十二、訃報
「う、わあああああああ!」
黒川は目を覚ました。
目覚まし時計の時を刻む音が、異様に大きく感じられた。
「夢か・・・」
(いや、夢じゃない・・・)
妙な確信が、黒川にはあった。
時計を見ると、明け方の五時をまわっていた。
彼は、ふらふらと立ち上がると、本棚から埃をかぶった町史を手にする。
一年前、上司の石嶺から強制的に購入させられた、この本が役に立つ時が来たのだ。
明治から昭和初期にかけての、出来事が書かれた年表を目にする。
充血する目で片っ端から目を通す。
(そんなに簡単にはいかないか・・・図書館で昔の新聞でも捜すか・・・)
と思い、町史を閉じようと、パラパラとめくると、黒川はある資料に目が留まった。
内容は事件の記事だった。
「大正八年〇〇村の住民集団自決・・・じっ、自決っ!!」
思わず、記事を読み上げ叫んだ。
〇〇村の所在場所は、今回の発掘現場と符合する。
かつて、あの場所で起きていた惨事に、黒川は全身が総毛立った。
さらに続きの記事を食い入るように読む。
が、それ以外の目ぼしい情報は書かれていなかった。
(あの土壙墓群は、集団自決の・・・あそこで一体何が・・・)
腕組みをして、目を閉じ思い巡らそうとした瞬間、自宅の電話が鳴った。
突然の音でびっくりする。
早朝の電話に黒川は、訝し気に受話器をとる。
声の主は取り乱した女性だった。
「しゅ、しゅ、主人が・・・」
「あの」
「三田です!主人が、主人が!」
その後、黒川宅の電話がひっきりなしに鳴った。
災厄がはじまったのだ。




