十七、活路
男は静かに口を開いた。
「お前に覚悟はあるか」
「・・・ああ」
黒川は決意を固め、男をじっと見る。
男は頷くと、続けて、
「見ろ!上空を!雷光が、かすかに見えるだろう。あれを封印の光とし、私の甕棺にあてて封印すれば・・・もしかすると・・・」
「雷光を届かせるには・・・」
「そうだ雷光を呼ぶ方法を考えるのだ・」
男の両目からは血が流れ、全身からも大量の黒血が噴き出す。
「どうやら、また死ぬ時が来たようだ」
男は、よろよろと、たどたどしい足取り甕棺へと歩きだす。
「自ら犯した過ちを、自らの手で償うがよい」
男は甕棺の中に身を置いた。
「はい!」
黒川は走り出した。
「岬、来い!」
彼は彼女の手をしっかり握り締めると、テントまで連れて来る。
「ここで待っていてくれ」
「私も行く!」
黒川は首を大きく振る。
今度は何も言わせない。
「必ず戻るから」
彼はそう言うと、ユンボに向かって駆けだした。
ユンボのサイドミラーを強引に叩き外す。
ショベルカーの発するライトの光をミラーに反射させて上空を照らす。
一筋の光が闇を裂いて浮かびあがる。
渦巻く漆黒は、それに魅せられたかのように、獰猛に光を食い尽くしに向かう。
ほどなくして、闇が薄まり激しい稲光が現れ出す。
黒川は闇が光を侵食するのを待った。
彼の身体は浮腫が皮膚を食い破り、鮮血が流れだす。
「くそっ!」
黒川は歯を食いしばり、サイドミラーを強く握り締める。
雷光は激しさを増す。
やがて、人工の光すべてを闇が侵食した瞬間、彼はミラーをほおり投げ、護身用に用意した鉄の棒を持ち全力で走る。
土壙墓を跨いで立ち、鉄の棒を高く掲げ、避雷針とする。
「・・・ほう。死ぬつもりか・・・」
甕棺の中で、死を待つ男は呟いた。
「死ぬつもりはない。けど、雷光を呼ぶのは、これしか思いつかない!」
男は静かに笑う。
「ふ、ふ、私がそれを持とうか・・・」
「自分で犯した罪は、自分で償うんだろ」
「ふ、ふ、そうだな」
やがて、無数の稲光が空を覆いはじめた。
光を侵食した闇は、再び雷光を覆い隠そうと動きだす。




