第16話 呆然
彼は自己紹介をすると2人に手を差し伸べ、それに2人は食事の手を止め握手を交わすと、とても冷たい手に少し驚く。
「この後、どうやら選別の続きがあるらしいね」
「選別ならもう終わったんじゃないのか?神も居なくなったと聞いたが」
ガマルは鶏肉の骨同士を軽く叩きながら言うが、ダゴンはそれを軽く笑い、話を続けた。
「アラスタ君、君は見たかい?アレと会った時、記憶にない記憶を」
腕を組み思い返してみる、何かを見た記憶はうっすらとはある、学校のような記憶、記憶にない記憶というのは当てはまらない、そうアラスタが思った時にダゴンは指を鳴らした。
「君が選別を終えた時にアレは居なくなった、君より前の選別者に聞くとやはり記憶にない、だが確かに自身の記憶なんだと思えてならない記憶を見たというんだよ」
そう言われた2人、アラスタは間の抜けた表情を浮かべていたが、ガマルはアラスタのことを見ると、顔をしかめて深く息を吸い、口を閉じる。
「しかも皆が皆、同じような記憶だったんだ、曖昧ではあるけどね」
「血と泥と雨だろう?」
ガマルは俯いて腕を組んだままそう呟くと、ダゴンは驚いた様な表情だった。
「君は見なかったんだね、死を」
2人の意味のわからない会話にまだ間の抜けた表情を浮かべるアラスタは、フォークにレタスを突き刺して頬張ると、カガの方を見るが、特に意に返す事なく無心にパンを貪っていた。
「代わりに、ホールで星見が残りの選別を行うらしい、アレよりも精度は劣るらしいがまぁ、行ってくるとするよ」
席を立つダゴンは去り際にリンゴをひとつ手に取ると扉へと歩いていく。
「また会おうね」
そう言って去っていく背中を見ながらパンをまだ咀嚼しているアラスタは眉一つ動かさずに呟く。
「なんかスカしたやつだな」
そんな独り言にガマルは反応せずにテーブルに両手で叩くように置くと前のめりになる。
「見に行かないかアラスタ、カガ、星見には興味があるんだ」
「星見って……罪人なんでしょ」
そんなふたりの会話よりも、引っかかる点がアラスタにはあった、話の矛先をガマルとアラスタにしか向けなかった事である、途中ガマルも表情を曇らせていた。
「なに?」
当の本人であるカガは特に気にしていない様子。
「星見は星を元に神の力を模倣する技だぞ、犯罪者呼ばわりは早計だと思うんだ」
「それがまずいから犯罪者と言われてる」
「そうかぁ?」と口には出さないものの腕を組み首を傾げるガマルの肩を叩くように手を置くともはや松葉杖をつくことすら忘れて立ち上がるアラスタ。
「俺も気になるから行くよ」
ガマルはアラスタの松葉杖を握って肩に担ぐと鼻息を勢いよく吐き出してアラスタの横に着くと、カガも同じように立つ。
「なんだカガも見たかったのか!!」
「うん」
ニヤニヤと笑うガマルの顔を一切見ずにカガが歩き出し、アラスタとガマルもそれを追うようにホールへと歩き出した。
しばらく歩き、異変に気が付く、選別者と思しき若者たちが血相変えてこの学園から出ていくのだ。
何があったのかとホールに入ると、女性のけたたましい雄叫びに一瞬たじろぐ3人、ホール中央に両腕を根元と手首に大きな鉄錠に繋がれ、その手を眼前に立つ若者に突き出し、手のひらから青白い光を輝かせる女性が立っていた。
黒に青い襟の着いた長いローブ、縁は白銀に彩られた薄汚れたそれを着込む女性は、長い茶髪も髪も酷く痛み、若いと認識出来るが酷く老け込んだ顔を、その若者の顔を覗き込もうとした時に見えたその目は、白目が黄ばみ血走った目は常人のそれとは思えなかった。
「君もか、君もなのか、君はダメだ!!死んでしまう!!今ならまだ間に合う!!ここを去れ!!」
これは本当に信用に足る言葉なのかと3人は眉間に皺を寄せるが、その星見の両端に立つ2人のチェスターコートに身を包む男は若者に問う。
「どうする?残るか、帰るか」
その2人の冷たい声色に恐怖を感じた若者は帰るとも言わずそのまま走り去る若者。
ふと気づくと見覚えのある男が次の若者らしい、あれは確かにダゴンだった、アラスタに気づくとウィンクをして親指を立てる。
選別者達が疎らに散るホールをゆっくりと歩き、アラスタ達がダゴンの少し後ろに立ち止まった時だった、星見の元からおかしかった様子が更におかしくなった。
おかしくなったというのは間違った表現かもしれない、先程までの震える眼球と手足に顎、冷や汗、血の気の引いた青みがかった白い顔色、落ち着かない狂人のような様子から、所謂「まとも」になったのだ。
生気の宿った星見は、俯いた顔を前を真っ直ぐ、ゆっくりと目を向ける。
「ようやく見つけましたよ、貴方が皆を」
そう言って立ち上がると、その場で顔が歪むほど頬を手で掴むと掻きむしる。
「あなたが皆を、皆を!!」
そう言って歩き出そうとした時、星見の横に立った掘削師の1人が片手に持った短銃で星見の頭を撃ち抜いた。
アラスタ達はその轟音に一瞬身体が強く硬直した。
アラスタは昔見た映画を思い出した、アクション映画で撃たれた悪役達は撃たれると派手に吹っ飛んだりしたものだが、現実はそうでは無い。
撃たれた星見は撃たれた時に少し頭は動きはしたものの、そのままその場に膝から崩れ落ち、地面に着く頃にはうずくまった身体がゆっくりと関節が開いていき真っ直ぐに地面に倒れ込んでいた。
骨と肉と血が飛び散ったホールを見て呆然とするアラスタ達をよそに、2人の掘削師は冷たい声色で皆に伝える。
「選別は終わりだ、まだの奴は帰れ」
アラスタはダゴンを見る、彼は座ったまま、アラスタ達を見て、張り付いたような笑顔を向けていた。
目に涙をうかべ、笑っていた。
彼は震えながら、アラスタに呟いた。
「嗚呼、やっと会えた」
そんなダゴンに掘削師2人が短銃を向けた瞬間を見たアラスタとガマル、カガは走り出した。
その時、ダゴンは身をその場で屈み、後ろに踵で蹴りあげるように、自分の後方にいる掘削師の短銃を蹴り上げ手から離させると、そのままの勢いで背中を地面に着け、それを軸に横回転し、前方の掘削師の短銃を両足で挟み空へと投げる。
2人の掘削師が怯んでいる好きに飛び上がるように着地すると、投げた短銃を掴むと後方の掘削師に向け、前方の掘削師にはどこから取りだしたか分からないナイフを向けていた。
「消せとでも言われてたのかな?」
「お前ら!手を貸せ!」
掘削師はアラスタ達に向けて叫ぶが、状況を呑み込めずにいた。
「こいつは、生かしていては駄目なんだ!」
「ダゴン!どうなってんだ、説明してくれよ!!」
アラスタは叫ぶ、その叫びに、ダゴンは先程とは違う、優しい笑顔を向けていた。
「みんな死ぬぞ!!」
緊張がピークまで達した時、突然ダゴンが手にしていたナイフを落とす。
2人の掘削師の視線がそのナイフへと向かったその一瞬に、ダゴンは2人を瞬く間に蹴りによって気絶させると、すっかり静まり返ったホールで、ようやくアラスタ達に向けて言葉を吐いた。
「そのうち分かるさ、今はまだ教えられない」
その時、何かがダゴンの頬を掠め、そのまま後ろのステンドグラスを砕く。
それを放ったのはラグルだった、その手に握られた短銃からは硝煙が揺らめいていた、
ダゴンはニヤリと笑うと踵を返し、そのステンドグラスから外へと走っていった。
「逃がすな!」
ラグルに続くように数人の掘削師も走り出していく、ホールに残されたのは気絶した掘削師2人、星見の無惨な死体、そしてアラスタ達3人のみであった。
沈黙を破ったのはカガであった。
「部屋戻る?」
アラスタとガマルは、少し間を置いて呟いた。
「うん」




