十六、復活
「とうとう、経壺を開けおったか!経壺を今すぐ閉めよ」
「ここにはない」
黒川は、現実の世界に男が復活したことに驚愕し、彼の言う経壺が開けられたことなど知らないので、まさに寝耳に水だった。
動転した彼は、ようやく言葉を返した。
「・・・何故!」
男は、強い力で黒川を締めあげていく。
そのまま、ゆっくりとパンコンテナから立ち上がり、首を絞めつけたまま黒川を宙吊りにして持ち上げる。
「・・・・・・何故!」
男が二度叫び、上空を睨んだ。
ふっと、力を弱める黒川は地面に叩きつけられた。
「見ろ!災厄が来る!!!」
男は指をさす。
闇に上塗りされた漆黒の上空で、渦巻く黒色の霧が迫って来る。
「もう終いだ。経壺は災厄を封じる唯一無二の手段!かつ最後の標」
三層目の闇が覆われると、雷光が消えた。
光が闇によって遮られたのである。
「さぁ、災厄が舞い降りてくるぞ!」
渦巻く闇は、さらに黒を黒で塗りつぶし、食いつぶしながら侵食してくる。
「・・・!」
黒川は、男の身体じゅうに浮腫があらわれるのを見た。
岬の方を振り返ると、彼女の身体にも、そして自身にも黒色の浮腫があらわれていたのだ。
「きゃあああ!」
岬の絶叫が響く。
一度災厄を受けている男の進行は早く、浮腫の浮き出た皮膚が破け、黒い血が流れはじめている。
「いいか、見てみろ!お前たちの犯した罪の深さを」
浮腫が皮膚を食い破り、どす黒い血が止まらない。
「どうにか、どうにか!ならないのか!」
黒川は男にむかって叫んだ。
「・・・どうにかだと、お前たちが私の眠りを経壺を開けなければ、こんなことにはならなかった!」
「経壺は開けていない!」
「開けていない・・・だと!開けたから、今、災厄が降りかかっているのではないのか」
「・・・それは、分からない」
「ふん、どちらにせよ。もう終いだ!」
「助かる道は!」
男は苦笑する。
「かつて、私が生きた時代、私は自ら経壺を開け災いを招いた。村は災厄によって全滅し、私は死の間際、経壺に災厄を封じた。」
「それが集団自決の真相・・・」
「・・・自決となっているのか・・・まぁいい、死人に口なしだ。災厄は光を恐れ、惹きつけられる。あの金色の経壺の光に」
「・・・それじゃあ、光を持って災厄を封印出来るのか!」
男は失笑する。
「は、は、は、光だと、光なぞどこにある。辺りを照らすぐらいの光では、とても災厄をおさめる事は出来ない・・・経壺は唯一、闇に一条の光を与える」
黒川は絶望感を覚え、立ち尽くす。
岬は、涙を流し嗚咽している。




