第十一話「隠された気持ち」
◇ ◆ ◇
ものの数分で状況は一転した。
須藤さんも、心なしか口角が上がってきているようにも見える。
まだ須藤さんは少し恥ずかしそうにはしているが、たくさんのクラスメートたちが自分たちの非を認めて謝罪してくれたことはもちろん、多くの者が『本心ではなかった』という事実を伝えてくれたのが大きかったのかもしれない。
もはや須藤さんのことを馬鹿にしている人間など、この場にはほとんどいないだろう。
それどころか、本当は須藤さんが大勢の人間に愛されているのだと──
そう須藤さん自身も実感できるほどの大きな祝福が、今彼女の周りにあふれている。
そして──
彼女の顔に笑顔が戻った。
僕が見たかった光景。
あの時──
ちょうど十年前。
同調圧力に支配され、彼女の心を傷つける行為に加担してしまった今日。
僕は──
本当は、これが見たかったんだ。
大勢に囲まれて、はにかみながらも幸せそうな笑顔を振りまいている彼女の姿を──
僕は見たかったのだ。
そんななか想定外の展開だと言わんばかりに動揺を見せている人物。
再びクラスメートたちの関心が須藤さんに向けられているなか、僕の視線だけがその人物を捉えていた。
「…………水森!」
僕の言葉に反応して、水森は目を大きく開き、その身体をびくんと強く痙攣させた。
誰からも目を逸らし、宙を泳ぐ彼女の視線の先は、どこを見ているかも定かではない。
ただ──
彼女が、この場にいることに対して気まずいと感じているであろうことは、ひしひしと伝わってきた。
「おまえ……意図的にやったな? どうして須藤さんを陥れるような真似をした!?」
「あ、あたしは……別に────」
彼女を責めたところで、何が変わるわけではない。
だが──
なあなあにするつもりもない。
「『別に』って、なんだよ? さっきの姑息な誘導の仕方…………悪意がなかったとは言わせないぞ!」
「だ、だって…………! あたしは……あたしだって────」
泣きそうに何かを訴えようとしている彼女の表情は、まるで叱られている子供が必死で自分の主張を伝えようとしているかのようにも見えた。
大きな瞳を小刻みに震わせ、目にはうっすらと涙が滲んでいるのがわかる。
唇を噛みしめ、しわだらけになった彼女の顎。
それは、彼女が心の奥底に何か特別な譲れない想いを隠しているのだということを、僕に予感させる決定的な仕草でもあった。




