第五話「友達との再会」
状況を受け入れるのに、しばらく時間はかかった。
だが、いつまでも校門で放心状態になっているわけにもいかない。
ひとまず僕は、そのまま学校の校舎へと向かい、記憶を頼りに当時の自分のクラスへと足を運んだ。
下駄箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替えて、すぐ左にある階段を三階まで登る。
「……あった」
三年一組。
当時、僕が所属していたクラスだ。
ドアを開けて教室を覗く。
すると、すでに教室にいたクラスメートの何人かが僕のほうを見た。
(はは……。懐かしいな。というか……みんな若い……)
それもそのはず。なんせまだ中学三年生なのだ。
そういう自分も今は十四歳の身体なのだが、さっきまで二十四歳だったわけだから、その違和感は計り知れない。
そして、さっそく問題に直面した。
何とか教室はうろ覚えながらわかったものの、さすがに当時の席など覚えていない。
(ど、どこだったっけ……? 僕の席……)
僕が教室の中を見渡していると、背後から誰かの声が聞こえてきた。
「おい。何キョロキョロしてんだよ、友介」
「……え? あ! お、おまえ……克起か!? はは! すげぇ若い!」
「は……? なに言ってんの……おまえ?」
池谷克起。
当時からの親友で、よく一緒につるんでいたヤツだ。
僕の不可解な発言に首を傾げている克起を見て、僕は『自然に自分の席を知るための手段』を思いついた。
「なあ、克起。いいものやるから、ちょっと僕の席に座って待っててくれよ」
「……は? 何だよ、いいものって?」
「いいから! ちょっとおしっこしてくるから! 絶対に僕の席に座って待ってろよ⁉」
「え……? ちょっと……お、おい⁉」
そう言い残して教室を出ると、僕は記憶を頼りにトイレを探しはじめた。
ちょうど良かったので、ついでに用を足してから教室に戻る。
「おまたせ!」
「『おまたせ!』……じゃねーよ!」
僕は克起が座っていた席を確認した。
(あそこか……)
教室の窓際の一番後ろの席……。
そうだった。たしか中三の頃は、あの居心地のいい場所をゲットしていたんだった。
「わりぃ、わりぃ!」
そう言いながら近づくと克起が席を立ったので、そのまま自然に自分の席に着席する。
(ふふ……。我ながら天才!)
そして、先ほど約束した『いいもの』をカバンから出して克起に手渡した。
「ほら。これやるよ」
「え⁉ これ、まだ発売したばっかりのやつじゃん! ……いいのか?」
僕が克起にあげたのは、当時の最新携帯ゲーム機『イージー・ボーイ』。
まだ買ったばかりのゲームソフト『マリコ・シスターズ』のおまけつきだ。
僕は中学生の頃、このゲーム機を毎日学校に持って来て遊んでいたのだ。
「まじで貰っちゃっていいの?」
「ああ、いいよ。どうせもう僕はやらないから」
すでに十年前に何度もプレイしたゲーム機と引き換えに、忘れ去っていた自分の席を知ることができるのなら安いもんだ。
「はは! サンキュ、友介! ……返せって言っても、もう返さねぇからな!」
「言わねぇよ!」
チャイムが鳴り、克起はご機嫌で自分の席へと戻っていった。
僕は頬杖をつきながら、窓の外を眺めて小さな声でひとり呟いた。
「本当に僕は『十年前の今日』にタイムリープしてきたんだ────」