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47 ネコ様とお散歩



「ましろ、少し散歩しに行かないか?」



 榊原と綾乃さんが来た次の日、昼食後の休息をとるましろに俺はそう切り出した。

 その言葉を理解してから、彼女はぽかんとした表情で俺の顔を見つめてくる。


「さ、散歩……ですか?」

「ああ。食後だし、たまにはなと」


 ましろを拾ってからはあまり無意味な外出はしないようにしていたのだが、前は意外と日常的にしていたこと。

 趣味がないことを言い訳に、なんとなく近くの公園までふらふらと散歩しにいくことはそこまで稀でもなかった。


 飼いネコを散歩させるというのも、最近では少しずつ増えてきていたらしいのだが、心配性な俺はそんなことは出来なかった。

 ましろが人の姿になったとしても、当然そんなネコ耳と尻尾のある格好で外に出す訳にはいかず


「え、ええと。その、いいんですか?」

「ましろだって、いつも家の中じゃ退屈だろ?」

「そ、それは……その」


 俺の言葉が図星だったのか、ましろは萎縮した様子で声をしぼませる。

 彼女が外の世界に興味を持っているのではというのは、かなり前から感じていたことだった。

 窓の外をぼーっと見つめていたり、大自然の景色が流れるテレビの番組を好んでみていたり、ヒントはそれなりにあった。


 それでもそれを彼女が口にすることはなく、毎日俺の世話をしてくれて、家のことはなんでもやってくれる。

 昨日はそれに加えてわがまままで聞いてもらい、あの二人とすごく充実していて楽しい時間を過ごすことが出来た。

 それらすべてへのお礼がこれで済ませられることではないが、少しずつでも彼女の自由を増やしていきたい。


「さすがにその姿だとあれだから、少し方法は考えないと行けないけどな」

「は、はい」


 尻尾やネコ耳を出したまま外に行かせる訳にはいかないので、どうにか隠せる服装は必要だろう。

 それに加えて外に出るところを誰かに見られるのも出来れば避けて通りたい。

 特に大家さんに見つかった場合その後の説明がかなりめんどくさいことになる。


「うーん、ましろがネコの姿でもいいのであれば、そっちのほうが安全なんだが……どうだ?」

「私は、その……」


 家から出るとこを誰かに見つかるリスクを考えれば、ましろがネコの姿であればあまり問題ではなくなる。

 それほど悪い提案ではないのではと思っていたのだが、ましろからあまりいい反応は得られなかった。


「これは私のわがままなんですが、言ってもいいですか……?」

「ああ。なんでも言ってくれ」

「もし、可能でしたらその……私はこの姿で外に行ってみたい、です」


 ましろは俺の表情を伺うようにしながら、その意思を伝えてくれる。

 俺の案に背反する意見を口にするましろに対して、俺はこれでもかと言わんばかりに、嬉しさが込み上げてきた。


 ましろが俺に対してわがままを言ってくれるなんてことは、本当に珍しいことだ。

 いつも俺のことばかりを優先してくれること。嬉しいことではあるのだが、反対に不満に思うこともあった。

 彼女には、もっと自分のやりたいことや好きなことを遠慮なく言って欲しい。それが俺にとって今一番大切なことなのだ。


「よし分かった。それじゃ、とりあえず服装からだな」

「あ、あのっ、佐藤さん。その……ありがとうございます」

「それはこっちのセリフだ。誘ったのは俺のほうだしな」


 まだ不安そうな顔をするましろに、俺は明るく笑いかけて安心させるように彼女の頭を撫でる。

 すると、珍しくましろは恥ずかしそうに肩を縮こませて、頬を赤く染める。

 最近だと気を許してくれていて、頭を撫でても気持ちよさそうに目を細めるだけで、こんな表情を見るのは久しぶりだった。


 その後、タンスを色々と漁ってネコ耳を上手いこと隠せそうなパーカーを取り出す。

 これであれば、もし誰かに見られたとしても知り合いの女の子程度にしか見られないだろう。


「ほら、これ貸してやるから」

「ありがとうございます」


 ましろが着ると、かなりだぼだぼになっていたが、ある意味尻尾やネコ耳を隠すには最適だった。

 そんなことを思いながらもう一度彼女の頭を見ると、フードを付けていないのにも関わらず、チャームポイントであるそのネコ耳が見当たらないことに気づいた。


「あれ、頭のもふもふが足りない気がするんだが」

「も、もふもふって……。これのことですか?」


 呆れ顔で俺にジト目を向けながら、彼女は頭に手を乗せる。そのままパッと手を離すとそこから見慣れたネコ耳が現れた。


「ああ……そういえば格納機能付きなんだっけか」

「ひ、人をロボットみたいに言わないでください。寝かせて目立たいようにしてるだけですから」


 そういえば、初めて出会った時に見せてもらった気がする。あの時は手品だ何だと言われて怒っていたが、ある意味手品には変わりない気がする。

 それは置いておいても、これでましろの見た目は普通の女の子にしか見えなくなった。


「それだったら、パーカーは着なくても大丈夫だったか?」

「え……あぁ、で、でも一応心配なので着させてくださいっ」

「そうか? まあ、ましろがそう言うなら」

「は、はい」


 少しだけ落ち着かない様子のましろ。彼女と出会ってから、人の姿で外に出るのは初めてだ。そんな様子を見て、俺もなんとなく緊張してくる。

 思えば、俺の方こそ女の子と二人で外を歩くなんてことも久しぶりだ。

 そんな、ちょっとした緊張感と期待感の中、俺はお出かけの準備を進めるのだった。




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