新しい幕開け
それからあれよあれよと月日は流れて半年、
彼女はぐるぐるっと長い抱き枕を購入し、ベットの半分以上を占領していて
僕は小さく丸くなって寝るのが慣れてきた頃だ。
最初の1.2ヶ月はつわりが酷く、体調も悪そうで、何回か大丈夫?と訪ねると、
死ねと罵声を浴びさせられて、しばらくはそっとしといた方がいいのかと
様子を見ていると、私の事大事に思ってないと泣かれたり
色々よくわからない日々だったけど、やっと心も体も落ち着きが出てきたようだ。
お腹も少しぽっこりして丸くなった彼女は少しほっぺも丸くなった。
彼女はギリギリまで仕事がしたいと張り切っていて、
僕も体調が良いならそうすればいいじゃないか、と思っていたし彼女は仕事が好きなのも、
すごく社交性が楽しめるタイプなのも知ってるから
ずっと家に篭るよりは、無理のない程度に、いい気分転換にもなるだろうと応援していた。
でもこのめまぐるしい日々が僕にとって少し窮屈になってきたのは言うまでもない。
いつも僕は自由奔放で、ゆっくり生きてきたタイプだ
テレビをつけてゴロゴロしてたら1日が終わってしまうし、
すきあらばパチンコだったりゲームセンターだったり、
33歳にしてさらにその場の気分で物事を決めて、ゆるりと目的もなく生きてしまっている。
彼女と付き合っても、それは許されていたし、自分の人生は自分で決めろ。が彼女の口癖。
その言葉をはき違えて、すっかり甘えて生きてしまっていた。
だから、その不安なのもすぐに彼女に伝えてしまったんだ。
「仕事、辞めたいな・・・」
「・・・え?」
目を細める彼女を見て、しまったと思ったけど、遅かった。
僕の仕事辞めたい事件は、彼女との付き合いの中で5回目くらい?だと思う。
しっかり覚えてないとこも、もうだめだ。
ましてや、今から子供が生まれて支えていかなければいけない立場なのに、
それを考えると苦しくなって、無力さが浮き出しになってるのに耐えきれない情けないのも承知している。
「まぁ、、労働時間長いもんねー」
「・・・うん、その割にお給料は上がらないし・・・」
僕は飲食店で働いている。
ランチやディナー、結婚式の二次会や貸切パーティーまでしちゃうところで、
気がつけば朝から夜中まで働くことも。
今の時代働き改革なんて、そんなのは飲食店にはまだ無いようだ。
「んー、、、リゾートバイトでも行けば?」
「・・・え?」
「わたしも安定期に入ったしさ、ひとりの方がぐっすり寝れるときもあるし、、、しばらく解散しようよ」
「・・・へ?」
怒られると思ってたのに、
まさかの答えに愕然とする。
「だってさ、子供生まれたらひとりの時間とかもなかなか作れないわけ。
そうなる前に、ひとり旅みたいなのとかしてきたらいいじゃん。
でも、お金は稼いできて欲しいから、ちょうど夏だし、期間限定のリゾートバイト!」
「ええええ・・・」
開いた口が塞がらない。
彼女はどうしてこうも、世間体やらを超えて、ポーンと違う道を提案できるのだろう。
「でも、、、ひとりにするのは心配だよ」
「いやいや、もはや働いてて全然帰って来んやん。いてもいなくても一緒」
「それはひどい」
いつもの軽口で、重い物を軽くされて安堵する自分も情けないけど、
こういう彼女だからこそ、一緒にいれるんだろうなとまた噛み締める。
「でさ」
噛み締めていたのを遮るようにニヤリと笑う彼女を見て、
なんだか雰囲気が怪しいぞと思った。
「君が育休とってほしいんだよねぇ」
「・・・え?」
ここからまた僕の新しい人生の幕が開けたのだ。