16.戦闘訓練と成長
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「――『ハイヒール』!さすがに疲れたわね・・・」
戦いに戦いを重ね、本日何十回目かのハイヒールで回復してもらう。
四方を敵に囲まれた後も何十体、もしかすると50体以上、戦闘しているかもしれないが、とにかく連戦でヘトヘトだ。
シルフィのおかげで身体的な疲労感は無いが、精神的にこれ以上戦えない。
ここデカント大平原は広大な土地と豊富な恵みがある為、様々な種類のモンスターがいるという。
特に中級者向けの『E~D』ランクが多く、今の俺にはうってつけの場所らしい。
冷たく少し湿った芝生に座り込み、両手を後ろにつく。空を見上げながら、荒れた息を整えステータス画面を確認する。
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名前 :ゴブリンX
ランク :E
装備 :使い古した服★1
シルフィの指輪★5
金砕棒★4
呪いのネックレス★5
スキル :『心眼』Lv2 ユニークスキル
『パリィ』★5 Lv3
『ゴブリンパワー』Lv2 種族特有スキル
『瞬歩』★5 Lv1
加護 :下剋上
ポイント:1,280
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Eランクモンスターや途中Cランクのヘルウルフという強敵とも戦った。
これだけたくさんの戦闘をしても300ちょっとのポイントか。
――『非』戦闘向きのスキルや身体能力だと、その日の食料確保もままならないな。
「ところでシルフィ。おそらく、かれこれ8時間くらい戦ってもうすぐ明け方だけど、あんまり眠くならないんだ。『ハイヒール』って眠気も無くすのか?」
「それは『ハイヒール』とは関係ないわ。おそらくソースケがゴブリンだからよ。その上ソースケは『ゴブリンパワー』のおかげで、1日2時間くらい寝るだけで活動できるはずよ」
なるほど。前の世界にこそ欲しかった身体だ。
ブラック企業には持ってこいの完全体。いや社畜体だ。
「それと常に『心眼』や『ゴブリンパワー』を使ってるけど、スキルレベルがあがる気配がないんだが、レベルが上がる条件ってあるのか?『パリィ』は徐々にレベルがあがってるんだが」
「前にも説明したけど、ユニークスキルと種族特有スキルは強力なスキルなのよ。そんなに簡単にレベルが上がらないわ。ただ自分よりも格上の相手と戦い続ければ、戦闘数は少なくてもレベルがあがるかもしれないわね」
「そんなにうまくはいかないか。『心眼』も『ゴブリンパワー』も強いスキルだもんな。『心眼』は相手の動きが極端に遅く見える上に攻撃軌道や弱点もわかる。『ゴブリンパワー』は人間の時よりも身体能力が高いゴブリンの身体を、さらに攻撃力・防御力・スピードが普段の2倍ほどは上昇している感覚だ」
「確かに優秀なスキルだけど、それを扱うソースケが良いセンスしていると思うわ。そこに見た目良し!頭脳良し!性格良し!の三拍子揃ったシルフィ様がいるんだから、将来安泰だね」
「そうだな・・・口はうるさいけど、優秀なサポートをしてくれるシルフィがいてくれるから、何も心配せず戦闘に集中できるよ」
「口うるさいは余計よ!ふんッ。」
口先では怒っているようだが、そっぽを向くその顔はどこか嬉しそうで耳は真っ赤だ。
こういう可愛いところがあるのが面白い。
「それにシルフィはこの世界のことを何でも知っていて博識だし、笑うととっても可愛いから一緒にいると気持ちが楽になる。本当に感謝しているよ。ありがとうな」
「――べ、別にそんなの当たり前なんだから。わざわざ言わなくてもいいんだからっ!!!もうっ!」
口からでる言葉と、嬉しそうで真っ赤な顔が、相反していて面白い。
白い肌をしている為、余計に赤い顔が目立つ。
恥ずかしさを紛らわせる為か、ほっぺたを膨らませている。
――かと思えば俺の胸まで来て、胸のあたりをポコポコと殴っている。
この世界に変わってから、信じられないことがたくさんあって、1人だったらすぐに心が折れていただろう。
こうやって笑いながら心が落ち着いているのは、シルフィのおかげだ。だからさっき言った言葉も本音なんだ。
――けどこれ以上言うと、恥ずかしさのあまりどこかに行ってしまいそうだから、辞めておこう。
ありがとうなシルフィ。これからもよろしくな。そう心の中でつぶやき、立ち上がる。
今日は戦いすぎて疲れた。シルフィもなんだかんだ、スキルをたくさん使いすぎて疲れていそうだ。
城下町からデカント大平原まで来たが、ここから戻るまでだいぶ遠そうだ・・・。
俺たちは城下町『ダイバー』から遠く離れ、巨山の麓に広がる森と、デカント大平原の境目近くまで来ていた。
「ここから戻るのは大変だけど、頑張って城下町へ戻ろうシルフィ」
そう元気よくシルフィに声をかけ城下町へ戻ろうとした時。巨山麓の森方面から、異様な雰囲気を感じ取り振り返る。
「ソースケ!戦闘準備よ!!」
見ると森側からヘルウルフが30体ほど、こちら側へ走って向かってくる!
ヘルウルフは普段は巨山の麓の森に生息している。
非常に戦闘力が高いが群れるのを嫌い、1匹ずつでしか戦闘にならない。
戦闘では、二足歩行で短剣2つを巧みに操り、その俊敏な動きも相まって『森の殺し屋』といわれるほどだ。
ヘルウルフとは1度だけ戦ったが、鎧のような硬さの毛、スピード、鋭い攻撃にだいぶ苦戦した。
ブラックタイガーは1発で倒せたが、ヘルウルフには金砕棒を何度か叩き込んで漸く倒せた。
そのヘルウルフが30体。しかも四足歩行で走っている。
どこか、何かを恐れているかのような表情をしている。
あっけにとられ、戦うか逃げるか迷っていると、急にその場に止まるヘルウルフ達。
――どうしたんだ。まさか俺の強さにビビってるのか。いや、そんなはずはない。さすがに30体の群れを相手に戦えば死ぬだろう。
だが俺を見て恐怖の表情を浮かべている。
よし、ここは大声を出して威嚇してやろう。
戦わずに森へ帰してやる。
大きく息を吸い込み大声をあげる。
「ガルルルルルルルル!!!!!!」
そう。ガルルルルルルルル!って
――え?!
突然背後から凄まじい声が響く。
いつの間に後ろに??!
声の勢いに押され、前のめりに倒れ両手を地面につく。
――恐るおそる首だけ後ろを向ける。
で、でかい・・・。黒い虎だ。
ブラックタイガーの5倍は大きい。
それになんだこの圧倒的な強者感は。見ただけでわかる強さ。
こいつから発せられる威圧のせいか身体が重い。
重力が2倍になったようだ。
動きたくても身体が思うように動かない・・・。
――動けずにいると、そいつはゆっくりと近づいてくる。
逃げなきゃ殺される。
急に脈動をうつ心臓。
ドクドクドク!!!
いま動かなきゃ死ぬ!
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