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35 クッキー作りの醍醐味


 ましろとのお菓子作り後半戦。

 生地やトッピングの材料は既に完成しているので、あとは型をとってオーブンで焼くだけ。

 さほど時間を掛けることなくにこの段階までたどり着けたのは、さすが日頃料理をしているましろといったところか。


「さて、クッキーと言えば型作りが醍醐味……らしいのですが、どんな形がいいですか?」

「唐突だな……」


 ましろは少しだけテンションが上がった様子でそう俺に問いかけてくる。

 てっきり、よくありがちな丸型や四角型を作るのかと思っていたのだが、初回からなかなかに難しいことに挑戦するようである。



「身も蓋もないことを言うが、味は変わらないだろ」

「分かってないですね、佐藤さんは。クッキー作りはこの過程が一番大切なんですよ」

「ましろも初めてだったはずなんだが」


 料理歴から言えば圧倒的な差がある俺とましろだが、ことクッキー作りという分野だけに限るのであれば二人とも同じレベルである。

 俺の性格的には、最初は初歩的なものから作っていき、後々慣れてきてからアレンジを加えるタイプだ。

 しかし、意外にもましろはチャレンジャーなタイプらしく、型を作るのに使うのであろうアルミホイルや型紙も既に用意されていた。


「とにかく、何かありませんか? 佐藤さんの好きな形」

「好きな形なんてそうそう思いつかないだろう……」


 ふとした時に好きな色であったり、好きな数字を聞かれることがあるが、正直すぐに答えられるものじゃない。

 いや、真剣に答えようとすることの方がおかしいのかもしれないが、適当なことを言うのが嫌いな性格がゆえにいつも困ってしまう。


 好きな形……そう考えはじめて最初に頭に思い浮かんだ図形が直角二等辺三角形だったという時点ですぐに俺は考えるのをやめた。

 どう考えても聞かれているのはそういうことでは無い。もっとファンシーな答えが出来ないものかと頭を回転させ、なんとか妥協点となる答えを見つける。


「まあ、無難に動物のシルエットとか?」

「なるほどですね。では、佐藤さんの好きな動物をお聞きしても?」

「うーん……そうだなぁ。まあでも、とりあえずはやっぱりネコだろうな」

「……なんというか、安直ですね」

「悪かったな」


 日々ネコと一緒に過ごしているのだから、一番目に思いついて当然だろう。

 それに、一番好きな動物はと聞かれてもおそらく俺はネコと返答するはずだ。


「佐藤さんは、昔からネコが好きなんですか?」

「どうだろうな。写真とかで見かけてかわいいなと思う時はあったが、特に好きだった訳でもなかったかもな」


 実家に住んでいたときも、ペットは何も飼っていなかった。

 家族の誰かがアレルギーを持っているわけでもなく、単純に誰も興味を持っていなかったのだろう。

 家に遊びにいくような数人の仲の良い友達の家にも、ペットを飼っている家庭は少なく、比較的動物に触れる回数は少なかった。

 その影響か、俺一人が興味を持つようなこともなく、関わりのないままこの歳まで生きてきた。


「ましろに出会ってからは面白いくらいのネコ好きになっちゃったけどな」

「私のせいなんですか」

「そりゃ、まあな」


 ましろに出会っていなければ、そのまま特に動物に大きな興味を持つことなく生きていただろう。

 逆にましろを拾うまで全く触れてこなかった分、その反動が物凄い勢いできている。

 つい先日買ってしまったネコの本たちもそうだが、最近身の回りのものがどんどんとネコグッズに置き換わっていってる。


「でも……そうだったんですね。私はてっきり……」

「てっきり?」

「いえ、なんでもないです。他には好きな動物はありませんか?」

「まだ動物路線のままなのか……」


 まあ、動物意外だと素で数学図形が出てきてしまう俺にしてみれば、そういった縛りをつけてもらった方が楽なのかもしれない。

 好きな動物、好きな動物……。


「他で言うなら……ウサギとかハリネズミとか辺りかな」

「なんというか、小動物好きなんですね」

「うん、たしかに似合わないよな」

「いえ、そんなことは。ただ、かわいいなと」

「やめてくれ、恥ずかしい」


 バカ正直に頭に思い浮かんでいた動物を適当に上げてみると、たしかに小動物ばかりが並んでいた。

 自分でこれまで考えたこともなかったため、あらためてそう言われるとなんだか恥ずかしくなってくる。


 本人に直接は言えないが、たしかにましろに対して小動物をかわいがるような気持ちで接していることは否定できない。

 庇護欲を掻き立てられるような、守ってあげたくなるような、そういった気持ちがどこかにある。

 そんなましろと過ごすうちに、いつの間にか小動物のようなタイプが好きになっていたのかもしれない。



「とりあえず、俺が買ってきた物の中にある既製品の型から作ってみないか? ネコとかウサギならあっただろう」

「もちろんそれも作りますよ。でもやっぱり、オリジナルも欲しいですし」


 今更ながら、全部が全部手作りの型でやる訳では無いことに少し安堵する。

 たかが100円ショップで買ってきたものたちとはいえ、普通に使えるものたちばかりだ。使わない手はないだろう。

 しかし、その型たちに当てはまらないものだけ自分たちで作らないといけない訳で……。


「ということは、今から作るのは……」

「ハリネズミですね。作りがいがありそうですし、頑張りましょう」

「言うんじゃなかった……」


 張り切って腕をまくり目をキラキラさせるましろの横で、俺は自分の失言に肩を落とすのだった。




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