第四話「タイムリープ」
「ずいぶんと変わっちゃったな……。まあ、あれから十年も経っているんだから当たり前か」
僕は当時通っていた中学校の正門の前で、ひとり呟いていた。
学校自体は数か月前に廃校になって、今は使われてはいない。
今後、何かの施設として利用することが決定したと聞いている。
「いまさらこんなところ訪れたからって、何が変わるわけじゃないけど…………」
そう言って、僕が正門に足を踏み入れたその時だった────
「──え?」
あたり一帯が真っ白になるほど強烈な光に包まれ、僕は思わず目を閉じた。
そして次に目を開けたとき、僕の目の前には信じられない光景が広がっていたのだ。
「おはようございまーす!」
「はい、おはよう!」
学生服に身を包んだ生徒が、つぎつぎと正門へと入っていく。
そして見覚えのある先生が、笑顔で生徒に挨拶を返していた。
「え……? な、なんだこれ……?」
僕は自分の身体を触り、見て、確認する。
自分が学生服を着ていることに気づき、初めて状況を理解した。
「これって────」
タイムリープ。
漫画や映画の世界でよく目にする、現実世界ではまだ確立されていない未知の現象における名称。
肉体ごと過去や未来へ時間移動するタイムトラベルなどとよく勘違いされることもあるが、タイムリープとは現在の自分の意識だけが過去や未来の自分の肉体へと移動する現象のことである。
この状況。どう考えてもタイムリープしたとしか思えない。
突然のできごとに混乱しながらも、まずは日時を確認しようとポケットに手をつっこんでスマホを探す。だがポケットから出てきたのは、スマホではなくガラケー。
「ああ……。この頃って、こんなの使ってたんだっけ……」
ガラケーを開いて、そこに表示されている日時を確認する。
「四月十七日……水曜……。日付は今日……! だけど今日は水曜じゃない……火曜のはずだぞ……?」
もうこの時点で明らかにおかしい。
だが、それよりも僕が知りたいのは『いったい今が何年か』ということなのだ。
すでに使い方を忘れているガラケーを必死に操作してカレンダー機能を探す。
「あった……カレンダー! に、ニ〇〇ニ年…………」
間違いない。
僕は過去にタイムリープしてしまったのだ。
ちょうど十年前の今日に────。