八、居酒屋
居酒屋の店内に焼き鳥を焼く煙が充満し、こおばしい匂いが鼻腔を刺激し食欲をそそる。
客で込み合う畳座敷の一角に黒川と岬はいた。
職場恋愛すること、およそ一年半、きっちり職場とプライベートを分けて、二人は付き合ってきた。
「兄ちゃん、ビールと串ダレ追加ね」
黒川はバイトの子に追加注文をする。
「兵ちゃん、ちょっと飲みすぎ食べ過ぎなんじゃない」
「俺は飲んで食べたい気分なんだよ、岬」
「・・・明日も仕事よ。知らないからね」
黒川は赤ら顔で、店の柱にもたれかかった。
こっくりしながら、目を閉じるとあの顔が急に脳内に浮かんで、びくりと驚き身体を起こす。
「どうしたの・・・大丈夫」
岬が心配そうに黒川の顔を覗き込む。
「ん・・・ん、きしょう!頭から離れないや」
「気にし過ぎよ」
「・・・・・・」
黒川はしかめっ面をする。
「もう、帰ろうよ」
岬がそう言うと、黒川は、
「怖いんだよ!」
と叫んだ。
一瞬、喧騒に包まれた店がシーンとなり、二人に関心が注がれる。
珍しく、温厚な黒川が荒れていた。
岬は席を立つと黒川の隣に座った。
「分かった。飲みましょ」
「・・・・・・うん」
彼は焦点の定まらない瞳で、岬を見るとこくりと頷いた。