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絶対クリアさせたいダンジョンの支配者と、絶対クリアできないダンジョンの初心者

作者: ELS

絶対クリアさせたいダンジョンの支配者と、絶対クリアできないダンジョンの初心者



2021年某月

九州のとある遺跡から、古代の遺物が出土した。それを見た専門家はこぞって首を捻ることになる。


『この時代に、こんな物が存在する筈がない』


かつて存在したという邪馬台国。近代的な年代測定の結果、それに準ずる時代の遺物だという。

最古の双六(スゴロク)とでも言うべきだろうか。最初の盤上遊戯(ボードゲーム)と評するのが正しいのだろうか。

なんにせよそれが、その時代に存在したと言うことが、あらゆる最新機器が証明した。

不思議な盤上遊戯はいくつかの研究機関を巡って、それはこの大学の一室にも来ることとなった。


「触るのは危なくないかな」

「いけるでしょ、何?びびってんの」


一組の男女が、その古ぼけた盤上の前に揃っていた。くすんだ稲穂色の盤の上には、動物の骨で作ったであろう黒ずんだ立体がいくつもあった。

立方体だけではなく面の数は様々だ。ただ、どれもが上面が水平を向くようになっている。


「これって、サイコロなの?」

「うん、そう見えるね。六面だけじゃなくて、多分もっと大きな目。多分十面とか二十面とか……」


女がその中の一つを手に取った。慌てて、男が静止する。


「やばいって」

「大丈夫でしょ。ダイスロール!ってね」


女は賽を投げた。

その瞬間、古ぼけた盤上が眩い光を放った。


「うわっ!」

「ちょっと、なにこれ!?」


まぶたを閉じてなお、貫くような光量が狭い部屋を照らし出した。しばらくして、光が止むと二人の人間は、忽然と姿を消していた。



……



真っ白な空間に彼は居た。

タキシードにシルクハット、黒より暗くのっぺりとした闇の色。全身に黒をまとった男が、簡素な椅子に腰掛けていた。(からす)のような面を被り、異様な出立ちである。


「お客さんだぞ」


何もない空間から、もう一人。今度は上から下まで真っ赤なコートの男だ。


「そうか。今度は楽しませてくれるかな」


ふふっと軽く笑みをこぼしながら(からす)が言った。


「おいおい、随分余裕だな。お前の迷宮(せかい)、今月一人も突破者を出していないだろう。上が危惧していたぞ」

「そうだったかな。そんなに難しくした覚えはないが……」


椅子に腰掛けたまま、(からす)は足を組み替えた。


「いや、そうだ。ともかく、今度の人間には迷宮を突破させろという御達しが出ている。これを破れば君は解任だそうだ」

「解任?」

「お役御免だよ、それが嫌なら役目を果たすんだな。いいか、必ず今度の冒険者には迷宮を突破させろ」

「チッ。まぁ、わかったよ」

「必ずクリアさせるんだぞ。お前、首がかかってるんだからな」


はぁ。と一つため息を吐いたあと、(からす)は同僚に問うた。


「それで、次はどんな人間なんだ?」

阿呆(あほ)そうなカップルだよ」



……



白い何もない空間に、一組の男女が現れた。

彼らの目の前には椅子に座った(からす)の面の男。


「やあ、ようこそ。私の世界へ」

「な、なに?」


女がキョロキョロとあたりを見回すが、彼ら以外には何もない。


「君たちには、この迷宮に挑んでもらう。真理の迷宮!これは古の大賢者が、自らの知識を全て残したとされる大迷宮だ」

「真理の……迷宮?」

「そうだ!この迷宮の最奥には、古の大賢者の全てが眠っているだろう。富と、知識と、そして君たちの世界に帰るための方法も」



「世界に帰る方法?」



「そう!君たちはこのゲームの迷宮に捕らえられた旅人だ。元の世界に帰るには、迷宮をクリアするほかない」

「うそ……でしょ。いや、やってやろうじゃん!」

「良し!その心意気や良し!」


「では最初に君たちの名前を決める!」


「柚木みかん……君はミカだ!そして、田中勇気……君はユウと名乗りたまえ!」

「ミカ……いい名前ね!わかったわ」

「ユウだね。わかったよ」




「さあ、君たちの種族と職業(クラス)を選択してもらおう!」



「私は、人間で……戦士!」

「僕はハーフエルフの魔法使いにするよ」

「いいだろう。ではボーナスポイントを振り分けて、能力を確定させたまえ!今回は特別に20ポイントを自由に振り分けすることができる!」



(ふふ、いつもはこの能力値はダイスで決まる。そして20ポイントは最大の数値だ、ここまでお膳立てしてやれば……)


「うーん、やっぱり戦士だし(ストレングス)に全振りよね」


(!?)



「戦士!いい職業だ、肉弾戦のエキスパート!味方を守るユニットでもある。生命力にいくらか振り分けるのがセオリーのキャラクターだ!」


(からす)はそう告げたあと、ジッと黙ってしまった。ミカはもう一度言う。


「私は(ストレングス)に全振りでいくわ!」


「なるほど。ちなみに、戦士というユニットは味方を敵の肉弾攻撃から守る役割をもったクラスだ。生命力の説明を聞くかね?」


「いや、良いわ!私は(ストレングズ)に20ポイント全部注ぎ込むわ!」


「待って、ミカさん!能力値の説明を聞いてからにしよう」

「んー……それもそうね」



能力値(ステータス)の説明をしよう!」


生命力……ユニットの打たれ強さに影響

力……ユニットの物理攻撃力に影響

敏捷性……ユニットの回避率、命中率に影響

知恵……ユニットの魔法力に影響

器用さ……ユニットの命中率、一部の武器の使用に影響


「これを見ると、バランスが重要な気もするね」


(そうだ、ようやく気がついたな)


「さあ、ユニットのボーナスポイントを決定したまえ!」

「そうね、命中、回避……そして打たれ強さ。でも私は結構もとから打たれ強いから、(ストレングス)全振りでいくわ!!」


ミカのその言葉を受けて、烏の動きが止まる。


「……」

「…………」

「力に全部だな?」

「そうよ。決定っと」


数秒の間を置いて、烏はユウに向き直った。


「わかった、良いだろう。次はユウ、君の選択だ!」

「僕はバランス型で、全部に4ポイントずつ振り分けるよ!」


(!?)


「全部に?君のクラスはハーフエルフの魔法使い、強力な魔法を得意とするクラスだ。魔法といえば、知恵という能力値が重要視される」

「うん。僕は全部に4ポイントを振る!決定だ!」

「魔法使いのクラスは、ほとんど武器を振るうことはないだろう。魔法力が足りなければ、魔法の威力だけでなく回数にもかなりの制限があるが……」

「よし、4ポイントずつで……決定っと」


再び数秒の沈黙。


「……」

「…………」


しばらくの無言の時間を置いて。ついに(からす)は意を決したように口を開いた。


「さあ、旅立ちたまえ!戦士ミカ、そして魔法使いユウよ!」



……



再びの眩い光、そしてその先では草原の匂いとそして、煉瓦造りの街並みが眼前に広がった。


「ここは、街?」

「そうみたいだね」

「街の中央に洞窟みたいなものがある、きっとあれが迷宮だろうね」


そんな話をしていると、さっきの烏男らしき声が、頭の中に直接聞こえてきた。


『迷宮世界に降り立った冒険者たちは、各々の能力値を確認することになった』



ミカ

種族:人間

職業:戦士

HP:3

生命力:1

力:21

敏捷性:1

知恵:1

器用さ:1



ユウ

種族:ハーフエルフ

職業:魔法使い

HP:8

生命力:5

力:5

敏捷性:5

知恵:5

器用さ:5



「HP3しかないじゃん!クソゲーじゃん!?」

「まって、ミカさん。ちょっと思い出してみる……あの(からす)生命力が打たれ強さに関係あるって言ってたけど、もしかしてHPは生命力と関係あるのかも」

「うそ……でしょ。はっきり言ってくれないのはクソだわ」

「ゲームマスターを責めても仕方ないよ。持てる力でやっていくしかない。諦めずに頑張ろう!」

「……そうね。ユウに励まされるなんてね!」


ミカとユウはお互いの能力値を把握して、それでなお前向きな言葉で励まし合った。


「じゃあ、迷宮にいこう!冒険を始めるんだ!」

「うん!」


『冒険者たちは、自分の能力値を確認することができた。迷宮に向かおうと、街を歩いていると、意味ありげなお爺さんが話しかけてくる』


「そこの冒険者さん、迷宮に入るには準備が重要じゃよ」

「ええ、そうね。ありがとう。お爺さん」


それだけ言うと、ミカはお爺さんを無視してスタスタと迷宮に向けて一直線に歩いていく。ユウもそれに続いた。


『お爺さんの忠告を無視した冒険者たちは、武器屋の前に何かが落ちているのに気がついた』


「何か落ちているよ」

「なにかな?」


布の袋を拾い上げて、中身を確認する。中には黄金に光る硬貨が数枚入っていた。


【冒険者たちは、天文学的な幸運に見舞われて、100ゴールドの資金の入った布袋を武器屋の前で拾うことになった』


さっきのお爺さんが走って追いかけてきた。


「はぁっはぁ、お嬢さん、そこは武器屋だ。迷宮に入る場合は、冒険者は武器を用意することが多いじゃろう」

「そうね。ありがとうお爺さん。でも、私たち急いでいるから」

「お爺さん、息を切らして大丈夫?僕たちもういくね」


そう言って、彼らは迷宮の入り口まで一直線に歩いて行った。すると、全力でさっきのお爺さんが走って追いかけてきた。


「ゼィ、ゼィ。武器屋では、武器だけでなく迷宮攻略に必須な、必須な防具の購入もできるんじゃ」

「有用な情報をありがとうお爺さん。お疲れのようだから、そこで座って休んでね」


お爺さんを道端のベンチに腰掛けさせると、ミカとユウは意気揚々と迷宮に足を踏み入れた。


『普段は真っ暗な暗黒の迷宮だが、今日は非常に運のいいことに発光する苔が生えており、視界はうっすら確認できるようになっていた』


「薄暗いね……気味が悪い」

「うん。ちょっと待って、何かいるよ!」


『冒険者たちは、弱ったコボルドを発見した!普段のは群れで生活しているコボルドだが、たまたま今日は手負いのはぐれコボルドがいたのだ!』


「獣人だよ!犬人間だ!!」

「私に任せて!」


『しかもコボルドはまだこちらに気がついていない!先制攻撃のチャンスだ!』


「攻撃するわ!打撃よ!!」


ミカはそう叫ぶとコボルドに向かってまっすぐ駆け寄っていく!


『ミカの力の値は21、敏捷性1、器用さ1!この力では直撃すれば、手負いのコボルドならば素手でも一撃で倒せる範囲内だ!』


「ダイスロール!!」


ミカが叫ぶ!


『十面ダイスを二つ振る!二つのダイスが01から99までならば奇襲攻撃は成功する!』


出目は……『00』


『致命的な失敗!!ミカはコボルドの前で転んで、3のダメージを受ける!!ミカは死亡した!!』


「きゃあああああああ!?」


『っと思ったが、その時不思議なことが起こって、受け身に成功!ミカは2ポイントのダメージで一命を取り留めた!!』


「死にかけたじゃない!このクソゲー!難しくすぎでしょ!!」

「ミカさん、だめだ!口が悪すぎるよ!」


『コボルドの攻撃ターンだ!ミカのHPは1、絶対絶命のピンチ。しかし、コボルドはもともと重傷を負っている!!コボルドのダイスロール、01から20までの数字が出れば攻撃は成功するが、21から00であれば負傷により失敗する!!』


『ダイスロール!!!05!クリティカル!!コボルドの攻撃判定はクリティカルになる』


「きゃああああああああ!?」


『……』

『…………』


目を閉じたまま、ミカがその時を待つ。ユウの口も開きっぱなしだ。しかしその数秒後。


「ぐるるるる……ぐっ!?ぐああっ!」


『不思議なことがおこり、コボルドは持病で突然苦しみ始めて絶命した!冒険者の勝利だ!!』


「か、勝ったのかな?」

「やった!生き残ったね!」


冒険者たちは、初めの試練を乗り越えてついに最初のモンスターを討伐することに成功した。

しかし、相手は一ヶ月の間成功者の出ていない激ムズ迷宮である。果たして彼らはこの迷宮を走破することができるのだろうか……!





〜続く〜

続くかあー!

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