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ハートのチョコレート

翌朝。

性格の悪い女はイケメン二頭身に朝食を要求した。




「昨日はきのこ汁しか食べてないからお腹空いちゃった。

ねえ、パンかなんかないの?あと玉子とか…

炭水化物とタンパク質取りたいんだよね?」


「ない。

体のバランスが悪いせいで、木の根本に生えているきのこを採集するのが私にはやっとなのだ。手が短いので木の実さえ採ることができない」


なるほど。

でもお腹空いたな。

あ、二頭身に食料調達能力がないんだったら、昨日会った森の精霊に調達させようかな…

あいつらならこの森のどこにどんな食物があるか把握してるだろうし。


「ね、私森の精霊にちょっと話つけに行くよ。

昨日の水溜りあたりが多分生息地だよね?やつらの。

アンタはどうする、一緒に行く?」


私がそう尋ねたら「行く」と二頭身は即答した。


イケメン二頭身が住処にしている炭焼き小屋は私が落ちた水溜りの東、1キロくらいのところにあった。


水溜りまでの獣道は所々木が鬱蒼としてるところもあるし、高低差があって、その上大きな石がゴロゴロしていてとても歩きにくい。


私達はあの水溜りに向かって出発したんだけど、二頭身の歩みが昨日より遅い。


そうか、この人昨日夕飯食べてないから力出ないんだ、それにあんまり寝れなかったみたいだし…

(目の下のくまがそれを物語ってる)

だから力が出ないんだな。


「なんか時間かかりそう…ニ頭身連れて水溜りまで歩いていくの」ってため息混じりにつぶやいたのが彼にに聞こえてしまったみたいで「性格の悪い女よ、先に行け。私は後から追いかけてゆく」と言われてしまった。


ポリポリ。


「いや、正直私も歩くのめんどくさいんだよね。

…ここに呼び出すわ。森の精霊を」


「そんなことができるのか?」


「多分この森の全体に意識を張り巡らしていると思うよ、精霊だもん」


炭焼き小屋から200メートルほど小道を進んだところのケヤキの倒木あがる場所で私は空に手を広げ大声で叫んだ。


「い出よ!森の精霊!!」


し〜ん。


「…出てこぬな?」と、二頭身はあきれ顔をして私を見ている。呼んで出てくれば苦労はしないよって言いたげ。


「奥の手を使います」と私が言うと「そんなものがあるのか?」とでかい顔の眉をひそめた。


「ふ、ありますとも」


私が自信満々に「おーい!森の精霊出てこーい!

でないと中坊のときに社交的な女子がクラス全員に配った義理チョコを…生涯たった一つもらったチョコレートを未だ大事に取ってあることをバラすぞーっ!!」と叫んだら「きゃー」と悲鳴を上げて森の精霊が現れた。


ほ〜ら出てきた、どうよ?と言わんばかりに私はイケメン二頭身を見た。


その後森の精霊に向かって「手間とらせるんじゃないよ!呼ばれたらとっとっと出てこい」と恫喝する。


「おっ、おっ、お前はいったい何様のつもりだぁぁぁーーー!!」と森の精霊は叫ぶ。


「ふっ、あんたらの言うとこの性格の悪い女様?」




そう言ってニヤリとした女を見て森の精霊はブルルッと小さく震えた。

俺たちは悪魔をこの世界に引き入れてしまったのではないだろうかと思って。


「やだぁ〜なに震えてんのぉ〜

まるで私がすっごく恐い人みたいじゃな〜いですかぁ〜」と性格の悪い女はクネクネする。


こわっ!

カワイコぶったその声色と仕草がまた恐い!と森の精霊たちは思った。

イケメン二頭身も。


「ってかどーしてお前は僕の秘密を知ってるんだ!」と森の精霊の集合体の中の一人が言った。


「あ、へー、図星だった?

まあ適当なこと言ったんだけどね、私は。なんとなーくこんなことしてそーだなー、と思って」


「いっ、いいか?言っておくぞ!

僕があのチョコをとってあるのにはちゃんと理由があるんだからなっ!」


集合体の中の一人が口角泡を飛ばしてそう叫ぶ。


「ほう…理由。

ふ、聞いてやろじゃないの」と性格の悪い女は口の端を上げる。


「おい、止めておけよ。こんなやつに大事な思い出を話すのは」と集合体はざわついたが、その中の一人は話し始めた。




「性格の悪い女よ、よく聞け!

僕がもらったのはな、クラスの雑魚らに配られた物とは違うんだよ!」


「ほう、どう違うの?」


「他の奴らは丸い形のチョコをシルバーの銀紙で包んだやつだったけど、僕のだけはハートの形のチョコを赤い銀紙で包んだやつだったんだからなっ。

つまり僕のだけは特別だったんだ!」


「クスッ」


「な、何がおかしいんだ!性格の悪い女!」


「おめでたいねぇ、あんた。

あんたさー、スーパーにお買い物に行ったことある?」


「あ、あるにはあるけど、それがどうした!」


「あのねぇ、チョコレートのバラエティパックって見たことない?大袋にチョコレートがいっぱい入ってるやつ」


「?」


「あー、ないんだね。

あんたどっちかって言うとスーパーじゃくてコンビニで新商品のお菓子とかを買うことの方が多かったでしょう。

ってことはそこそこいい家の子なんじゃない?」


「そっ、それがなんだ!」


「あのねぇ、多分あんたにチョコレートくれた女子…まあ仮にロージーちゃんとでも呼ぶか…」


「ひっ!貴様!なぜロージーちゃんの名前を知ってる」


「あれぇ、適当に言ったんだけどな、ビンゴだった?」


そんな二人の会話中「落ち着け、21号!これ以上こいつと話すと危険な気がする!今日はもう帰ろう!」と森の精霊の内部でその場を去ろうとする空気が流れた。


けれどたたみかけるように性格の悪い女は言った。


「いやぁ、最後まで話聞きなさいよ〜ぉ」と、とても意地悪い声で。


「あのね、あんたのもらったハートのチョコレートには特に意味がないよ?

ロージーちゃんは多分スーパーでお得用のチョコの大袋買ってそれをかわいい袋に入れてラッッビングしてクラス全員に配ったの。

でね、チョコの大袋にはたまーに形の違うやつが入ってたりするの。

ロージーちゃんの買ったのは多分それがハートの形だったんだろうね。

ロージーちゃんは前日ラッピングしたチョコをバレンタインデーに無作にクラス全員に配った、無造作に。

たまたまハートのチョコがあんたに当たった…

それだけのことなんだよ?

多分ロージーちゃんは本命の男の子には手作りの…」


性格の悪い女がそこまで話した時、イケメン二頭身が急に話に割って入ってきた。


「性格の悪い女よ!それ以上言うのはやめてくれ!」と真っ赤な顔をして。


「はい?

なんで二頭身が怒ってんの。

あんたはいっぱい本命チョコをもらってきてるでしょうから、こんなトンチンカンな勘違いはしたことないでしょうに」


「そう言う問題ではない!」とイケメン二頭身は性格の悪い女に詰め寄った。


「自分の過去の経験とか、モテるモテないとかは全く関係ない。

お前があばこうとしているはとてつもなく残酷なことなのだ。

この世の男全員が共有するデリケートなプライドがむやみに傷つけられるのを見るのは耐えられない!

頼むから人の思い出を踏みにじるはやめてくれっ!」


二頭身は精霊の方に向き直る。


「森の精霊よ、今性格の悪い女が言ったことは気にする必要はない。

たとえ偶然とはいえそのハートのチョコレートがロージーちゃんから貴公の手元に渡ったのには何かしらの意味があるに違いないのだから、大切にそれをとっておくことになんの不合理もない」


「二頭身優しいねぇ」としみじみ呟いたあと、性格の悪い女は森の精霊に向かって言った。


「あんたら、この優しい人を自分の僻みでこんな姿にしちゃったんだよね?」と両手を広げ、首を傾げて。

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