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104 少女の願い


 月山さんと一緒に、ましろが連れていかれた美玖ちゃんの部屋へと向かう。

 随分と盛り上がっているのか、廊下にまで部屋の声が漏れていて、部屋に入ろうとノックをしても反応は返ってこなかった。


 思わず月山さんと目を合わせてお互いに肩をすくめたあと、ゆっくりと扉を開けて中を覗くと、モニターの前に並ぶ二人の姿が見えた。


「ルミっ、そこそこ! 危ないよ!」

「えっえっ。ど、どこですか?」

「ほらそこ! ……あーほらぁ、死んじゃった」

「うぅ……」


 何やらテレビゲームで遊んでいるのか、二人ともコントローラーを握って画面の中で動くキャラクターを見ながらあーでもないこーでもないと盛り上がっていた。

 俺の家にはこういった家庭用ゲーム機は置いていないし、昨日のゲームセンターで遊んだことを除けば、ましろにとっては初めての経験だろう。


 そんなましろが上手に遊べるのかと言えば、もちろんそんなことはなく。

 美玖ちゃんのフォローがあっても、なかなか上手く出来ていない様子だった。


「ご、ごめんなさい……」

「だから謝らなくていーの! ほら、つぎつぎっ」

「は、はいっ」


 でも、美玖ちゃんはそんなことを気にする様子は全くなく、楽しそうにましろの手を引くようにゲームをつづけていた。

 決してましろに気を使っているのではなく、本当に純粋にこの時間を満喫しているように見えた。


「はしゃいでますね、美玖ちゃん」

「ふふ、そうですね」


 ドアの隙間から覗いている状況のまま、月山さんと小声で会話する。

 月山さんも俺と同じ気持ちらしく、仲良く遊ぶ二人の様子を見て微笑ましそうに笑っていた。


 しばらくすると、二人で覗いているところを美玖ちゃんに見つかり、結果として俺と月山さんもゲームをすることになっていた。

 月山さんもこういったものはあまり触れたことは無いらしく、ましろと変わらないレベルでプレイしていた。


 俺はといえば、今でこそやっていないが子供のころに遊んだ経験は生きており、だいたい美玖ちゃんと同じくらいのレベル。

 ゲームの内容自体は最大四人の協力ゲームなのだが、この中だと俺と美玖ちゃんがとびぬけて出来ることもあり、二人だけでどんどんと進めていってしまう。


「お兄さん、上手ですね!」

「いやいや。美玖ちゃんこそ上手だよ」

「………」


 俺と美玖ちゃんが互いに賞賛し合う中、常に置いていかれ気味のましろは不服そうな顔をしており、月山さんはそれを見ながら笑いを堪えるように肩を震わせていた。

 そんなこんなでその後も四人で楽しく?ゲームを続けたあと、四人で昼食を取ることになった。


 昼食はいつも月山さんの仕事だが、ましろからの申し出があり今日は二人でキッチンに立っていた。

 元々師弟関係だった二人が協力して作ってくれるということに感動しつつ、どんなものが食べられるのかと楽しみな気持ちも大きかった。


 そして、昼食が出来るまでの時間が空いてしまった俺と美玖ちゃん。

 正直このくらいの年代の子の相手をしたことが少なかったこともあり、多少距離感が掴み切れていなかった。

 しかし、さすがは良い家で良い家政婦から教育を受けているおかげか、大して気を遣わずとも彼女とは自然と会話することが出来た。


 まあ、肝心の話題といえば、もちろんましろに関することばかりになってしまうのだが。


「ルミは今どんな風に暮らしてるの?」

「とりあえずは、一通りの家事をやってくれているかな」

「月山みたいな感じってこと?」

「そうだな。何よりも、作ってくれるご飯が美味しいんだよ。月山さんのご飯も美味しいんじゃないか?」

「うん! 栄養バランス?も考えて作ってくれてるの」

「そうそう。ましろが作ってくれるので特に美味しいのは……」


 最初の不安など無かったかのように、美玖ちゃんとの会話は大いに盛り上がった。

 ましろや月山さんの料理の話から始まり、ましろと出かけた場所のことを話したり、美玖ちゃんとましろの過去の話を聞いたり。


 盛り上がりすぎてしまった挙句、キッチンにまで声が聞こえていたらしく当のましろは恥ずかしそうに目とネコ耳を伏せていたが。


 さほど時間のかかることなく、月山さんとましろの作った昼食は完成し、四人で食卓を囲んでありがたくいただいた。

 メニューは和風スパゲティをメインに、スープやサラダ等の付け合わせ。ましろの作ってくれるご飯でも見たことのあるメニューだった。


 もちろん味は間違いなく美味しかったが、それよりも感じたのは作られた料理の味付けがいつもの安心するようなましろの味と同じだったことだった。

 ましろの料理スキルが月山さんの教えあってのことだとも素人ながら理解でき、ましろへの感謝はもちろん改めて月山さんへの感謝も強く感じた。


「「ごちそうさまでした」」


 俺と美玖ちゃんが一緒にそう言うと、ましろと月山さんは似たような笑顔を浮かべて「お粗末様でした」と返してくれる。

 片付けを終えた後は、四人揃ってリビングに座って色々な話をした。

 これがまた大いに盛り上がってしまい、気づけばかなりの時間が経ってしまっていた。


 無理をしないために一晩外泊したため、明日からはいつも通り仕事に行かなければいけない。

 帰りはタクシーを使えば良いので多少余裕はあるが、買い物や家事の問題もある。


 時計を見ながらましろに伝えると、一瞬寂しそうな顔をしたが彼女も時計を見た後すぐに頷いてくれた。


「ルミ、もう帰っちゃうの?」

「ごめんなさい、美玖さん。まだ、やらないといけないことがあるので……」


 俺たちの様子を見て美玖ちゃんが聞いてくる。

 ましろはそれに対して申し訳なさそうに返事を返すが、美玖ちゃんは「ううん」と首を横に振った。


「ルミがいなくなったとき、月山が言ってたの。ルミとはもう会えないかもしれないって。だから、もしかしたら私がルミに何か悪いことをしちゃったのかなって思ったの」


 それは初めて見る表情だった。まだ幼いはずなのにどこか大人びた顔で真剣な眼差しをましろに向けていた。


「月山は違うって言ってくれたけど、何か理由があってルミは戻ってこないとも言ってた。……だから、私はルミが生きていることだけを神様にお願いしてたの」


 月山さんはましろの事情を知っていた。そして、ましろが出ていくきっかけになった事件も知っている。

 でも、美玖ちゃんのことを思って、ましろの正体を隠したままにしていたのだろう。


 ましろを誰よりも大切にしていた美玖ちゃんが、誰よりもつらかったはず。

 それでも、事実を受け止めてそう願えるのは、その歳とは思えないほどの強さが彼女にあったからなのだろう。


「だからね。ルミにまた会えたことが、すっごくすっごく嬉しいの。それに、これからはいつでも会えるよね?」

「は、はい。もちろんですっ。また、すぐに会いに来ます」

「えへへ、約束だよ! ルミっ」


 今度は年相応の笑顔ではにかむ美玖ちゃん。ましろもそれに答えて笑い返す。

 ましろにとっては、このくらいの歳の女の子と関わるというのはこれまで無かったことだ。

 美玖ちゃんと過ごす時間は、彼女にとってもいい刺激や息抜きにもなるかもしれない。


 美玖ちゃんが言うように、これからはお互いの都合が許せばいつでも会うことが出来る。

 機会があれば、ぜひまたお邪魔させてもらうことにしよう。それで、彼女達の笑顔が見れるのであれば。




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