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出でよ森の精霊

「二頭身、考えすぎ。

私はただ唐揚げの後にフルーツが食べたくなっただけ」


そう言った私を二頭身はちらり見て「ではザクロのある場所まで私が案内しよう」と立ち上がった。


完全に疑ってる。

私を一人で外に出さないつもりだ。

でも大丈夫、こいつはバランス悪いから走れないだろう。


小屋を出てしばらく一緒に歩いたところでダッシュし、二頭身引き離したところで森の精霊を呼び出して森を抜ける道を案内させようと、私は考えていた。


案の定二頭身は急に走り出した私を追いかけようとして、すぐに転んだ。


ズデンと重い音がする。


二頭身ごめん〜多分頭を打ったよね。でもこれはあんたのための行動だから。悪く思わないでね〜


若干の罪の意識を感じながらも走り続けていたら後の方から二頭身が叫ぶ声が聞こえた。


「出でよ!森の精霊!!」と。


は?

なんであんたが精霊を呼んでるんだ?


思わず立ち止まった私と二頭身の間に精霊が現れた。


「呼んだ?」と言って。


二頭身は転んだまま精霊に頼んだ。


「森の精霊よ、力を貸してくれ!

性格の悪い女を捕まえてくれ!

彼女は私の恋人だった娘をここに連れてきて今の私の無様な姿を見せるつもりだ!

それを阻止してくれ!!」


精霊は「なにそれひどーい!」と言ってうにょうにょといくつもの手を伸ばしながらこっちに近づいてくる。


あっという間に私は精霊に捕まってしまった。


「きゃあ、女子になんてことすんのよっ離してっ」と叫んでも精霊は「えー女子ってどこにいるんですかぁ?〜」とキョロキョロしてるだけで離そうとしない。


あれぇこいつら…

なんか水飴みたいにぐにゃぐにゃしてるかと思ってたけど、どっちかというとガラスみたいなつるんとした質感だ。


いわゆる『ガラスのハート…』ってこと…?


「座布団一枚」


あ、上手いこと言ったみたいに自賛してる場合じゃないか。


「いや、あんたら実体がない割にはなんか重いよ!どいてよ」と私を地面に押し付けてその上にどかっと乗っかっている精霊に抗議したんだけど、聞こえないふりしてる。


「精霊よ、あんたたち勘違いしてるよ、私は二頭身のためにイライザちゃんをここに連れて来てやろうと思っただけなんだから」って押しつぶされながらも手足をバタバタさせて弁解する。


精霊は微動だにしない。

そんな中、リーダー格のやつが偉そうに言った。


「性格の悪い女よ、お前は何にもわかっていない」


「何が?」


「男のプライド」


「は?」


「落ちぶれた姿を好きな女に…好きな女にだけは見られたくないという」


よく言うよ。

誰だよ二頭身をこんな姿にしたの。


ん?二頭身、いつのまにか立ち上がって、精霊の言葉にうんうんとうなずいている。

もぉ〜すっかりあんたらマブダチじゃん。


「私はさ…二頭身がこのままの姿で一人寂しくこの森できのこだけ食べて暮らしていくのは気の毒だと思って…」


しおらしくしおらしく(演技だけどね)弁解する私に精霊は「それは心配ない」と言った。


「何が心配ないの?」


そう質問すると精霊の中、一人だけ眼鏡かけたやつが「二頭身の面倒は俺らが見るから。ごんぎつねみたいに毎日戸口に食糧届けるから」と答えた。


ごんぎつね…

こいつ今ごんぎつねって言った?!

ごんぎつねってあれだよね、小学校の教科書に載ってた新美南吉の童話…


ってことはこいつ私と同じ世界のやつだ、しかも日本人。

おっ、おっ、閃いたーっ!!!

元の世界に戻る方法!


よしっよしっと踏みつけられながらも小さくガッツポーズとる私に気づき「何こいつ喜んでんだ?」と精霊が首をひねる。


そこに額から血を流しながら二頭身が近づいてきた。


「性格の悪い女よ、もう悪巧みはしないと約束してくれ。

約束してくれたら精霊にどいてもらうように私から頼むが…」


悪巧みってあんた…

まあ、しょうがないか。

いつまでも精霊に踏みつけられてるわけにはいかないし。


「わかったよ、二頭身。イライザちゃんを探しに行くのは止める」


仕方なくそう言う。

だってしょうがないよね?精霊が協力してくれなきゃこの森を抜けれないだろうし。


二頭身は軽くうなずいてから「退いてやってくれ」と精霊に指示した。


「もっとこいつを懲らしめたらいいのに、オタクはほんと優しいなぁ」と精霊はほざく。


精霊がどいたので速攻立ち上がって、お前らよくも私を踏みつけてくれたわねと渾身の力を込めて睨みつけていたとき、どこからか人の声がしたような気がした。


「ん?

今、風の音に混じって人の声がした。若い女の子の声…」


眼鏡をかけた精霊が「気のせいだろう、この森は富士山の樹海くらいの広さだから女の子なんか入って来れないさ。鳥のさえずりを聞き間違えてんじゃないのぉー?」って言う。


富士山の樹海かぁ。

やっぱあんた私と同じ世界のやつだねと眼鏡をかけたやつを眺めながらも耳は微かに声が聞こえた南の方に傾けた。


何にも聞こえない。

やっぱり空耳だったのかと思ったころ、また声が聞こえた…ような気がした。


「ね、あんたらの中に耳のいい奴いたよね、

なんか聞こえない?」と言う問いかけに一体の精霊が答えた。


「…聞こえる、かすかに。たしかに女の子の声だ。

人の名前を呼んでいる。

シャール様って」


それを聞いた途端、二頭身の顔から血の気が引いた。


あ…?


この時私は直感した。


イライザちゃんだ!

二頭身の恋人のイライザちゃんが二頭身(多分シャールって名前)を慕ってこの森に探しに来たんだって。


気がつくと私は叫んじゃっていたんだよね、あらん限りの大声で。


「イライザちゃーん!シャール様はここだよおーっ」て。

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