五、開帳
「・・・・・・」
しばし、唖然となった黒川だったが、
「ま、いいか」
なってしまったものは仕方ない、両手で割れた石の蓋を抱えて二つとも外に出す。
黒川は恐る恐る甕の口から中を覗き込む。
中は、地下水やしみ出た水が入り込んだのか、澄みきった水が並々と溜まっており、底には、やっぱりいらっしゃった中身ありである。
「ふうー」
黒川は甕棺から離れ、溜息をつき腕を組んだ。
そんな彼の耳元に、
「遅くなりました」
と、午後から応援に駆けつけることになっていた、樋口と羽田がやって来た。
黒川は土壙墓から地上に這いあがる。
「ようこそ、ウェルカム」
彼は親指を立ててウィンクする。
「黒川さん、今日、変よ」
女性発掘調査員の樋口岬が首を傾げる。
「・・・おかしくもなるよ。でも、今からやっちゃうよ・・・樋口さん、羽田君、僕がアレ引き上げるから、そこのパンコンテナな遺物の収集をよろしくね」
黒川は大きなパンコンテナを指さし言う。
「うへえ」
羽田は思わず言ってしまう。
「羽田君」
樋口がたしなめる。
「すいません」
発掘作業に携わる皆は、土壙墓の周りで手を合わせた。
原田のおばちゃんが持ってきた清め塩を盛る。
「よしっ」
黒川は手柄杓を持つと、一心不乱に甕棺内の水をかき出す。
はじめの内は目を閉じていたものの、真ん中あたりまで水がなくなると、下にいらっしゃるので、目を開かざるを得ない。
思いきって目を開けると、その瞬間、全身の毛穴から汗が噴き出て、鳥肌がたつ。
そこにいたのは、半ミイラ化した白装束を着た方が折りたたまれて底にいたのだった。
「せめて白骨化していたら・・・」
がっくりと肩を落とす黒川だったが、
「近現代ということで実測しなくて済んだのは、唯一の救いか・・・」
ぶつぶつと独り言を言いながら、ゴム手袋をはめる。