第十二話「集団極性化の末路」
しばらくすると、須藤さんに群がっていたクラスメートの大半が、僕と水森を囲うようにして集まってきた。
僕と水森の間に発生していた不穏な空気を察知したのだろう。
その時だった。
状況を理解したクラスメートの一人が、まるで汚物を見るような目で水森に罵声を浴びせたのだ。
「水森…………おまえ気持ち悪っ……」
「え……?」
クラスメートの容赦ない言葉が水森を襲う。
水森の目は大きく見開かれ、視線は宙を彷徨い、その瞳は小刻みに揺れている。
すると、この行動に触発されたのか、次々とほかのクラスメートたちも水森を攻撃し始めたのだ。
「まじで最低だな、水森。……クズすぎ」
「俺らまで巻き込むんじゃねぇよ……このカス!」
「私……。こういうやり方する人、生理的に受け付けないのよねぇ……」
気づけば、この場にいるほとんどの者が、水森に対して心無い誹謗中傷を浴びせていた。
まるで水森のすべてを否定するかのように────。
「お……おい、おまえら……⁉ ちょっと、ま───」
僕がそう言いかけたその時だった。
「……痛っ!?」
誰かが水森に向かって、黒板消しを投げたのだ。
黒板消しが当たった水森のこめかみ付近が、チョークの粉で白くなっている。
それを皮切りに、この場にいた大勢が水森に向かって色々なものを投げつけ始めた。
ノートや筆記用具、教科書、さらには雑巾まで───
「痛いっ…………痛いっ……!」
教室の隅に追い詰められ、頭を抱えるようにして、その場で亀のように丸くなる水森。
だがクラスメートたちの攻撃が、止むことはなかった。
そこら辺にあるものを手にとり、次々と水森に向かって投げつけていく。
「この性悪クソ女……! 食らえよっ……これが正義の鉄槌だァ!」
「おらぁ! 須藤に謝れよ、こらぁ!」
「そうだ、そうだ! てめぇみてえな救いようのねぇクズは生きてる価値ねぇんだよ!」
その時だった。
「────やめてっ!」
須藤さんの言葉だった。
この一声によって、クラスメートたちによる水森への集中砲火が止んだのだ。
須藤さんは、その目に大粒の涙をいっぱいためて震えている。
「な……なんだよ? 俺らは須藤のためにやってやったんだろ……?」
クラスメートの一人が、不満気な顔で須藤さんへ正当性を主張した。
すると須藤さんは唇を噛みしめ、涙を流しながら答えたのだ。
「私っ……! そんなこと頼んでない……! なんで……なんで、そんなことするの…………?」




