引きこもり2
西の町までは二日ほどかかる。
先に簡単な手紙を送ってから出発して、馬車に揺られながら、父は翠花から、少しずつ話を聞き出した。
梨家の長男にあたる弟は、現在寄宿舎にいるため、連絡だけして二人きりでの旅。
話を聞いて、分かったことは、やはり少なかった。
商売がら、いろんな所から情報は入る。
皇太子も見たことがあるし、その人となりも悪い噂は聞かない。
唯一あるとしたら、あの見た目のせいで、多くの令嬢が熱を上げ、追いかけ回しているというものくらい。
今の状況から考えると、そこのところが一番気になるのだが、それ以外は若いのに真面目で勤勉、からだのキレもよく非の打ち所のない皇太子、らしい。
だから、分からない。
「よし。」
父は気合いをいれる。
・・実のところ、母方の祖母、翠花の父からすると義母は、ちょっと変わった人で、翠花のために連れてきたものの、父は少し、いや、かなり苦手だった。
「こんにち・・。」
「いやああああ!翠花ちゃあん!会いたかったわあ!!」
祖母は御年47歳。
現役感ありありの美人で、旦那亡きあと、梨家に嫁いだ娘以外に子どもがいなかったために一人で生活していた。
極めて異例なことだが、一人娘を嫁に出し、代わりに養子を迎えていて、その家族が仕事を引き継いだ。
西の町を納める領主である。
大事な一人娘を嫁にもらっておきながら、早くに亡くしてしまった罪悪感と、あとは、単純にあのテンションの高さについていけないのもあるが、来るのには結構勇気が必要だった。
(だが・・。)
久しぶりの再開に、ささやかだが笑顔を浮かべる翠花に、父は連れてきてよかったと、胸を撫で下ろした。
挨拶もそこそこに、翠花をしばらく預かってほしいことを頼み、分かる範囲で翠花の状況をまとめた手紙を渡す。
長旅の疲れを癒す間もなく、ぎりぎりの予定て動いていたため、父は早々に帰っていき、翠花は自分用に開けてもらった部屋で、一息ついた。
(・・慌ただしかったな。お父様は大丈夫かしら。)
出発前も、使用人から気遣う言葉をたくさんもらった。
皇太子の真意は分からないが、あのまま王都にいたら、間違いなく平穏に過ごすことはできなかっただろう。
(ここに来れて良かった。)
信用できる人のそばで、どうしたらいいか考えたかった。
馬車でもいろいろ考えたが、分からないことばかりで、そうなると、後悔ばかりしてしまった。
皇太子が本気だとしたら、きっと翠花が意図しないうちに自分のことを過大にアピールしてしまったのだ。
皇太子が嫌がらせやからかいであんなことをしたのなら、それもまた、翠花が知らずに気にさわることをしたにちがいない。
(みんなに迷惑をかけてしまったわ。でも、でも、お見合い相手が皇太子なんて、思わないもの。)
何でこうなってしまったのか。
はあ。と大きく息をついた時、戸がどどんとあいて、祖母が登場したのだが。
「お、おばあちゃん??」
翠花が見たのは、布にまみれた祖母の姿。
「よいしょ。」
祖母はその布の山を部屋のベッドにおろしてにっこりした。
「楽しみにしてたのよ!!ここにきたからには、楽しませてもらうわ!!」
布の山はよく見ると、いろとりどりの衣装だった。
(ここはここで、平穏ではないのかもしれないけど。)
翠花はすぐに、予感の正解を思い知るのである。