嘘つき女
精霊が炭焼き小屋に持ってきたモノを見て性格の悪い女は呆れた。
「はあ〜あんたらやっぱり気が利かないねー
鳩や鶏をそのまま持ってきてどうすんの?
あ、あんたら上司にタバコ買ってきてって言われてタバコだけ買って差し出すタイプだよね。灰皿やライターも一緒に持ってこいっつーの。
つまり何が言いたいかと言えば食料を調達してこいって言われたら食べられる状態にしてから持ってくるのが出来るやつだって話」
女に罵られた集合体の中の一人は反論した。
「いや、蒸し焼きがいいのか照り焼きがいいのかフライがいいのかわからないから素材で持ってたわけで」
性格の悪い女はフンという顔をする。
「言い訳して…
でもすぐ反論するその反射神経の良さは褒めてやろうかな。
ね、二頭身、あんたどんな調理法がいい?」
その問いかけに「私はなんでも良い」と二頭身は答える。
「そう、じゃあ森の精霊、唐揚げでお願い。塩味強めで」と命令しつつ、この精霊のリーダー格のやつ、ほかのやつらと違うような…まあまあ出来る男のような気がするなと性格の悪い女は思った。
うん、こいつは実社会で落ちこぼれ、この世を僻んで…という感じがしないなぁ。
なにが原因でほかのやつらと一体化して森の精霊なんかをやってるんだろう?
まっいいや。
今は空腹を満たそう。
「あれっ二頭身、もう食べないの?一口しか食べてないじゃん。
あ、主食がないとおかずが進まないタイプ?
そおだよね、パンも欲しかったよねー」
「いや、私は一口食べれば十分だ。
なにせ体が小さいので胃も小さいのだ」
なるほど‥
はぁーなんか不憫だな、二頭身。
お?森の精霊も何かを感じてる様子。
ちょっと気まずそう。
そーだよね、あんたらがこの人をこんな姿にしたんだもんねー。
でもまあこいつらも根っからの悪人じゃなさそう。
短絡的なだけで…
むしゃむしゃと鳥の唐揚げを貪り食べた性格の悪い女に精霊はおずおずと言った。
「あの、それで僕はどうすればロージーちゃんと結婚出来るのでしょう…?」
「あー、それね。
ところで21号あんた職業は何?」
「あ、えっと…モゴモゴ」
「ん?」
「…」
「あーもしかしてニートとか」
「はいそうですぅ…
やっぱり…無理ですか…ね。
職についてないわけだし」
悲しげな21号に対して仲間の激が飛ぶ。
「何弱気になってるんだ21号!性格の悪い女!…様?ならきっと良い知恵を授けてくれるさ!」と。
けれど性格の悪い女はサクッと言った。
「ううん、無理。
多分ロージーちゃんはもう結婚しちゃってるだろうし。
だって21号の同級生ってことはロージーちゃんだって30でしょ?
世間がほっとかないよぉ〜
ロージーちゃんみたいないい娘」
精霊の集合体の中から前のめりににょーんと伸びていた21号はボキッと下向きに折れてその後ほかの精霊の後ろに隠れて完全に姿が見えなくなってしまった。
そのかわりにすいっとリーダー的人格が前面に出てきて性格の悪い女を責めた。
「性格の悪い女、それでは話が違う。さっきお前はロージーちゃんと結婚する方法を教えると言い切った。
それを信じて私たちは実体のない体で苦労して食材を調達してきたし調理もした。
お前…私たちを騙したな?
今後私はお前のことを性格の悪い女ではなく恥知らずの嘘つき女と呼びたい!」
この言葉に精霊内からそうだそうだと同意の声が上がる。
イケメン二頭身もその意見に賛同し深くうなずく。
その様子を見て「ちょっと、二頭身!なに精霊側についちゃってるの?」と性格の悪い女は憤慨する。
「いや、私から見てもロージーちゃんは魅力的だ。私が結婚を約束していた娘もロージーちゃんみたいなタイプだったし…
精霊がさっきのお前の言葉に喜び、そして今どんなにがっかりしたかを思うと気の毒だ。
くれ騙しのようなことはよくない」
「え…二頭身、あんた婚約者がいたの?!」
「…過去の話だ。こんな姿になってしまった以上、私は二度と彼女に会いたくないから」
二人のこの会話を聞いていた森の精霊はすごく申し訳ない気持ちになった。
「…なんか…とてつもなく申し訳ないことをした。
こんな最低の女と結婚しなければ解けない呪いをかけてしまって 」と二頭身にリーダー格は深く深く頭を下げた。残りの精霊たちも遅れて頭を下げた。
むかっ。
こいつ私のことを最低な女って言い切った。
お前は私の何を知ってると言うんだ!
…しかし、こいつ見た目もそこそこいいのになんでコンプレックス強そうなこいつらとつるんでるんだろう。
まあそれはさておき、性格の悪さは自覚あるからいいけど、嘘つきみたいに言われるのは不愉快だから『ロージーちゃんと結婚』の意味を説明してやらんといけないな…
「おい21号、出ておいで。
もう少し私に話を聞かせて」
そう性格の悪い女が呼びかけるとどんよりした声で「今更なにも話したくないですよ、嘘つき女様」と21号は答えた。
そういう皮肉っぽい対応は無視して女はさらに話しかけた。
「ねぇ、あんたって一度も働いたことないの?」
「あるよ、お父さんの会社で」
「お父さんの会社!やっぱあんたおぼっちゃまだったんだ」
「…いや、おぼっちゃまというほどでは…僕が子供の頃お父さんは薬品会社の下請け工場をしてたんだ。けれど、お父さんは栽培は不可能だと思われていた抗菌作用の強い特殊な藻の一種の完全培養に成功して今はそれを製造販売する会社をやっている。
僕は大学を出てすぐお父さんの会社に入ったんだけど…周りとうまくやっていけなかった。
僕のいないところで僕の悪口言っているのを聞いてしまって…
使えないのに社長の息子だから怒鳴ることもできない一番迷惑な存在だって。
叩き上げの課長が言った言葉に他のみんなも同意して笑ってた。
みんなで僕のこと嘲笑ってた。
それがつらくて会社に行けなくなった」
「…21号あんた頭がいいんだからいい大学行ったでしょうに、他の会社の就職試験は受けなかったの?」
「受けなかった。どうせ受からないだろうし」
「なんでそんな風に思うの?なにがあんたのコンプレックスなんだろうね」
「コミュ力ないし。コミュ力の前に僕はすごい恥ずかしがり屋なんだ。子供の頃は周りに結構同じをような恥ずかしがり屋いたんだけど、成長するにつれみんなは社交性を身につけていった。なのに僕だけがずっと恥ずかしがり屋のままだった。中学の時の友達と高校に入るとき別れてからは新しい友達ができなかったし。
だいたい人が好きじゃない。僕という人間は基本人と馴染めないんだ。
僕はロージーちゃんと同じクラスだった頃が人生で一番幸せだったな…」
「は?人が好きじゃない?人と馴染めない?
あんたバカ?思考力ゼロ?文脈読めない系?」
21号は性格の悪い女のその物言いにムッとしたがイケメン二頭身は彼女がなにを指してそういうことを言い放ったのかを察した。