十四、帰す
夜中の12時、黒川は発掘現場に立っていた。
すべてを元に戻すために・・・。
黒川のヘルメットのライトと懐中電灯が、夜の現場を妖しく不気味に照らしだす。
資料室から男の遺体と経壺の入ったパンコンテナを人知れず運び出した。
なにかの役に立つかと鉄の棒も持参した。
気分は犯罪者だ。
両腰に手をあて、鋭い形相で彼は現場を睨む。
「よし、いくぞ」
自らを奮い立たせて、独り言を喋り、ぶるんと右腕をまわして、一歩目を踏みだす。
背後で聞き慣れた声がする。
「待って、兵ちゃん」
岬が駆けてくる。
驚きの反面、嬉しさもあったが、ここは心を鬼にして無表情を心がけ、
「・・・なんで来た」
「・・・なんでって、私も」
「岬は帰れ」
「嫌よ!」
「なにがあるか分からないんだぞ!」
「そんなこと分かってる」
「分かっていない!」
黒川は、岬の両肩を持ち激しく揺らす。
「お願いだから・・・な」
彼は懇願するが、彼女は大きく首を振り、
「・・・私もお願いだから、手伝わせて」
黒川をじっと見る。
「・・・・・・」
「ねぇ、兵ちゃん聞いて、昨日の調査に参加した羽田君や末崎君・・・作業員さん達は、今、大変なことになっているのよ。私だけ・・・何もしないなんて・・・そんなのは嫌」
「・・・・・・」
「それに私達だけ無事なのは、おかしい絶対に、なにかあるわ。きっと!」
「・・・・・・岬」
「兵ちゃんが止めたって、私は行くからね」
黒川は岬に対しての説得が難しいと判断する。
「・・・わかった。だけど、これだけは約束してくれ。もし、身の危険を感じたら、俺を置いてでもすぐに逃げること」
岬は承服しかねる曇った表情を見せたが、静かに頷いた。
黒川はユンボを操作し、掘り起こした土を土壙墓へ戻していく。
町の少しはずれに調査区があったことで、騒音を聞かれないのが唯一の救いであった。
一方、助けを呼んでも誰も来ないだろう。
岬は、テント内であの男を元に返すための準備をすすめていた。
作業は何事もなく進み、三時間もすると、中央のあの土壙墓をのぞき土が覆い被された。
黒川は全身から汗がだらだらと拭きだすが、何も感じない。
「これからだな・・・」
黒川は何かが起こりそうな予感と杞憂で終わればいいと願いながら、ユンボから降りると踵を返しテントへ走った。
テントに駆け込むと、岬が黒川に飛びついてきた。
「どうしたんだよ」
黒川は岬を抱きしめる。
彼女は取り乱しており、涙を流しながら言った。
「・・・ないの」
「・・・なにが?」
「経壺がないの!」
岬の叫びが、テント内に響き渡った。




