説得からの
「二頭身、嘘はやめようよ。
私と結婚するくらいならこのまま一人でこの森で暮らすって言ってたじゃん。
あんたは今、クリスティーヌちゃんに自分を諦めさせて、イライザちゃんと同じように新しい恋の相手を見つけ幸せになってもらいたいと思ってるんだろうが、違うぞ」
私がそう言ったら精霊たちが「なにが?」と聞いてきた。
うむ、答えてやろう。
「女は二種類。
昔の恋を忘れられる女と、一生引きずる女。
イライザちゃんは前者。
クリスティーヌちゃんは明らかに後者」
クリスティーヌちゃんはここで大きくうんうんとうなずいた。
「そうです!私シャール様を諦めるなんてできない!10歳の時から大好きだったんだもの。
確かに今のシャール様のお姿はありえないほど不気味だったけど、シャール様であることに変わりはないわけだしっ」
そう迫る彼女に「クリスティーヌ、私はこの森で人目に触れず一人生きていく決意をしたのだ」と二頭身は心底困り果てた顔をする。
そんな二頭身に精霊たちがここで声をかける。
「いやいや、おたくがクリスティーヌちゃんを嫌いじゃなかったら結婚してもらえば?」と。
ふ、精霊どもめ。
クリスティーヌちゃんをこの森に留めて愛でようとしてるな?下心ミエミエだぞ。
「二頭身、断言するけど、あんたが今クリスティーヌちゃんをこの森から追い返してもクリスティーヌちゃんは幸せになんかならないよ。
絶対あんたのことを一生引きずる。
ふつーの娘なら今のあんたの妖怪みたいな姿を見たらどんなに好きだった相手でも速攻引くって。
それでも、あんたがあんたである限り好きだから結婚したいって言い張るクリスティーヌちゃんは筋金入りの粘着質だよ。
なんだかんだ言っても、あんたと結婚するのがクリスティーヌちゃんの幸せってもんじゃないかなぁ?」
二頭身にそう語りかけていたら「性格の悪い女様っ!わかっていただけて嬉しい」と言ってクリスティーヌちゃんは駆け寄ってきて私の手をとった。
クリスティーヌちゃんにぎゅっと手を握られた瞬間、あるアイデアがひらめいた。
電撃的に。
私はクリスティーヌちゃんを抱きしめて頬ずりした。
「クリスティーヌちゃんてばかわいい〜私をディスりまくる精霊や二頭身とは大違い」と言いながら。
そして頬ずりを続けながらでクリスティーヌちゃんの耳元に唇を寄せヒソッと思いついたことを依頼した。
「あ、いいな、俺らもクリスティーヌちゃんにスリスリしたい…」とうらやまそうにつぶやく精霊を鬼の形相で威嚇しておく。
いいか!お前ら。クリスティーヌちゃんに見えてないからって勝手なまねをしたらただじゃおかないぞ、と。
ま、こいつらにそんな勇気はないだろうけど。シャイな奴多いから。
それはそうとクリスティーヌちゃんは私の指示どうりにに振舞ってくれるだろうか…
そんなことを思いながら私の依頼に戸惑っているクリスティーヌちゃんを眺める。
うん、やっぱりかわいい。
クリスティーヌちゃんのかわいさをしばし堪能した後視線を二頭身に移すと彼は虚ろな瞳で下を向き考え込んでいた。
一人で森で生きていくのは寂しい。
だからと言っていってクリスティーヌをここに引き止めていいのだろうか?
今まで散々彼女を拒否してきたのに自分がこんな情けない立場になった途端、彼女を受け入れるなんて、あまりにも自分勝手ではないだろうか。
…なんてことを考えてんだろうな、多分。
うつむいていた二頭身が苦渋の表情のまま天を仰いだ時、突然森に強風が吹いた。
ほんの一瞬だけ。
その風のせいで厚い木の枝の重なりの一部分が解け、どこもかしこも薄暗かったこの場所に1箇所だけ奇跡のように陽が射してきた。
チラチラと揺れながら細かい光はなにか模様のように地面で踊っている。
「ああ、なんか教会のステンドグラスを通した光みたい。
綺麗だな…
ねぇ…二頭身、あの光をあんたたちへの神の啓示と受け取って、今ここで結婚式をしたら?」
「は?」
「私この前友達の結婚式に出たばかりだから神父さんのセリフ覚えてる。
私、神父さんの代わりにあんたらの結婚の立会いをしてあげる。
ほら、二頭身もクリスティーヌちゃんもあの明るい場所に立って!」
私は追い立てるように二頭身にそう言ったんだけど、二頭身はまだ苦悩しているらしく「今?急すぎる…いや、その前に苦労させるのがわかっていて彼女と結婚などできない!」と歯向かってくる。
「…二頭身、違うよね。
結婚できないんじゃなく、結婚した後彼女に嫌われてしまうのが怖いから、したくないんだよね?
この妖怪みたいな姿に嫌気がさしたり、食料ひとつ調達できない無力な自分が嫌われる日が来るのが怖いんだよね」
私の問いかけに二頭身は悲しげな顔をして「そうだ…」と答える。
やーこういうとこ素直だよね?この人。
うーん、もしもこんな姿になる前に会っていたら私も好きになっていたかな?
まあ、私は二頭身の姿が衝撃すぎてどんなにこの人がいい人でも絶対ラブは感じないけど…まじこの容姿破壊力あるから。
しかしそう考えると益々クリスティーヌちゃんの二頭身への執着心って凄いなと感じるよ。
あれ、ちょっと考え込んだ隙にクリスティーヌちゃんが消えた?
見ればクリスティーヌちゃんはキラキラ光りが差している場所に一足先に行って二頭身を笑顔で手招きしている。
わ、フットワーク軽いなー、クリスティーヌちゃん。
今の二頭身の一言で彼の気持ちが自分に傾いていることを確信したんだな。
よし、最後の一押しだ。
「二頭身、もしここであんたがクリスティーヌちゃんを追い返せば、クリスティーヌちゃんは一生あんたのことが忘れられずウジウジした人生を送ることになる。
でももしあんたがクリスティーヌちゃんと結婚してあげれば、とりあえずクリスティーヌちゃんは満足する。
これが重要。
後々あんたのことが嫌いになり、この森を出ていくことになったとしても、あー若気のいたりだったわ〜妖怪なんかと結婚しちゃってーマジこりたーとか言ってあんたへの執着は無くなり、その後彼女はスッキリした人生を送れる。
つまりクリスティーヌちゃんが心変わりすることがあったなら、その時は気持ちよく今までありがとう、って爽やかに彼女を送り出してやる覚悟を持って結婚してあげるのが、今のあんたに出来る唯一のことなんじゃないの?
恐ろしい精霊のいるこの深い森の奥まであてもなく一人であんたを探しにき来てくれたクリスティーヌちゃんに対して」
二頭身がクリスティーヌちゃんと結婚するようにと説得されている様子を眺めていた森の精霊たちは、随分酷なことを要求するな、やっぱり性格の悪い女は性格悪いなぁと囁き合っていた。




