11 読書とネコ様
ましろに謝罪の気持ちを伝えたあと、自然の映像が流れるその番組が終わるまでゆっくりと休憩して、また読書を再開する。
ましろもその番組が終わったあとの番組には特に興味が湧かなかったらしく、大きなあくびをしてソファの上で丸くなった。
睡眠の邪魔になるだろうとテレビの電源を切り、静かな空間の中で本を読む。
今読んでいるのは、過去に読んでいたものではなく、つい最近新しく買ったものだ。
かなり久しぶりに本屋に立ち寄り色々と物色していたのだが、面白いことにネコについての本の方に体が流されていくのだから、気づいたあと自分でも笑ってしまった。
そのネコの本が数多く置いてある棚で見つけた本を数冊買ってきて、そのうちの一冊を現在読み進めている。
ネコが題材な作品の中でも、すべてジャンルの違うものを買ってきたのだが、やはり小説のスタイルのものはしっくりときた。
ましろと似たような境遇である、いわゆる保護ネコにスポットライトを当てた作品であり、ところどころ共感したり考えさせられる箇所があった。
考えられないかもしれないが、犬やネコといった一番メジャーなペットでも、捨てられたり何かしらの理由による殺処分になってしまうことが多くあるらしい。
そう考えてこういった本を読むと、あらためてましろを拾ってよかっと思う。
最初はましろを拾ったことを不安に思っていたこともあったのだが、見ての通りソファでのんびりと寝息をたてている。
もう不安がゼロになったかと聞かれれば、ましろが本当の意味で幸せになったかはましろ本人しか知らないことなので、なんとも言えない。
だが、少なくとも、あの雪の降るダンボールよりかは心地よい空間には出来ているはずだ。
そんなとを考えながらに本の世界の中へのめり込んでいく俺に、しばらく経った後に第三者の存在によってブレーキがかかり、現実へ意識が戻される。
その原因は、俺のすぐ横に寄り添っている、他でもないましろである。
数分前まではぐっすりと寝ていたはずのましろ、俺の腕から覗き込むように手に持ったその本に視線を向けていた。
「テレビの次は本も読むか?」
何にでも興味を持ってくれるましろに笑いかけて、読みやすいようにましろに本を向けてみる。
しばらく匂いを嗅いだり俺の顔と見比べてみたりた後、じっと文章を見つめ始める。
珍しいものを見に気まぐれに近寄って来ただけだど思っていたのだが、意外にも真剣に読んでいる様子。
ネコが理解できるわけはないのだが、その様子は小さい子供が難しい本をなんとか解読しようとしているような微笑ましさがあり、思わずほっこりする。
途中からは、ましろに見えるようにしながら俺も本の続きを読む。
本の世界の面白さと、それを横から覗き込むましろの面白さが相まって自然と口角が上がる。
ダブルの癒しを得ながら読んでいると、気づけばかなり長い間そのまま読みふけってしまっていた。
時計を見ると、すっかりいつもの就寝時間を過ぎてしまっていた。
いくら明日が休日とはいえ、さすがに読みすぎてしまった。こういうところは、本好きだった昔から何も変わっていないらしい。
まだお風呂にも入っていないので、ましろに「今日はここまでな」と言って本を机の上に置きお風呂を沸かしに行く。
いつもの様にささっと軽く浴槽を掃除して、スイッチを入れる。
機械を通したお湯はりを告げる声を聞き届けてからリビングに戻ろうとした時、ガチャンと何かが倒れる音がした。
あまり鈍い音でもなかったが、ましろが何か小物を倒してしまったのだろうか。
特に対した危機感も持たずにリビングに戻った俺の目に映ったのは、倒れたマグカップと零れたココア、そしてそれを浴びてしまったましろの姿だった。
「ましろっ!」
俺はすぐにましろの元へ駆け寄る。真っ白の毛並みにココアがかかり、茶色く色が変わってしまっている。
幸いにもほぼほぼココアは冷めきっていたので怪我にはなってないと思うが、綺麗なましろの姿が台無しになってしまっていた。
零れたココアが大した量ではなかったため、カーペットの被害が少しと、あとは机の上だけで済んでいた。
机に置いてあったスマホや本にはかかってしまっていたが、そんなことは些細なことだ。
「大丈夫か、ましろ」
ココアを体に浴びてしまったましろは、動揺したように固まってしまっていた。
暴れる様子は無いのでティッシュやタオルですぐに拭き取ってやるのだが、完全には落ちてくれない。
ましろの綺麗な白さが余計にそれを目立たせてしまい、申し訳ない気持ちになる。
俺が飲みかけのココアを置いたままにしたことが原因だ。これまでもそういうことには気をつけていたつもりだったのに、完全に気が抜けていた。
もしあれが淹れたての状態だったらと思うと、背筋が凍る。
後悔をしていても仕方がない。今はましろをなんとかしないといけない。
手っ取り早く汚れを落として綺麗にしてやらなくては。
そのためには……まあ、あれしかないだろう。
「……よし、一緒にお風呂に入るか」
名案とばかりに、俺はそう言いながらましろに笑いかけた。




