一、憂鬱
真夜中・・・暗闇の空には、厚い雲が月を遮り、横殴りの強い雨を降らせている。
発掘調査職員黒川は眠れない日々が続いていた。
梅雨時特有の強い雨粒が屋根にあたる音や、蒸し暑さのせいもあったが、明日の天気予報は晴れだった。
即ちそれはアレを開けなければならないことを意味する。
アレとは甕棺のことだ。
気の重い一件である。
(くそっ!眠れない)
黒川はゴロンと一回転すると、布団から這い出ると、携帯電話の電源を入れた。
パネライトの緑光が暗闇を裂き、夜陰に慣れた目が驚く。
時刻は夜中の三時を回っていた。
彼は、Eメールの受信確認を見るが、メールは一件もなかった。
(・・・・・・)
黒川は溜息をつき、携帯を傍らにポンとほおり投げ、布団にくるまって無理矢理、目を閉じた。
雨は一夜中にして過ぎ去り、朝の眩しい光が黒川の寝不足で重い頭を疼かせた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・!
がばっと起き上がって、時計を見ると彼は驚愕した。
「八時!」
わざわざ、アラームを止めるのを防止する為、一メートル離していた目覚まし時計をいつの間にか切っていたのだ。
彼が勤める市役所への出勤は、八時半で自宅から市役所まで車を飛ばして30分弱。
とるものもとりあえず、黒川はボロアパートを飛び出し、職場へ愛車を走らせた。
「遅くなりました!」
生涯学習課文化財保護係、ここが彼の職場である。
仕事内容は、遺跡の発掘調査、報告書の作成、遺物の修復保存、記録等である。
道路の補助整備や公私的、企業が建物を建築する際、事前に遺跡の有無を確認する。
遺跡があった場合は、発掘調査を行い、その記録を後世に伝えるというのが、文化財保護係の仕事である。
上司の石嶺係長は、呆れて溜息をつく。
「おい、おい、10分、遅刻だぞ」
「はい、すいません」
「そんなこちゃ、甕棺のホトケさんに失礼だろ」
「・・・・・・」
(誰の為で眠れなかったと思っているんだよ)
甕棺を開けることを命令した石嶺を、黒川は彼が自分から視線を逸らした隙に睨みつける。
甕棺を開く・・・学生の頃は弥生時代専攻の黒川にしてみれば、その時代の甕棺は、学生時代を含め数十例と取り扱っているので、別に白骨が出てきてもなんの恐怖もなかった。
だが、今回はケースが違うのだ。
甕棺といっても近現代のものであり、戦前の行われていた土葬の甕棺なのだ。
ひょっとしたら、ホトケさんが生々しい姿で、いらっしゃるかもしれない。
黒川は開ける瞬間を思うと、尻込みしてしまっている。
「おい、聞いているか」
石嶺のダミ声が聞こえた。
「はぁ」
黒川はぼんやりと返事をした。
石嶺は小言を言いたそうに、口を動かそうとするが、
「・・・・・・まぁ、いいや昼から樋口と羽田を送るから、がんばってくれよ」
「はぁ、まあ」
「お前・・・大丈夫か」




