第十話「変わるきっかけ」
(本当に、これで良かったのだろうか?)
僕は複雑な気分に陥っていた。
そもそも今回の出来事が本当に十年後の須藤さんの自殺に関係していたのかどうか──
それこそ、十年後の彼女以外に分かる者などいないのだ。
僕が大ごとにしたせいで、逆に彼女のプライドを余計に傷つけてしまった可能性だってあるのではないか──と。
だが、あのまま見て見ぬふりをしていれば、結局なにも変わらないままであったことも確かなのだ。
僕の記憶にある結末。
彼女が受けた仕打ちは、こんなものでは済んでいなかった。
もはやイジメと言っても過言ではないくらいエスカレートしていって、それは悲惨なものだったと断言できる。
問題は今回の須藤さんに対する行為が、シンプルに叩いたり蹴ったりとかでもなければ、画びょうなどを用いた陰湿なイジメというわけでもなく、本当に友達同士の悪ノリというか、ふざけ合いの延長線のような際どいラインの行為だったということ。
それが、いつの間にか『十人以上が一斉に須藤さん一人だけを攻撃する』という一方的な心無い構図になってしまっていたことに、いったいどれだけの人間が気づいていたのか────。
この場にいた者たち全員が、それを認識していたとは限らない。
本当に悪意はなくて、流れでなんとなく周りに同調していただけのヤツもいただろう。
ただ──
少なくとも僕は、この十年間ずっと後悔して生きてきた。
誰も口にしないから──
だから誰も気づかないのだ。
自分たちがやっていることが、いかに愚かで、みっともないことかということを──。
そして誰もが気づいていないふりをして口をつぐむのだ。
それが結果的に、同調圧力に支配されることになるとも知らずに────。
(これじゃ、ただ自分の罪悪感を払拭しただけで、彼女は何一つ救われていないんじゃないか……?)
これまでとは違った別の後悔が、僕の心をじわじわと侵蝕し始めていた。
その時だった。
克起が僕に近づいてきて、耳元で小さく囁いたのだ。
「友介、ありがとな。俺……もう少しで最低のヤツに成り下がるところだったよ」
克起は、そのまま誰とも目を合わさずに、教室から出て行ってしまった。
すると間もなく、あたりが少しずつざわめき出していることに気づく。
克起がこちら側に寝返ったことで、空気が変わったのだ。
そこらじゅうにいたクラスメートたちは、皆ばつの悪そうな顔をして目を逸らし始めている。
そして一人また一人と、須藤さんに謝罪をし始めるクラスメートたち。
その光景に、僕は何か希望のようなものを感じ始めていた。
(未来が……変わるかもしれない────)




