バレンタインの朝
「ね、これ見て」
その日は久しぶりの休みで、
夜中の3時にぐったりと家に帰った後に飲んだ酒がまだ残っている昼下がり。
今日は久しぶりにどこかにデートしないと怒られそうな気がするから、
目覚めきっていない体を無理矢理に起こして
リビングでまったりしている妻を横目にトイレに行こうとした時のことだ。
「これ、今からするね」
「…え?」
まだ寝ぼけてる頭に突拍子のない会話はやめてほしい。
彼女のいつもの悪い癖だ。
なんのこと?と返事の代わりに頭をポリポリと掻いた。
「ほら、体調ずっと悪くて、夜は寒気が止まらないから、そうなのかなって」
彼女の手に持っているものにピントを合わせると、
妊娠検査薬、と書いた箱が手元にある。
「あと、今月遅れてるし…。ちょっとまってて」
そのままトイレに駆け込むのをボーッと見送って、
自分が先にトイレがしたかったなぁとぼんやりと思いながら、
深い息がしたくて、タバコが吸いたい。
しばらくしてから、白い細い棒を手にした彼女は、
「青い線は…、できてるってこと?」
少し不安そうな顔で聞いてくる。
僕も覗き込みながら、うっすらと出ている青い線を確認しながら、
箱の裏と照らし合わせた。
「青い線は”陰性”」
「…わ!じゃぁ、妊娠したのかっ。」
少し芝居掛かった言い方で驚く表情を見せながら彼女が僕に抱きついた。
「病院に行って、確実か確かめないとだなぁ・・・あ、ハッピーバレンタイン!」
にっこりといたずらっぽく笑う笑顔が眩しくて、ぽかんとしてしまう。
…ほんとだ、今日はバレンタインだった。