七、経壺
「ふぅー、一段落だな」
黒川は汗を拭いながら、甕棺の底を見つめた。
底には何か眩しく光るものが見えた。
「ん、何だろ」
「どうしたんですか」
岬も底を覗き込む。
「遺物だ」
彼女の言葉に、黒川は頷き、
「取って見るよ。」
と、彼は底にある光るものに手を伸ばした。
それに触れた瞬間、全身に悪寒が走った。
「くっ」
「どうしたんですか?」
岬が、心配そうに黒川の背中に話しかける。
「・・・大丈夫」
と、言ったものの、伸ばした腕が、もの凄く痛い。
「くそっ」
光るものを掴むと、一気に甕棺の中から取りあげる。
別のパンコン(パンコンテナ)に置くと、寒気も痛みも途端におさまる。
「それは・・・」
末崎がパンコン内の物を見ると、作業員達も集まってまじまじと見つめる。
「金・・・ですか?」
甲高いうわずった羽田の声があがる。
二人は土壙墓からあがる。
黒川はようやく現実に戻った心地がした。
パンコンの中の物をじっと見る。
それは金色に輝く小ぶりの経壺だった。
「これは・・・」
「経壺ですね」
岬が呟く。
「うん」
黒川はまじまじとそれを見つめた。
経壺は見事に細工されており、なんらかの仏像のような人物が彫り込まれていた。
黒川はそれを判断出来ずにいた。
「お釈迦様じゃないな」
「不思議な顔立ちをしていますね」
と岬。
「日本の経壺じゃないのかな」
東洋史を少しかじった羽が口にする。
「じゃ、あっちの神様とか」
「うーん、でもないような」
「じゃ、何?」
「うーん」
羽田は唸ったまま、そのまま黙り込んでしまう。
それまで晴天だった空が、雲が覆われ翳りだした。
この時点では、黒川も誰も気づいていなかった自分達の身に起こる災厄を。