十一、忠告
黒川は全身が震え、恐怖で顔が歪む。
ミイラは彼の眼前でじっと見ている。
「しっかり、こっちを見ろ」
と喋りはじめる。
夢とは思いつつも、黒川は眼球を動かし視線を逸らそうとする。
「随分じゃないか、勝手に私の目を覚ましたくせに」
彼は首を振ろうとするが、動かない。
「はは、少しは、やましいと思っているのか、おい」
ミイラは彼の顔を触った。
ゴム手ごしから感じたぬめりとした、あの嫌な感触を頬に感じた。
「ひッ」
黒川が驚きで目を見開いた瞬間、顔と顔が触れ合うくらいに、ミイラは迫る。
「よく見ろ。お前が、眠りを覚ました私を!」
彼は寒気を感じ、歯がカチカチと鳴る。
「さぁ、よく見るんだ!」
そのまま、どのくらいの時間が経ったのだろうか、少しずつミイラの顔が時をさかのぼって、生きていた時の顔となる。
それは頭蓋骨から復元されるモンタージュをみているかのような不思議な光景だった。
それは生気のない男の顔だった。
よく見ると、顔や白装束以外の部分から見える腕や足の身体の至る場所に、黒色の浮腫があった。
その瞳は、刺すように黒川を睨んでいる。
「その黒い痣は・・・」
黒川は必死に言葉を発した。
長い金縛りからようやく解き放たれる。
男は、彼の問いには答えず、
「いいか、経壺と私を元へ戻せ。そして絶対に経壺を開けるな!」
「どうして・・・」
「災厄の源だからだ」
男の身体がゆっくりと上昇していく。
「いいな!」
男の忠告が何度も、黒川の耳にこだました。




