三、覚悟
「おはようございま~す。お久しぶりです、皆さん」
テントの中には、掘り方さん(作業員)達が、持ち寄ったお菓子や手作りの漬物等並べて井戸端会議をしていた。
(この緩さ、だから発掘は穴掘りだの税金の無駄遣いと言われるんだよな)
黒川はそう思いつつ、腰をかける。
座った瞬間、「食べなっせ」と、原田のおばちゃんがタッパに入った白菜漬けを差し出す。
「ありがとう」
黒川は、二つばかり漬物を摘まむとポリポリと音をたてながら食べつつ、
「とりあえず、午前中は水あげするから、ある程度水がひいて人力で作業出来るまで、辺りの草むしりと道具の整備をお願いします」
「はい」
まばらな返事が聞こえる。
黒川は話を続ける。
「そして昼からは、いよいよ甕棺を御開帳します」
「いいホトケさんだと、いいけどね」
原田のおばちゃんは前向きに言った。
男性の掘り方三田が、
「なんか、やっぱり罰当たりじゃないか」
と、言いだすと、テント内に不穏な空気が流れる。
黒川は静かに息を飲むと、重い口調で言った。
「僕だって、今までの弥生時代とは違い、ひょっとしたら数十年前のお棺を開くのは、強い抵抗があるけど、これは仕事です。文化財を後生に伝えるという使命がある以上やってもらいます」
毅然とした態度でみんなに告知した。
静まり返るテントに末崎の、
「さぁ、さぁ、みなさん、仕事時間はとっくにはじまっています。さぁ、行きましょう」
ポンポンと手を叩き言う彼の発破に、掘方さんたちは渋々、重い腰をあげ外へ出た。
それから、遺構が見え始めたのは、ポンプを動かして一時間半ばかり経った頃だった。
「思ったより、水は早くひきましね」
末崎の言葉に黒川は頷く。
「ああ」
黒川は、作業員たちに現場に入るように指示を出し、人力でバケツや長柄杓を使って、遺構内に溜まった水を排除させる。
彼自らも先頭に立ち、バケツリレーに加わる。
ようやく、昼休み前には水を抜くことが出来た。
黒川は昼食もとらずに、準備にとりかかった。
本音としては食欲がわかなかった事もある。
ともかく、彼は一心不乱で作業に取り組む。
すっかり、空は澄み辺り、太陽が照りつけている。
キラキラとした日の光が眩しく、水分を含んだ地面が急激に温まりジトっとなる。
その陽気はじわじわと額に汗までかく。
昼休みも終わり、黒川はテント内に戻った。
神妙な面持ちで彼を見ているみんなを前に、目を閉じてじっと腕組みをしていたが、意を決し目を開くと、膝をポンと叩き立ち上がった。




