第15話 ダゴン
「アラスタ!!」
鼓膜をぶち破らんばかりの声量にベッドから飛び起きるアラスタ。
なんなんだと不満げに左耳をほじりながら状態を起こすと、ベッドの上にガマルが腕を組んだまま跨ぐような形で仁王立ちでそこに居た。
「もうそんな時間か」
カガも遅れて、部屋に入ってくるとテーブルに置かれた義足と義手を手に取り、膝を着くと、ベッドに腰掛ける形に座り直したアラスタの手足にはめ込む。
慣れた手つきで素早くはめ込んだカガは立ち上がり、ガマルがアラスタに肩を貸して立ち上がった。
まだ本調子ではないアラスタは、肩を借りながらも義足を引き摺るように車椅子まで歩いていき座ると、ガマルがそれを押して部屋の外へと出る、カガもそれを追うように着いていく。
「食べて早く元気になってもらわなくてはな!」
「そうだな」
3人は食事に向かおうとしていた、広い大理石の床と義足が擦れる音は学生たちの声にかき消され、すぐにその声は自分たちに向けられているとわかった。
その殆どは3人よりも上級生と思われる者たちの声で、見るからに満身創痍なアラスタを笑う者もいれば、ガマルやカガを見て意味の無い賞賛の言葉を投げかけるものもいる。
「さっ、足元には気をつけるんだぞ!」
廊下を突き当たり階段に差し掛かった時、アラスタはガマルから離れ、1人で、静かに階段を降り始めた。
2人はそれを静かに見守るだけ。
しばらく時間をかけ、降り切ると、アラスタは2人の方に視線を移して不格好に笑って見せた。
「大丈夫そう」
カガがそう呟くと、ガマルは一気に階段を降り切り、アラスタの背中を強く叩いて、走り出した。
「今度は食堂までダッシュだ!!」
言葉の最後はほぼ聞こえなかったが、すぐにカガも追いかけるように走りだす。
アラスタは最初は足が震え、力が篭らなかったが、徐々に転倒する恐怖を克服すると、完全では無いが走り出した。
2人の背中は遠く、追いつくことは出来なかったが、やっとの思いで廊下突き当たり、食堂に到着した。
「もう病人扱いは出来ないな!!」
「容赦ないなお前ら」
カガが扉を開くと、学徒達が3人のいる方へと少し視線を送るが、すぐに食事を再開する。
3人は最後にこの食堂に入ったようで、空いた席はトイレの近くの席のみ、ガマルとカガのふたりは席にすぐさま座るが、アラスタはそれ見て。
「食事取りに行かないのか?」
ガマルはにやりと笑みを浮かべると人差し指を左右に降り、舌を鳴らした。
「席につけば食事は届けられるんだ!!」
アラスタは少しガマルの言い方が癪に障ったのか、意味もなく頭を叩いて、ガマルとカガの間に横並びになるように、隣に座る。
「大丈夫アラスタ、ガマルも最初勘違いして厨房に突撃したから」
「そうだぞアラスタ!分からないことは恥じゃないぞ!!」
すると席についてすぐに、白いエプロンを着用し、髪を綺麗に横に流すように蝋で固めた男が皿を置いた、そこには豆の入ったシチューが注がれており、香ばしい香りを乗せた湯気が鼻腔を軽く刺激した。
流れるような手つきでスプーンと皿に乗ったパンを置いていくと、最後に大きな鳥の丸焼きで3人の前に置かれた、嗅ぎ覚えのあるこの香草と油の香りは、確かに部屋でガマルに顔面に押し付けられたあの匂いだった。
「ありがとう」
アラスタは笑顔をその男に向けると、男は優しい笑みを浮かべてお辞儀し、キビキビとした動作で去っていった。
「食べましょう?アラスタ、貴方はゆっくり食べた方がいいわ」
「ふぇ?」
カガ見た時既にアラスタが鶏肉のももを引きちぎり、パンと一緒に口の中いっぱいに頬張っている姿だった。
「大食い競走なら負けないぞ!!」
ガマルも負けじと用意されたスプーンやフォークを使うことなく素手で引きちぎりそれをかぶりつく。
「私もいただきます」
何故かカガも同じように素手で行った。
ほかの学徒達とは一線を画す下品で見事な食いっぷりを見せる3人に、緑のエゴグサのような髪を持つ男が近寄り、アラスタ達とテーブルを挟んで向かいの席に座る女性学徒に話しかける。
「悪いが席を譲ってはくれないかな」
「はぁ?あたしまだ食事が……あっ」
明らかに不機嫌に歪んだ表情はその男の顔を見た瞬間、頬を紅潮させ綻ばせた。
ガマルの父、ハルク以上とは言えないものの、それに近いほどの美貌と言えるほどの顔立ちがそこにはあったからだ。
目線は釘付けのまま、席を立つと、そのままその男に席を譲り、そこに座った男は、その女性の手を握り、軽く握手を交わす、そして小首を曲げ爽やかな笑顔を向ける。
ボシュッと顔から湯気が吹き出すほどの紅潮を見せて、虚ろなまま女性が食堂を立ち去っていった。
「やぁ、君がアラスタ君、そしてガマル君に、カガ君……だよね?」
3人は口に手羽やももの骨を加えたまま男の方を見る、暫く見つめたあと、スープを飲み干すと、骨を皿に起き、更に見つめる。
「誰お前」
最初に言葉を発したのはアラスタだった。
「これは失礼した、僕の名前はアークトス・ダゴン、よろしく頼むよ」




