雰囲気はどことなくあの山賊のアジトに近いものを感じる。ここで一泊するのは危険だと判断して野宿することにした。

 買い物も控えることにして手持ちで何とかするとして、夜まで時間がまだあるので、僕たちは騎士の詰所に向かうことにした。

 ミックの知り合いの騎士であるイアンを尋ねることにしたのだ。

 それまでの間も、相変わらず視線を集めていたので気味が悪かった。全員洗脳するのはコストが重すぎるように思えるが、相手は魔族だし、洗脳魔法のこと自体そこまで詳しいわけではない。もしかしたら何かあるのかもしれない。


 扉を開き詰所に入ると、中にいた人の視線が一瞬にして全てこちらに向けられた。開く前から分かっていたことだが、騎士詰所にしては静かすぎる場所であるのも含めて、非常に気色の悪い光景だ。

 受付の方に向かって歩くにつれて、周りにある首が動くの感じて、気色悪さが増した。


「どのようなご用でしょうか」

「ああ、知り合いの騎士を訪ねてきたのだが、イアンという者は今ここにいるか?」

「イアン……存じ上げない名前ですが……少しお待ちください」


 待ち同様に異様な雰囲気は感じるが、一応仕事はするのか、受付をしていた騎士は奥に引っ込んでいった。

 だが、名前を呼ぶでもなくこの建物は静寂が保たれている。耳を立てればコソコソした会話は聞こえてくるのだが、内容までは分からないし、耳を立てなければ、他の音がほぼな聞こえないにもかかわらず気にならないほどの小声だ。

 ここも正常とは思えないな。


 しばらくして、受付の騎士が地図を持って戻ってきた。


「イアンは今、討伐に出ておりました、この辺りでモンスターが現れたようで」

「なるほど……」

「皆さんは戦士か他領の騎士と見受けますが、向かいますか?」

「ん? それは、救援要請と捉えてもいいのですか? それほど強力なモンスターが出たということなら、多くの騎士が出てると思うのですが……」


 良く知らない相手に救援要請に近いことを訪ねてくる……罠だとしてもお粗末すぎるが、そうじゃないとしても意図の読めない発言だ。

 相手の装備を見て、戦いをするものだと察することは見習いでもない限り騎士なら出来るだろうが、だとしても、出会って早々救援依頼をするのはおかしい。こちらは白井藍の騎士を訪ねてきただけだ、それなら、しばらく待てと言うのが普通だ。


 もしかしたらここの騎士特有の風習かもしれないので、ミックの方に視線を向けてみるが首を横に振っていた。そう言った話は聞いたことがないのだろう。

 さて、どうする、全く意図が読めないが、イアンと言う騎士がその場所に絶対にいないとも言えない。そういう風に考え込ませて、万が一を想定させたうえでこちらをそちらに向かわせる罠だと考えるのが一番しっくりくるが……だとしても、無視するわけにはいかないか。


 本当に緊急の救援要請の可能性もないではないが、それなら、こんなに落ち着いていること自体がおかしいから、十中八九罠なのだろうが、向かえば何かしら情報が手に入るかもしれない。それに、街から出るいい口実になるだろう。

 正直なところ、これが何かしらの罠だとしても街に留まるよりは安全な気がする。特に理由も言わずに街の外に出るよりは、こっちの方が良い気がする。

 こちらにずっと向けられてくる視線の数々が監視の類だと仮定するならば、ここで宿を取らず外に出ると言うようなことをすれば、誰かしらが付いてくるかもしれない。それよりは騎士たちと共に外に出て、罠ごとなんとかしてから、騎士たちを撒いていくほうが楽だ。


「分かりました、向かいましょう」


 僕がそう言うと、ミックは驚いたような表情をしていたが、セラはすこしだけ笑っていた。


「それでは、数人騎士が付いて行きますので、外でしばらくお待ちください」


 騎士に言われて3人そろって外に出る。街の人々からの視線は相変わらずある。詰所の中同様に静かな町の中では聞き耳をたてられるだけでこちらの会話を聞かれてしまうだろう。なので、僕たちはこの街の騎士たちを見習ってかなり抑えた声で言葉を交わす。


「その、あれ、どう考えても怪しかったけど、いくのか?」

「そうだね、一応君の知り合いの騎士がいないとは言い切れないし」

「いや、どう考えても、そんなわけが……」

「他にも理由はある……けど、それを全部説明する時間は今はないし、それに適した場所でもないから、後にする……それよりも、これを飲んでおいてくれ。どうしようもなくなったら君を置いて行くかもしれないから、そうならないためにもね」

「こ、これは……いや、わかった」


 僕がミックに渡した物は高品質な肉体強化と身体能力向上の薬を混ぜたものだ。いきなりなんだか分からない薬を飲むのは抵抗があるだろうが、一応は聞かれていることを考慮すると効能をここで口にするわけにはいかない。

 ミックが薬を飲むのを横目に、僕も中程度のものを薬を混ぜたものを飲んでおく。


「すごいな、これは……」

「ああ、正直ストックが沢山ある品質のものじゃない」

「……そうか、なんとしても付いていけるよう頑張るぜ」

「そうしてくれ」


 空瓶を仕舞っていると、裏口のほうから3人の騎士が歩いて来た。


「待たせました、すぐに向かいましょう」


 騎士と一緒ということもあり、街からはすぐに出られたし、予想通り誰かが付いて来ている様子も見受けられない。騎士たちが監視の代わりということなのだろうか。


 地図で見た限り、向かう先は少しくぼんだ場所だ。街に来る途中で近くを通った時に確認したから知っているが、誘い込めば周囲から襲うのが容易い立地だった。やはり罠なんだろうなと思うけど、どんな手で来るかな。

 一番は付いて来た騎士と共に潜んでいた者が奇襲をかけることだと思うけど、どれほどの戦力だろうか、弱ければ弱いほどありがたい。ある程度強さがあると、多分、セラが切り殺しちゃうだろうし、その前に全員抑えられるくらいだと助かるんだけど。洗脳されている人体の調査もしたいし。


「ここですが……見当たらないですね」

「別の場所に行ったのでは?」

「ですが、こういった場所では、中央にモンスターが姿を消して潜んでいる可能性もありますから、きちんと見に行きましょう」


 狙いは予想通りだが、なんだその手段は。そんなこと言われて、あの場に向かうやつがいると思っているのか?

 騎士の洗脳を疑っていない状態からでもおかしい話だ。言っていることが実に嘘くさいが、それが本当だとしても、何故こちらに向かわせようとするのか合理性に欠ける。

 鎧を装備させた死体やそれに模した物をあらかじめ置いておくだとか、助けを求める人を置いておくだとか、そのくらいはすると思っていたのだが、本当になんだこれは。


「きちんとって、だったらここから魔法を打ち込めばいいのでは? わざわざ近づく方が危険だと思いますが……」


 罠に引っかかるのは仕方ないという気持ちで来たのだが、流石にこれにかかるのは逆に怪しまれそうだったので、そうやってやんわりと断ったつもりだったのだが騎士たちは僕たちの背を押して目的地まで、強引に向かわせた。


「セラ、殺さないようにね、面倒なら攻撃の対処だけでいいよ」


 背を押されながら、小声でそう言うと「分かった」とだけ言って、セラは小さく頷いた。


「随分と強引ですね、その割には何もないみたいですけど」

「そうですね」


 その言葉に振り返ると既に騎士は剣を振り上げていて、視界に入ると同時に振り下ろされるのが見えた。

 思ったより早いけど、やっぱりという感じだ。だが、なんだこの練度は……凄まじく弱い。

 セラと比べるのは流石に騎士がかわいそうだが、そうでなくても県の速度は遅すぎるし、不意打ちするにしては音も立てすぎだったし、振り上げた剣の影も見えていた。

 身体を逸らして剣を避けると、腹を蹴り飛ばし距離を取った。

 割と本気で蹴ったから後ろに吹き飛ばされるのはともかく、剣を落とすのはどうなんだ。吹き飛ばされることなんてモンスターとの戦いでもそれなりにあるだろうに。


 セラも同じく切りかかられていたがそっちは剣を根本から切り落としていた。まぁ、そっちに関しては、練度がどうとかじゃないから置いておこう。

 一方でミックの方がどうなっているかというと、ミックの背を押していた騎士は何時の間にかこの場から去っていたらしく、不意打ちを受けていなかった。薬を使っているし、この程度の相手なら不意打ちを受けたとしても大丈夫だったとは思うけど。武器もセラに切り落とされるくらいの品質のものだろうし、直撃しても死にはしないだろう。


「さてと、次々出て来たけど、セラはどうする?」

「こっちに来る人の武器だけ壊しておく」

「じゃあ任せるよ、ミックもなるべく殺さないでほしいとは思うけど、自分の身を第一に考えてくれ」

「おう、了解」


 さて、向かって来るのは12人。一緒に来た3人を含めれば15人か。

 弓持ちが3人、そして、魔法を使おうとしているのが1人。8人は槍や剣を持って突っ込んでくるか。

 どれも大したものじゃないから、一旦土魔法で周囲を覆って防御。その間に、周囲の地形をいじりながら、周りの魔力を使い切る。


 土魔法で盾を作ってから、僕たちを覆っているドームを崩してみると、地形の変動に巻き込まれて、ほとんどの騎士が動けなくなっていた。弓持ちが全員動けなくなっているのは都合がいい。魔法を使っていた者も魔力を込められる装備をしていないらしく、打ち止めのようで、剣を抜いてこちらに向かってきていた。

 他の無事だった騎士と合わせて5人。まぁ、全員相手しても問題ない量かな。


「洗脳魔法と仮定して、なにか良い手はないかな、取りあえずは消去(イレイズ)、駄目なら解除(デリート)、それでもだめならだめもとで解呪(ディスペル)もやっておこうかな、他は洗脳自体が良く分かってないから保留かな」

「消去くらいなら出来るよ」


 これからの動きを口にしていると、セラがそう言って腕を相手の方に向ける。


「でも効果があるかは分からないからね」


 その後に襲い掛かって来ることを考えて、そう言ったのだが、言っているうちにセラは向かって来る全員に魔法消去を決めていた。

 直後に騎士たちは、足元から崩れるように倒れ込んだが、すぐに起き上がって来た。


「今の、別に魔力波をぶつけたわけじゃないよね」

「いや、魔法消去だけだけど」

「そうか……じゃあ、聞いていない訳じゃないんだろうけど……」


 起き上がった騎士の後ろに回り込んで、魔法解除を試してみる。そうするとその騎士は力が抜けたかのように崩れ、残りの騎士から注目を浴びるが、今度は膝を付いた時点で意識を取り戻したかのように立ち上がった。

 これは消去より効果が薄いか? それとも耐性? 後はセラとの技量の差かも知れないが、一応僕の方でも消去を試しておこう。


 立ち上がるより先に魔法消去を使って見ると、今度はセラの時同様に倒れた。

 つまり、消去の方が効果は大きいと。ただ、誤差レベルだな。戦闘中ならこの差は大きいのかもしれないけど、洗脳されている者は元の力を出し切れているようには見えないし、この差が影響するほどのものがそう簡単に洗脳されるとも思えない。

 どちらにせよ、すぐ洗脳の影響が戻ってしまうのが問題なので、誤差と言い切っていいだろう。

 あとは解呪か。こっちはあんまり詳しくないし、魔力消費量も多いからあまりやりたくはないが、試せるものは試しておくの精神で使ってみよう。


 とりあえずは、目の前にいる騎士に使用してみるが、原理をしっかりと理解していないからなのか、それともこういうものなのか、装備に残っていた魔力を9割がた使ってしまった。

 騎士は魔法消去を使った時同様に倒れるが、魔力を注いでいる間は起き上がって来ない? いや、起き上がって来ないな……倒れた後も数秒魔力を持っていかれたから、そう勘違いしたが、もう魔力を流すのはやめているが起き上がって来ないあたり、一番効果が強いか?


 仲間がやられたのを見たからか残りの4人もこちらに向かって来る。

 ポーチから、昨日倒した魔族の魔核である魔石を取出し、その魔力を使い全員に解呪を施していく。結果、魔石の魔力を半分ほど使ってしまったが、全員地面に寝かすことが出来た。

 しかし、一向に目覚めないのはおかしいな……もしや、死んでいるのかと思って、すぐ近くの騎士の腕をつかみ脈を見るが、そう言うわけでもない。これは、山賊の一人と同じ感じだろうか。

 もっと詳しく調べたかったが、少し時間がかかったのもあって、土魔法に巻き込まれた者達が起き上がって来た。全員に解呪を施してもいいが、魔力が勿体ない気がする。経過を見るとしてもとりあえずは5人で十分な気がするので、魔石の魔力を使い全員体を土に埋めることで拘束した。


「これで、いいかな……」


 二人の元に戻って、騎士たちの数を数えていると、ミックがやたら目を輝かせて此方を見てきている気がした。


「す、すごいっすね、こんな、短時間で全員」

「いや、まぁ、この程度なら僕じゃなくても出来るとは思うけどね」

「でも、ものの数秒ですぜ、兄貴」


 誰が兄貴だ、誰が。

 山賊は割と実力主義なのだろうか、そう言えば移動中だんだんセラに対してかしこまっていっていたような気がするが、あれも一瞬でモンスターを斬り伏せていっていったからなのかもしれない。



「あと、さっき全員っていったけど、あと一人足りない」


 ミックの言葉は適当に流して数えていたのだが、倒れた騎士と埋めた騎士合わせても一人足りない。多分最初についてきたうちの一人だと思うんだけど、報告しに詰所に逃げられたかな。


「そうだね、14人しかしない」


 セラもそう言うが、手の平を鬱蒼と草木が立ち並ぶ方へ向けていた。

 その次の瞬間、光の紐が伸びて行き、一人の騎士を縛り上げると、セラは彼をすぐ近くまで引っ張り出した。


「これで、全員だね」


 あれは、リンド村の光球とは違い、実体のある光魔法だろう。セラの光魔法は何度見ても凄いもので、正直ここまでの物は真似できる気がしない。

 実体の伴う物と光の属性は相性が悪いので、なかなかできるものじゃないし、紐のようなものを作って特定の方向の特定の者を縛り上げるなんて、他の誰にもできるものとは思えないほどだ。

 得意属性が光と言うだけはあるが、普通得意属性の魔法だからと言って、現象との相性まで無視できるほどのものじゃないはずだが、セラは光魔法に普通に実態を持たせられるし、その熱量や方向を自在に操れる。この精度は正直な話魔族にだってそうそう真似できないと思う。


「それで、どうする? 埋める?」


 セラが首を傾げて、そんなことを言うが……実際どうしようか、面倒だから他の者同様に埋めて放置でもいいんだけど……


「そうだね……解呪を試してみる?」


 そう言って、縛られた騎士に向けて手をかざしたところ、慌てた様子でこちらに話しかけてきた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! お、俺は普通です、だ、大丈夫です!」


 縛られて手は動かせないが、足は動く状態なので立ち上がって抗議してきた。


「普通って……だとしても、そう思わされているだけかもでしょ。あと、洗脳されていないなら、何かしら対抗魔法を使われても大丈夫だと思うけど」

「ま、待ってくれ、殺さないでくれ」

「いや、だから殺す気はないってば」


 妙に怯えている辺り、魔法の知識がないのかもしれない。魔力は喰うが一番効き目が出ている解呪を施すが、確かに倒れない。とりあえず洗脳はされていないとみなせる。


「大丈夫そうだね」


 しばらくしても変化がないのを確認した後、セラは魔法を解除した。

 大した熱を持たないが、物体を伴う光魔法で拘束されるというレアなケースにあったからか、解放されたあと自分の腕や胴を確認したり、手を握ったり開いたりしていたが、少しするとこちらに向き直り敬礼の姿勢を取った。


「た、助かりました、俺はダン。ウットテリム騎士団の数少ない無事な騎士です」

「無事な騎士?」

「はい、その、見ての通り、我が領の騎士たちはおかしくなったものが多く、まともな物も、その、おかしくなった者達に襲われていって……」

「なるほど、洗脳された騎士がそうでない騎士を襲っていったと」

「先ほども言っていたようですが、洗脳とは?」

「ああ、そこもか……まずはウットテリム領で起きているであろうことを説明しないとだね」


 セラとミックに土魔法で拘束した騎士たちの見張りを頼むと、僕はダンに山賊のアジトの話などをし始めた。


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