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二頭身の彼女

朝、目が覚めたら二頭身がいなかった。


狭い炭焼き小屋には顔のデカイ二頭身が隠れるスペースなんかない。


「二頭身…?」


どこ行っちゃったんだろう…

トイレかな、この小屋トイレないから。

初日に井戸の水を汚染させたくないからお前も遠くで用を足してくれって言われたもんね。


ボーっとしながら二頭身が帰ってくるのを待っていたんだけど、彼はなかなか帰ってこなかった。




それにしても遅い。私が目が覚めてからかれこれ二時間近く経つよね?


や、ちょっ!

まさかあの姿で生きていく絶望感で世を儚んで…?


良からぬ予感が胸を走る。


「二頭身ーー!!」


気がつけば私は叫びながら炭焼き小屋から飛び出していた。

すると小屋を取り巻くコナラやクヌギの林の中から「なんだ」と声がする。


思わず声のした方に駆け寄る。


「ちょっ、どこ行ってたの!心配するじゃん」と責めたら二頭身は「お前が昨日フルーツを食べたいと言っていたので探しに行ってきたのだ」と言った。


あらやだ、この人やっぱいい人、顔デカイけど。


「手が届かず取ってくることはできなかったがこの先にザクロが成っているを見つけた。場所を教えるから取ってくるが良い」


「あ、あ〜?めんどくさいからいい。朝は昨日精霊が作ってくれた鳥の唐揚げの残り食べるわ」


「…」


「あ、二頭身の好意無駄にするようなこと言っちゃってごめんね。

それにしても二頭身ほんとうに優しい人だね。


…ねえ、その頭身さえ普通ならアンタはかなりのイケメンだしその上優しい。そして王子様。

そんな恋人が突然いなくなってしまったアンタの彼女はさぞかし辛い思いをしているだろうね?」


私の言葉に二頭身は遠い目をした。


「そうだなぁ、私の彼女はあっけらかんとした執着の薄い娘だったから。

サクッといろんなことを諦めているかもしれないなぁ…

彼女ならいろんな物事を引きずらずに前向きに生きていけるような気がする。

むしろ…」


「むしろ?」


私が聞き返したら「あ、いや、なんでもない」と二頭身は顔をそらした。

ちょっとなにその態度、何か気になるじゃん。

突っ込みたかったけど、二頭身は小屋に向かってスタスタと歩き出したから…いやスタスタではないな、ヨタヨタだな。

うん、ヨタヨタと歩き出したから私もついて小屋に戻った。


小屋に戻ってからは昨日精霊が作ってくれた唐揚げを二人で食べた。


「うん、2日目なのに美味しい。

こりゃあ精霊の中に料理人やってたやつがいるね?」


むしゃむしゃと唐揚げを食べていると二頭身がマジマジと私を見て言ってきた。


「性格の悪い女よ、お前はなかなかの美人だな?」


「二頭身!今頃気づいた?

自分で言うのも何だけど、私わりと顔立ち良いんだよ。

なのに人にそれを褒められない。

だから小さい頃は自分のことブスだと思ってた。

美人は人に美人だ美人だってちやほやされて自覚していくからね。

何か人にちやほやされないなにかがあるんだろうね」


「確かに心遣いの無さとかどこかやさぐれたところが雰囲気に現れてるからなぁ。第一印象ではなぜか醜女に見えたなぁ…」


「あーそうですかー、ケッ」


「わかりにくい優しさが微かにあるにはあるのだが、それが雰囲気に現れてないのが残念だな。

21号に対しては無遠慮ながらも愛情のあるある姉のような接し方だと思った。表現に心遣いはないが言ってることは間違っていない気がする」


「ふん、この世に優しさのかけらのない人間も、邪悪さのかけらもない人間もいないよね。

なのに精霊ったら性格の悪い女、性格の悪い女って私のことをディスってさ。

あいつらの言う性格の悪さって絶対的なものではなくあくまでもあいつらのイメージだよね。

きっとニコニコ笑って自分の話を聞いてくれるような娘が性格のいい子って思ってるんだろうなぁ…」


二頭身は大きな口に唐揚げ一個入れてゆっくり咀嚼していた。

そしてそれを名残惜しそうに飲み込んでから「私もそれ以外は望まないけれどなあ」としみじみと呟く。


「私は討論したいね」と鼻息荒く言い切ったら二頭身は「まあ…ごく稀にはそう言う娘を好む男もいるだろうが、大抵の男は疲れてしまうだろうなぁ。それにお前は人が傷つくようなことを平気で言ってしまうし…」となぜか気の毒そうな顔をする。


二頭身よ、アンタがなにを言いたいかわかるぞ。

それでは相手を疲れさせてしまって最終的には嫌われてしまうだろうと言いたいんでしょ。


最後まではっきり言わないのが気づかいというのかな?

であれば、やっぱアンタは私の結婚相手とかには不向きだな。

物足りないもん。

かといって精霊のリーダー格みたいに敵愾心むき出しのやつもやだけどね。


うん、ってかこの世界で出会った男、全員無しだわ〜

いや、そもそも私妖怪にしか会ってないよね?こっちきてから。


けどさ、二晩一緒に過ごしていたら妖怪相手でも情が湧くよね。

見た目はともかく二頭身は優しいし…


「あ、そうだ二頭身、私がアンタの恋人を探してここに連れてきてやろうか?」


二頭身を思いやってそう言ったら彼は思いっきり嫌な顔をした。


「いや、彼女には絶対この姿を見られたくない。彼女だけではなくかつての知り合い全てに私はもう会いたくないのだ」


「二頭身…アンタの気持ちはわかるよ。そんな滑稽な姿を好きな相手には見せたくないの。

だけどさあ…

アンタの彼女はその姿を見たらアンタのことはきっぱり諦められるかもよ?

それはある種の思いやりかもよ?」


「性格の悪い女よ、お前のいうことには一理ある。

けれど私はそこまで強くない。

できれば付き合っていた頃のイメージを抱いて彼女には生きていってもらいたいと思ってる。


こんなことになってしまった今、私のことは諦めてほかの男と結ばれ、新たな幸せを手に入れてもらいたいとは思うが、これから先も私のことを思い出す瞬間があってほしい。

それはかつての私の姿で」


はいはい、二頭身がそう思うの、わからなくもない。

けどこの姿の二頭身を彼女さんが受け入れてくれる可能性はゼロではないじゃんね?

なんせ二頭身は性格いいし。

この森で二人で愛し合って暮らしていくってのもアリだよね。

可能性はかなり低いけど。


よし、ここはこいつのために一肌脱ぐか。結婚してあげられないお詫びに(ってかこいつもきっぱり私を拒否ったけどね)




「…ね、二頭身の彼女さんはなんて名前だったの?」


「イライザという」


「え…」


あーイライザかぁ。

日本人にはあんまりイメージ良くない名前…

ま、そんなことどーでもいいや。


よし、とりあえず森を出て二頭身の出身国に行って二頭身と身分違いのイライザちゃんとやらを探し出してここに連れてこよう。


善は急げだ、日の高いうちに出発しよう。


「あ…ねえ二頭身、私やっぱりフルーツ食べたくなっちゃったなぁ。

さっき言ってたザクロがなってた場所教えて?サクッと取ってくる」


「そんなことを言って…

お前はここを出てイライザを探しに行くつもりではないのか?」


うっ、やっぱ察しちゃう?

察しちゃうよねぇ〜


ひゃあ、二頭身ったらめっちゃ私を睨んでるよぉ。

すっごい目力。

目が脂の乗ったサバくらいの大きさだから迫力あるぅ〜

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