09 ネコ様のベッド
その次の日、俺は休日のホームセンターを訪れていた。
ちなみに今朝は、休日の午前中から出かけようとする俺を心底不思議そうに見つめるましろに見送られて家を出た。
休日に外出などしないはずのやつだと思われていたのだろうか。まったく、なんて賢いネコなんだろうか。
店内を彷徨いながら、昨晩ましろと一緒に見ていたCMの商品を探す。
通販で買ってしまうのも一つの手だったのだが、どうせなら実際に見て触って買った方が確実性が高いと考えた。
当然と言えば当然かもしれないが、それ以外のペット用品が途方もないの種類と数で売られていることに驚かされる。
種類だけいえばやはり犬やネコといったもののペット用品が過半数を占めて置いてあるが、それ以外の動物用のものも大量に陳列されていた。
正直ここで商品を見ているだけでも充分に暇を潰せそうなくらいには多種多様なラインナップだ。
次々と目移りしてしまう気持ちを抑えながら先へ進んでいくと、ネコ用品が多く置いてあるゾーンに到着する。
ご飯やおもちゃをはじめとして、首輪やハーネスなども色とりどり飽きないカラーリングで並んでいる。
その隣には、広いスペースを惜しげも無く使い、大型のキャットタワーも販売されていた。
自分の背丈ほどあるそのキャットタワーを見て思わず立ち止まってしまう。
これほどまでに大きいサイズのものは、ネコ一匹だけの家庭に置くのは少しだけ違う気がするが、やはりこういったものもましろは欲しかったりするのだろうか……と考えてしまう。
俺の家のような手狭な部屋では、思い切り走ることも出来ないし、さすがにまだ外に出すのは早いだろう。
しかし、それだけ運動ができない分、体力が有り余ってしまうという可能性は大にある。
こういったネコが活動できるようなものも買うべき価値はあると思う。
まあ、こんなに大きいサイズのキャットタワーなんて、そもそも俺の部屋に置くスペースなどないので今のところどうすることも出来ないのである。
──と、気づけば本来の目的も忘れて関係の無いものに気が散ってしまっていた。
あらためて周りを見ると、少し離れたところにそれらしきが並んでいるのを見つける。
近づいてみれば、今回の目的であるネコ用ベッドがの棚がそこにはあった。
そこからはさほど時間がかかることもなくお目当ての商品を見つけることが出来た。
大きさや感触、材質などもすべて期待していた通りのものだったためひとまず一安心
色や模様の違いで3種類ほどあり少し悩むものの、結局一番シンプルで無難なものを選ぶ。
なんとなく、落ち着いた見た目の物の方がましろの好みに合っている……と思う。
こんな売り場では色々なものに気が散ってしまうが、他に買う予定のものはないのでそれ一つだけを持ってレジを済ませる。
ましろを一人にする時間は、なるべく少なくしたい。それと、単純に早くベッドをプレゼントしたい。
相手は人間ではなく、渡した時の反応を楽しみにするのは少しお門違いかもしれない。
しかし、そう分かっていても、いざプレゼントとして渡そうと思うと独特の緊張感が湧いてきた。
ちゃんと、気に入ってくれるだろうか。使ってくれるだろうか。そんな小さな不安と、期待を抱えながら家へ帰るのだった。
「ただいま〜」
玄関のドアを開けて中へ入ると、リビングからひょこっとましろが顔を出した。
「今日はましろにプレゼントを買ってきたぞ」
レジ袋をかかげて見せてやると、ましろは不思議そうな顔をしながらも興味を持って近づいてくる。
かがんで頭を優しく撫でてやるとましろは目を細める。機嫌を損なわない程度に撫でて、ましろを連れてリビングへ移動する。
ましろのいつものポジションである部屋の隅に座り込み、買ってきたものを開封していく。
ましろも同じように俺の横におすわりをしてその様子を尻尾を揺らしながら見ていた。
中身を取り出すと、パッケージ通りベッドが姿を現す。
大きさも触り心地も、想像していた通り。触り心地に関して言えば想像していたよりも良く、申し分ない。
ましろがいつも使っているネコ型クッションの隣に買ってきたベッドを置く。
「この前CMでやってたベッド。買ってみたんだが……」
その言葉を合図に、ましろは新しいものに興味津々といった様子で入念にくんくんと匂いを嗅いでいた。
その次はネコパンチでアタックしてから、ようやくベッドの上に乗っかってくれる。
しばらくベッドをふみふみして足場を確認してから、感触を確かめるように丸まって寝転がった。
「どうだ? 新品ベッドの寝心地は」
ましろは言葉を返すことはなく、目を閉じて静かに寝息をたて始める。
しばらくその様子を見つめていると、次第にましろの呼吸に釣られて自分にも心地よい眠気がやってくる。
ましろはすっかりベッドを気に入ってくれたようで、幸せそうに眠ってくれている。
少しの不安もあったが、嬉しさと安堵が重なってすぐに意識が遠のいていくのを感じる。
そっとましろの背中に手を差し伸べて、ゆっくりと撫でる。
手に触れたその感触と温かさを感じながら、俺は深く柔らかいまどろみの中に落ちていった。




