愛しのロージーちゃん
ロージーちゃんは特別美人じゃないけど、とにかく明るくて社交的なんだ。それに優しくて強い。
ちょっと食い意地がはってたけど、そこも気取ってない感じがしてとにかく好感が持てる娘だったんだ。
欠席者が出た時の余った給食のプリンはいつも彼女のものだった。
ロージーちゃんとは中1、中2と同じクラスだった。
僕は小学校の頃から仲が良かったやつ数人と話す程度でそんなにクラスに馴染んでるわけでなかったし、当然女子とも話をしたりしなかった。
なんか女子怖かったし…
女子は最初グループが分かれていて、ほかのグループのやつと話すことはまるで禁じられてたみたいな感じで、すごくクラスの雰囲気を悪くしてたんだけど、ロージーちゃんがそれを打ち壊した。
ロージーちゃんはあっという間にクラスの人気者になった。
彼女は女子でも男子でもイケてないやつでもイキッてるやつでも目が会えば気軽にガンガン話しかけて来るんだ。
僕にも。
でも僕ごときがクラスの人気者のロージーちゃんに話しかけられるなんていう贅沢をしたら後々バチが当たるんじゃないかと思って僕はロージーちゃんに話しかけられないようにいつもうつむいていた。
目が合うと話しかけてくるから…
ある日…
学校に登校中ポンポンって頭たたかれて、振り向いたらそこにロージーちゃんがいた。
ロージーちゃんは「21番相変わらず髪ハネてるね〜」と笑いながら僕を追い越して行った。
ここまで黙って21号の話を聞いていた性格の悪い女は質問した。
「あんた21番って呼ばれてたの?
なにそれあだ名?本名?」
「あだ名」と21号は答える。
「変なあだ名だねぇ、由来は?」
「あー中学入ってすぐの全国共通模試で21番だったから」
「ふーん、何人中?」
「ん…一億人くらい?」
「!!びっくりっ、中1が一億人同じテストを受ける世界ってどんなん?」
驚いて目を剥いた性格の悪い女を見てイケメン二頭身や森の精霊は驚くべきはそこではなく21号の頭の良さだろうと思ったが口には出さない。
なんか言い返されると怖いから。
「あ…話中断させちゃったね、続けて」
性格の悪い女にそう促され21号はまた話し出す。
「僕は髪質のせいかしょっちゅう髪がハネちゃってたんだけど、それにロージーちゃんが気づいてくれていたなんてと、あの時は感激したなぁ…
僕のこと、ちゃんと見てくれているんだと思って無性に胸が熱くなった。
僕は授業中彼女と同じ教室の空気を吸ってるだけで幸せだった。
そして中2のバレンタインの時ハートのチョコをもらって、アレ?って思ったんだ。
去年もらったのは半球型のチョコレートだったのに今年はハート…
友達がもらったチョコレートもこっそりチェックしたんだけど、去年僕がもらったのと同じ半球型だった。
つまりそれって…
僕は恥ずかしくてロージーちゃんの前ではいつもうつむいていたけれど、もしかしてもしかしてロージーちゃんは僕ともっと話したかったんじゃないかなぁと思った。
密かなロージーちゃんなりのメッセージかと」
「ないない」と性格の悪い女の心無い声が森に響いた。
ああ、またコイツはと、21号の甘酸っぱい話を恥ずかしいような羨ましいような気持ちで聞いていた面々はちょっとイラッとした。
態度には出さなかったけど。
「21号、あんたそれでどうしたの?
ロージーちゃんが自分に好意を持ってるんじゃないかって誤解した後」
「え…
別にいつも通りにしてたけど…
ってかますます意識しちゃってずーっとうつむいていた」
「へーせっかくブラス方向の誤解をしたのに?」
「…」
「曖昧なまま楽しい妄想の海で遊んでいたかったんだね。
ま、それが正しかったかも。
変に暴走しちゃってアプローチとかしちゃったらロージーちゃんに、なにこの勘違い男?って嫌われちゃったかもしれないし。
ロージーちゃんのなかでクラスの頭のいい大人しいやつとしてうっすら記憶されてる方が幸せかもしれないよね」
「えっとあの…性格の悪い女、で、僕はどうしたらロージーちゃんと結婚できる?」
「はい?性格の悪い女って失礼な。
あんたそれが人に物を尋ねる態度?」
「はわわ、じゃなんて呼べば…」
「性格の悪い女様とお呼び。
人に教えを問う立場でいながら呼び捨てって」
あ…様つければいいんだ。
性格の悪い女って部分には文句がないんだ…って21号と性格の悪い女の会話を聞いていた精霊とイケメン二頭身は思った。
「その前にもう少し色々聞かせて。
21号、あんたって何歳?」
「…30」
「げ、私より年上。
なんか人間が幼いね。
20歳くらいかと思ってたよ。
ねえ、精霊を名乗ってるけどそもそもあんたらって何?」
この性格の悪い女の質問に精霊たちは困惑した。
答えたのは精霊内のリーダー格の人格。
「それはよくわらない、自分たちも。
まあ生き霊のようなものではないだろうか…
実生活で満たされかったり傷ついた心の一部分がちぎれて時空を超えてこの森に集まり、それなりの妖力と森の精霊という名を手に入れたっていう感じかな?」
ふうん、という顔で性格の悪い女は言った。
「じゃああんたら実体は別の場所にあるんだね」と。
「多分。で、あのう…性格の悪い女…様。
僕はどうしたらロージーちゃんと…」とおずおずと21号は女にお伺いをたてる。
「いやいや、今のあんたの現状も教えてもらわないとね」と言われ21号は少し渋い顔をした。
「あ…その前に森の精霊であるあんたらに頼みがある」と続けて女は言った。
「…なんでしょうか。性格の悪い女…様」と精霊は素直に答える。
「うん、私朝ごはん食べてないんだよね、お腹空いちゃったからなんお腹に溜まるものを炭焼き小屋に届けてくれない?パンもどっかから調達してきてよ。二頭身の分もね」
「はぁ…」
「私らは先に小屋に戻ってるからサッサッと調達してきて。
ん?
何ぼけっとしてんの?
早くお行きっ!」
「あ、はい…」と精霊たちは戸惑いながら答えた。
はて、なんで俺ら性格の悪い女にパシられなきゃいけないんだ?と思いながらも。
性格の悪い女の一連の言動を傍観していたイケメン二頭身は、子供の時乳母に読んでもらった絵本に出てきた山賊の親分ってこんな感じだったなぁ…と当時読み聞かせてくれた乳母の声を懐かしく思い出していた。