九、帰り道
さんざん飲んだ国道沿いの居酒屋を出て、二人は歩いた。
酔いを醒ます為、小さな公園に入り、ブランコに並んで座った。
二人は無言のままブランコを揺らしていたが、岬が、
「ちょっと、ジュースを買ってくる」
と、その場を離れる。
黒川は夜空を見上げた。
厚い暗雲の切れ間から、わずかだが瞬く星が見える。
「♫上を向いて歩こうよ、涙がこぼれないように♪」
と、「上を向いて歩こう」を歌いだした。
歌の中盤で、岬が戻って来た。
「買ってきたわよ」
ジョージアのエメマンを差し出すと、彼の歌は「明日があるさ」に変わっていた。
岬はにっこりと笑った。
「そう、明日があるじゃない」
「明日があるか・・・」
「明日があるさ・・・よ」
なんだか、妙な話になってしまって、二人はクスクスと笑った。
黒川はプルトップの栓を開けると、再び夜空を見上げ「見上げてごらん夜の星を」を歌い始めた。
岬は坂本九オンパレードに、彼の年齢(27)に疑問を抱いた。
「兵ちゃん」
「ん」
岬の話しかけに、歌を止める。
「絶対、大丈夫・・・私達、何も悪い事してないもん」
「・・・うん、もちろん。でも、やったことは、墓あらしかのかも」
黒川は自虐的に言った。
「じゃあ、私達は、みんな犯罪者になっちゃうよ」
「・・・・・・」
「もう、そんな事、考えないで。絶対に大丈夫だから」
「絶対に・・・か」
黒川はコーヒーを口にしながら、
(絶対ということはないんだよ)
という言葉とともに飲み干した。
「さっ、帰ろうか」
黒川はブランコから立ち上がり、岬に手を差し伸べた。
彼女は彼の手をぎゅっと握ると、恥じらいながら呟いた。
「今日そっちに泊ろうかな」
岬は自宅通である。
親公認の仲ではあるが、門限は22時と決まっている。
黒川は、岬をぎゅっと抱きしめた後、おでこにキスをする。
「大丈夫、大丈夫、うん、お姫様はちゃんと帰らなくちゃ」
「でも・・・」
「父上を怒らせたら怖いぞ」
彼は頭の上に両人差し指をたて、がぉーと鬼のマネをした。
岬は名残惜しそうにしていたが、にっこりと笑うと、
「わかった、じゃあ、明日」
「ああ」
二人はそれぞれの家路に着いた。
ちょっぴり、ひと昔を感じますね。