見えるの?
「ん?お前俺らが見えるの?」と森の精霊とおぼしきものが私に話しかけてきた。
「見える。水飴で作った数多の不細工な人形が溶けてくっつき合ってひとかたまりになったような不気味なものが。なんかデブ多いね?」と言ったら「さすが性格の悪い女。表現に心遣いがない」と感心された。
「や、私正直なだけだから」
ってな感じに私が森の精霊と話しているところに二頭身が声をかけてきた。「誰と話しているのだ」と。
「おたくをそんな姿にした張本人と。見えないの?」と尋ねたら「見えない」と答える。
「でもいるよーここに」と精霊のいる方を指し示したら二頭身は、ぐっと目をこらして、あ?と呟いた後大声で叫んだ。
「森の精霊よ!私はこの性格の悪い女と結婚する!だからどうか元の姿に戻してくれ!」と。
冗談じゃないよと思って私も負けずに叫ぶ。
「や、や、や、ちょっと待って!私やっぱ二頭身とは結婚できない。彼氏に悪いしっ」って。
そしたら
「ええええ〜?!お前彼氏いるのぉ〜!!」と25体くらいが合体してる森の精霊が大声で叫んだ。
その振動で周りの木々が揺れた。
失礼な!
そこまで驚くことか?
ん?
おい、二頭身!
なんであんたまでええーって顔をしてるんだ?
でかい顔のでかい口をOの形にして。
超ムカつくー
この世界の奴ら!!!
「ちょっと、あんたら!つべこべ言わずこの二頭身の呪いをといてやんなよ!
で、私を元の世界に帰して!
あんたらでしょ、私をこっちの世界に召喚したのっ」
「いやーもう呪いかけちゃったもん。性格の悪い女と結婚しないと解けないヤツ」
「じゃあ二頭身はこのままでいいから私を元の世界に戻してっ」
「うわっ、性格悪っ!
自分さえ良ければいいというその思考。
やっぱ俺らの目に狂いはなかったな…」
「は?人間誰しも自分が一番可愛いのは当たり前でしょ?
あ、あんたらさては自分を犠牲にしてでも相手の幸せを優先する女がいるなんて幻想を抱いちゃってるタイプ?」
「いるよな?こっちの世界にはそういう女。ってか性格の悪い女あんまいないし。こっちの世界では。
だからこそお前を連れてきたんだし」
「ふっ、おめでたいね、あんたら。さすがモテない男軍団。女というものがまるでわかってない」
私が大上段に構えそう言ったら「うるさいうるさーい!モテないって決めつけるなーっ!」と叫んで森の精霊は北の方向にすごい勢いで走り去っていった。
どしたどした?あ、なんか傷に触れた?
「ふん、ハートの弱いヤツらめ」と逃げていく後ろ姿を罵っていたら二頭身が「確かに性格が悪いな…」とつぶやいた。
むかっ。
腹が立ったんで「あーもう絶対あんたなんかと結婚してやーんないっ」と宣言したら二頭身は神妙な顔をして「…そうだな…お前には恋人がいるのだからな」と言った。
あ?や、そう心遣いを示されちゃうと、こっちも心遣いをしなきゃと思ってしまうのが日本人。
つい「あの…えーっと、少しだけ考えてみますぅ」と言ってしまった。
「性格の悪い女よ、お前はこれからどうする?
森の日暮れは早い。暗くなってから歩くのは危ない」
「呼び方。
うーん、すぐには元の世界に戻れそうもないから、とりあえずお城に連れていって下さいよ。
そこでおたくの客人として私をもてなして下さい。」
「いや、私は城を捨てた。
この姿を人目に晒して生きていくことはできないから」
「えーじゃあ今どうしてるの?!」
「廃墟になっていた森の炭焼き小屋で過ごしている。かれこれ半年近く」
炭焼き小屋か…
まあ野宿するよりはいいか。
「じゃあそこ行きましょう」
そう言って二頭身の家に向かったんだけど、まあ、二頭身の歩くのの遅いこと遅いこと。
なーんせ足の長さ40センチくらいだからねえ。
バランス悪くて歩きにくそうだし。
うん、なんか気の毒には気の毒。
だからといって、やっぱこの人と結婚する気にはならないしなあ…
この人の呪いを解き、私が自分のベットに戻れる良い方法はないものだろうか?
あー珍しく考え込んだらなんかお腹が減ってきたよ。
とりあえず二頭身にご飯ご馳走になって、それからいろいろ今後のことを話し合ってみよう。
私たちが二頭身の家に着いたのは日暮れ後だった。
マジこの人歩くの遅くてさ〜
やんなっちゃったよ。
ちょっとした段差で転ぶし。
「ね、二頭身、私お腹空いてしまったよ。なんか食べさせて? 」
「呼び方。
朝作ったキノコ汁がある。温め直してやるから食べるが良い」
二頭身がそう言ったのでクソ狭い小屋の中央の囲炉裏にかけてあった鍋の中を覗く。
キノコ少なっ!
「全部食べて良い」と二頭身は優しげに微笑むけど、しめじほどの小さなキノコが5つ入ってるだけじゃーん!
それでもまあ、木挽きのお椀によそってくれたキノコ汁、美味しそうには美味しそう…
このキノコ汁に手を出そうとした時ハタと気づいた。
「ねえ、二頭身…私これ食べて大丈夫かな?」
「え?」
「ほら良く物語にあるじゃない、その世界の食べ物を口にすると元の世界に戻れなくなるとかいう設定」
「ああ…多分大丈夫だろう」
「…他人事だと思って簡単に言うね。根拠あるの?」
「私の叔父のところの召使いが異世界から来たものだった。突然現れ突然消えたのだが、彼女は大食いだった。
ただ彼女は自分の名を名乗らなかったな。
だから帰れたのかもしれない。
お前もこちらでは名を名乗らない方がいいかもしれないな?」
「ふうん、じゃあここには他の世界からやって来て戻っていった人がいるんだ、なら私も帰れる可能性あるね?」
「そうだな…」
あ、二頭身でかい顔で複雑そうな顔をしている。
そうか…
私が帰っちゃったらこの人の呪いは解けず一生このままの可能性大なんだもんね。
ん…
待てよ。
私じゃなきゃダメなのかな?
森の精霊はこっちには性格の悪い女居ないから私を連れてきたみたいなこと言ってたよね?
性格の悪い女だったら誰でもいいのなら、こっちの世界の性格の悪い女探してこの人と結婚させればいいのでは?
おおっ、名案!
よし、明日森の精霊にそこら辺のとこ詳しく聞いてみよ。
ちょっと見通しついたらなんか疲れが出て眠くなってきたな。
でもこのせっまい小屋には簡素なベット1つしかない。
うん…しばらくは二頭身に世話になるんだから少し鼻薬を嗅がせておくか。
こっちにいる間はなるべく親切にしてもらいたいし。
「まあ、そう落ち込まないで。どうしても他に方法が無かったら私、結婚してあげますから。(嘘だけど。てへぺろ)
あ、なんか眠くなっちゃったんですけどベッド使わせてもらってもいいですかぁ〜」
サクッと二頭身が譲ってくれた簡素な木組みのベッドの中で考え事をする。
それにしても性格の悪さを見込まれて違う世界に召喚されちゃうなんて、ほんとやだな。
ロマンのかけらもありゃしない。
ってか私そんなに性格悪くないし〜
まあ、考え事は明日にして、今日はもう寝ようっと。
くうくうと寝息を立て始めた性格の悪い女の横でイケメン二頭身は椅子に座って寝た。
重い頭がたまにぐらつくたびに目をさましながらも、愚痴1つ言わずに朝まで過ごした。
彼には性格の悪い女が自分と結婚する気など全くないことはわかっていたのだけれど。