11話・ウットテリム領 前
長いので3つに分けてます
こっちが黙っているからか、山賊たちも同じようなことばかり云うようになって、そろそろ鬱陶しくなり始めた頃、セラが魔法の行使を止めてこちらに歩いて来た。
「さっきから聞いていれば、結構な良いようだね、ジョン」
「中はもう大丈夫なの?」
「一応風だけは送るようにしているけど、火の方はもう大丈夫だと思う。それより、ジョンが困っているような感じで見て来ていたから来たんだけど」
「ああ、助かる」
そんな風に山賊たちを無視してやり取りしていると、一人がひときわ大きい声で怒鳴った。
「お前たちっ、なんのつもりだ、騎士じゃないだろっ!」
僕たちの立場を教えるには、おあつらえ向きの質問だ。ちょうどいい、答えてあげることにしよう。
「僕たちは山賊の討伐に来た。だが、確かに騎士ではない」
「こんなことして許されると思っているのか、討伐指定はされていないはずだ」
「いや、討伐指定されている」
「そんなわけはない!」
「それはない、彼女は勇者セラフィーナ、僕はその仲間のジョンソンだ。君たちは半年前から村を襲っていくつも滅ぼしている」
「そんなのはでたらめだ!」
「そうおもうなら、今の季節はどう説明する? 君の最後の記憶では何の月か説明できるか」
「確かに、暑いが、これは近くでアジトが燃えているからだろ! 今の季節は2の月だ」
「残念。今は7の月だ」
「なに? そんな出鱈目……」
「ミック……多分……本当だ」
ここで、一人の山賊が弱々しい口調で怒鳴っていた山賊の言葉をかけた。思えば、この山賊はずっと静かにしていたが……もしかして記憶があるのか?
「お前は何か知っているのか?」
「……はい、夢なんじゃないかと思っていましたが……その、あれは……」
「この際だから君の口から説明してくれると助かる」
「は、はい」
その山賊の話を聞くと、ある日突然女がやってきて、山賊たちを蹴散らして行き、頭領を殺すと、全員従えようとしたらしい。しかし、頭領を殺されて置いてそんな言葉を聞くわけがないとその場にいる全員でかかったところ、一人、また一人と倒れていったらしい。
そして、殺さないから安心しろと言っていたのは覚えているが、それ以降の記憶はぼんやりしたものらしい。
だが、そのぼんやりした記憶では、仲間たちと一緒に村を襲ったり、頭領を殺した女に食べ物を持っていたりしていたらしい。
非現実的な光景だったので夢なのではないかと思っていたが、半年という言葉を聞いてもしやと思ったらしい。
「ロニー、それは……いや、でも、確かに、何かに襲われた記憶は薄っすらと、いや、だが、それはあいつらじゃないのか」
「それは違う……お前はあの場にいなかったから後から何かされたんだろうけど、俺はあの女がアジトに乗り込んできたその場にいたから分かるんだ」
「そんな……」
仲間の口から言われた言葉は、僕らが言うよりも信じられるらしく全員黙ってしまった。
「その女は魔族だ、だから僕たちが来たんだ」
「ま、魔族……本当なのか……」
「ああ、その可能性も考慮して討伐に来た」
そう言うと、少しは話を聞く気になったのか、態度が変わるのを感じた。
実際は魔族がいることはほぼないだろうと思っていたので、はったりに近いのだが、信用が得られるなら有効的な嘘だろう。
「そ、そうなのか……」
「ああ、すまないとは思うが、魔族の警戒をしないといけない中、襲ってくる者に手加減する者難しいので、多くの者を殺してしまった。それに、こちらは殺したつもりはない中にも死んだ者もいる。洗脳の解除と共に死んでしまった者だ。そこいらに倒れているほかにも、そういう者が多くてな、生きているのは君たち5人……いや4人だけだ」
「そうですか……」
後半は嘘ばかりだが、納得してもらえたようで何よりだ。
「それで、俺達はこれからどうなるんだ? 討伐されるのか?」
「いや、魔族絡みということで、しばらくは話を聞きたい」
「話ったって、俺達は操られている時のことをほとんど覚えていないが……」
「ああ、それは問題ない。話の聞くのは僕たちじゃない、街の騎士や領主だ。その時も、ある程度はこちらと話を合わせてもらうから、君たちの記憶はそこまで大事じゃない」
セラには勇者という立場があるから、一応魔族がいて洗脳されていたという説明は信じてもらえるだろうが、実際に操られていた者がいるならばその信憑性は増すだろう。
この領が全体的に不穏な雰囲気が漂っているので、勇者の名前がどこまで通用するのか分からない。それに、魔族が関わっていたこともあって、街の方がどうなっているか予測できない。
「ウットテリム市街について詳しい奴はいるか?」
いるならば、連れて行きたい。
山賊ということもあって、現地民としては微妙なところもあるが、以前との違いくらいは分かるかもしれない。
「あ、俺なら、少しは案内できるかと、騎士にも知り合いがいますし」
「騎士に知り合いがいる?」
それで手を上げたのは先ほどミックと呼ばれていた男だった。
騎士と通じているということは、モンスター狩りをする代わりに、多少の悪事は見逃されているタイプの集団だろうか。そう言うことがあることは知っている。ここもそうだったのだろう。
それが、魔族に洗脳されて本格的に村を襲撃して回ったため、討伐指定されて騎士が派遣されるも魔族によって返り討ち……ここまでの情報からするにそんな所だろうか。
その後、ミックの話を聞いた感じでも、そこまではほぼ確定らしい。一応魔族が嘘をついていた場合は、返り討ちだとかその辺は怪しくなってきはするが、ぼんやり記憶が残っていたロニーという山賊の話からすると、真実である可能性は高い。
あの魔族からは様々な情報を得られたが、あまりにもあっさりとことが進み過ぎて逆に罠な気がしてしまう。多分、最初に会った魔族の記憶が原因でそんなことはないだろうというのは、頭では分かっているのだが。
だが、そうだとして、少し気になるのは今の街の様子だ。
ウットテリム全体がおかしいのがあの魔族のせいだとして、そこに洗脳が関わっているのだとしたら、それが解除されて、山賊同様に多量の死者が出ていたり、何も分からない人間が沢山いるかもしれない。
その場合は説明のためにも、やはり、同じく洗脳されていた者を一人は連れていくべきだろう。
「それじゃあ、ミック、一緒に街まで来てくれるか?」
「ああ、任せてくれ!」
一応残る山賊たちにアジトに施した処理等について話を済ませてから、三人でウットテリム市街をめざして、動き出した。
「セラ、一応、今回はミックもいるから、走るのはなしにしよう」
「それだと時間がかからない?」
「地図からすれば、仮眠を取っても明日の午前にはつくと思うよ」
「そう……分かった」
いつものように話すかどうか迷った様子を見せたが、同行者がいるからか、セラは口数少なめの、感情をあんまり出さない方針で行くことに決めたようだ。
たぶん色々と言って反対したかったんだろうけど、納得して了解したような雰囲気を出していた。正直言うことを聞いてくれるので楽でいいと思うのだが、黙っておこう。後でなんか言われそうだし。
ミックの話を聞きながら歩みを進める。
こうやって旅先で人の話を聞くのも旅っぽいといったら、どこかムスッとしているようなセラも機嫌を直してくれたようなので、文句は減るかもしれない。
少し早めに足を動かしているとはいえ、突っ走っている訳ではないので、モンスターの市街も回収できるし、やはり全速力で動くよりこっちの方が何かと得な気はする。後で、ちゃんとセラを説得しよう。正直なところ、時間短縮以外でメリットは特にないし。特別急いでいる時ならともかく、普段の移動はこっちの方が絶対に得だ。路銀は無限じゃないし、売ったり交換できるものは少しでも多い方が良いだろうし。
「そう言えば、最終的に俺はどうなるんですか」
「まぁ、騎士とのやり取りもあった山賊だし、魔族が関わっていることもあるから処刑されるようなことはないだろうけど……残った人数的にいままでのように山賊集団をするのは難しいかもしれないね」
セラは相変わらず無口系の威厳を出したままだったが、僕は既に口調を割といつもの者と近い形に戻していた。
相手は山賊だし、勇者のセラならともかく、その仲間である僕があまり堅苦しい話しかたをしていても特は薄いだろうし、こっちの方が相手の口も軽くなるだろうとの判断だ。
だからといって、あんまり馴れ馴れしくするつもりはないけど。流石にそこまで行くとデメリットも出てくるし。
「そうか……」
ミックはそう呟いて、大きく肩を落とした。
まぁ、半年近くの記憶もなければ、多くの仲間も失ったわけだし、不安にもなるか。
「騎士の知り合いがいるならそっちを当てにするといいかもしれない。モンスターとの戦いはしてきたんだろう」
「それは、そうだが……」
どうやら彼の言う騎士の知り合いは個人的な部分が多いらしく、生き残った他の仲間のことを考えると、自分だけ騎士になるのもどうかという話らしい。
「それなら、全員騎士にして貰えばいいと思う。たぶんだけど、この領の騎士は数を減らしているだろうし、多分全員雇ってもらえると思うよ」
「そうだといいんですが……イアン……いや、俺の知り合いの騎士が無事なのかどうか……」
自分たちが討伐指定されているなら真っ先に来そうなものだし、無事である保証はないらしい。
なし化に、あの魔族の話からすれば全員返り討ちにあっているだろうし、そうじゃなくともウットテリム領のことを考えると無事であるとは言い切れないか。
「そうだとしても、その騎士のことを知っている者はいるだろうし、なんとかなるとは思うけど……まぁ、楽観視が難しい状況なのは分かるよ」
その後は、ウットテリム領のことを聞いたり、本来ミックたちが何をしていたのかなどを聞きながら、日が沈みきるまで歩き、付近の開けた場所で日が昇るまで休憩することになった。
今の次期は日が昇るのも早いので寝るとしてそこまで時間が取れる訳ではないだろうが、どうせなにもない野外なので交代で寝るだろうし大差ないだろう。
ミックに見張りをさせてもあまり意味はないだろうと思って、彼はずっと寝てもらうことにして、僕とセラが順番に見張りをすることにした。
前半セラに任せたのだが、交代の際に何体かモンスターの死骸が転がっていた。結界とかで対処すればいいと思うのだが、セラ的にはどっちも手間は変わらないのかもしれない。まぁ、僕は素直に守りの魔法と隠蔽の魔法で対処させてもらうけど。
交代早々に魔法陣でモンスターの対処を済ませて、回収した死骸の処理を済ませ利用価値のある部分と廃棄する部分を分けた。これをしたかったのだが、セラのことだし、寝て起きたら、処理するものが増えてそうだと思ったのだが正解だった。
しばらくして解体も終わり、可食の部分とセラの集めて来た野菜で朝食を作っていると、二人が目を覚ます。
「朝食は出来ているから、摂ったらまた歩き始めようか」
山の中ということもあり、まだ暗くはあるが時間的には丁度いいだろう。
手早く朝食を済ませて、僕たちはすぐに歩みを再開させた。
今日移動しながら話すことは、口裏を合わせるためのシナリオ作りだ。そのまま説明してもいいが、信憑性を増させるためにはこういったことも必要だ。
ということで、魔族に襲われた時の話にいくつかねつ造を加えることにし、その内容を覚えてもらった。
日の角度が、山より上に来るころになって、僕たちは目的のウットテリム市街に辿り着いた。
なにとは説明できないが、何か嫌な雰囲気を感じる街だ。それはセラも同じようで、なんとなく嫌そうな表情をしているように感じる。
街に入る際門番への説明では、勇者一行と言っても良かったのだが、念のため山賊の討伐をした戦士ということして、ミックもその仲間ということにした。
そのせいか、町に入るのに少し時間はかかったが、身分を隠すことができた。
「ここは……全然人がいないな」
この街は、外を出歩く人が異様に少なかった。
気配というか、そういったものは感じるので、住人自体はもっといると思うのだが……なにか事件でもあったのだろうか。その割に、門番の検査が厳重であったわけでもないし、何かあったとも言っていなかった。
「ミック、ここはこういう街なのか?」
人柄や地域色、あとはイベントなどがあれば、こういうこともある。知っているかどうかは分からないが、そう尋ねてみたのだが、ミックは首を横に振った。
「いや、こんな街ではないはずだ。俺が来たときも、イアンの話を聞く限りでも、こんな陰鬱なところではない……」
城の位置を聞いたり、買い物をしたりしながら歩いていたのだが、異様に注目を集めている気がする。
外にいる人たちを見ても旅人は少ないようで、それで目立っているのかもしれないが、それにしても、建物の中にいる人までが窓越しに視線を向けてくるのは、流石に不気味に感じる。
視線を向けてきているのは一人二人ではない、常に数十人から見られている。これが、勘違いならいいが、こっそりそちらを見れば、じっと見てきている姿を窓越しに確認できるのだ、気味が悪くて仕方がない。
こちらが勇者であるとは説明していないのに、なんだこの視線は。
「な、なんだか、おかしいぜ、これは……お、俺、山賊だって言っていないよな」
「ああ、3人とも戦士ということで通っているはずだ、これほどに視線を集めるのは流石に異常と言わざるを得ない。この街は外の人に厳しいということはないんだろ?」
「あ、ああ、前来た時はむしろ友好的な雰囲気すら感じたぜ」
「そうか……」
不気味な街を歩き、城までたどり着く。
門番をしている騎士はどことなくぼんやりした雰囲気ではいたが、一応は面会の受け付けはしてくれた。
ここでも山賊を討伐したからその報告に来た戦士として面会を求め、勇者の名前は出さなかった。なので、会うのに3日は掛かると思ったが、明日の午後には会えるらしい。
こちらは名も告げぬ戦士の集団だと言うのに、そんなにすぐ会えるのか……それほど山賊を厄介に思っていたと取ることも出来るが、正直口で言っただけで、本当に討伐したという保証もない。それを確認するにも日数がかかるので3日くらいかかる予想だったのだが……だんだんと怪しさが増してきたな。
もしかしたら……この領全体が魔族に何かしら影響を受けているかもしれない。




