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目の前にイケメン!

私、寝相が悪いのね。

だから寝ているとき、たまにベッドから落ちることがある。

いつもはラグを敷いてある床に。

だけど…今回は…水たまりに落ちた。


バシャッと音がして水に濡れた感覚を味わったとき、ヤバっと思った。

てっきりおねしょをしてしまったかと…

はずかしながら、小三までおねしょしてたんで、よく親に怒られていたからとっさにそう思っちゃったんだよね。

でも違った。ボーダーのパジャマのズボンを上から確かめたけど濡れてなかった。

濡れた感覚がするのは水たまりに突っ込んだ顔半分だけだった。




夢?

だよね?

私夢みてんだよね?

だって私の部屋にこんなに大きな水たまりがあるわけないもん。


いや、でもベッドから落ちる瞬間ハッとして目覚めた記憶がある。


あーでもやっぱ夢だよこりゃ。

目を開けた途端飛び込んできたのは森の風景だもん。


ん…でもこの森妙にリアル。

この木漏れ日の差し方とか木々の擦れる音とか…

ちょっとおとぎの国感あるけど、ちゃんと森林特有のフィトンチッドの匂いがするし…


えっと…

なんだなんだ?

私夢を見てるんじゃないとしたらここはどこ?

もしかして違う次元に迷い込んだ??

弟が読んでたライトノベルみたいに?

けけけ、まさかね?

だって私ベットから落ちただけだよ。


いや、考え事はとりあえずこの水溜りから顔を上げてからにしよう。


そう思って起き上がったら目の前に…すごくいい服着たイケメンが立っていた。メルヘンチックな森をバックに。




あ…あ…すごい美形!

年の頃は多分22、3

きれいな輪郭に整った眉。

凛々しい切れ長の目に通った鼻筋。それに髪型のスタイリングも完璧…

推定身長180くらい?


でもなぜ…


なぜ二頭身なのっ!体と顔の大きさ同じじゃんっ?!




「お前が…私の待ちわびていた女なのか…?」


そんなことを言いながらイケメン二頭身が私に近づいてきた。

うっ、そのバランスでよく歩けるなっ!


「わ、わ、わ、わ。それ以上は近づいて来ないでっ!

この世界の人はみんなそんな頭身なのっ!?」


私の質問にイケメン二頭身は苦渋の表情で答えた。


「いや、私だけだ。私はこの森の精霊に呪いをかけられて、こんな姿になってしまったのだ。お前ムカつくと言われて」


「ムカつく?あなた精霊に何をしたの?」


「何もしてない。ただ運良く遠縁にあたるのこの国の王に国を譲り受けただけだ。

私は隣の国の王の三男として生まれたので、ゆくゆくは臣下として兄に仕える予定だったのだが、子供のいないこの国の王に気に入られ、後継者として指名されたのだ。


普通のイケメンだった私がこんな姿に変わってしまったのは戴冠式の夜だった。


半年前、王が急に亡くなられたとの知らせを受け、大急ぎで私はこの国に駆けつけた。

前王の野辺送りをして一週間以内に新王は即位しなければならないというのがこの国の習わしだったため、私は重鎮たちとあわただしく即位の準備を進めた。


戴冠の儀式も無事に終え、祝いの宴も終盤にさしかったとき急に広間のドアが開き森の精霊が突然入って来て…」


お、ピンときたゾ。


「はは〜ん、さてはあなた、森の精霊に戴冠式の招待状を出し忘れましたね?」


「!!なぜわかる!」


「いや、鉄板ですから…

ふうん、でもそれくらいのことでそんなへんてこな姿にされちゃったんだ…

お気の毒に…」


「いや、精霊が怒ったのは招待状を出さなかったからではないらしい。

私という男の存在がすでにムカつくと言うのだ。

良い家系に容姿端麗で生まれて来て、性格もよく女性にモテ、さらに棚からぼた餅で国まで手に入れたその運の良さがズルいと…」


んー?事実を客観的に述べているだけなのかも知れないけど、この人の言うことところどころ引っかかるなぁ…


「精霊は私を呪いでこの姿に変えた後、もとの姿に戻してほしければ、性格の悪い女と結婚しろと言ってきた。


ここだけの話だがこの森の精霊というのは…女に振られたり失業したりコミュ力不足で仲間作りに失敗したりした末に世を儚んで森にこもった男たちの魂の集合体のようなものらしい。

噂では時空の壁を越えていろんな世界からこの森に集まってきているとか…


きっと精霊は私のような完璧な男が性格の悪い女と結婚して不幸になるのを見て溜飲を下したいのだろう…


性格の悪い女との結婚なんかまっぴらごめんだが、この姿のまま生きていくよりはましだと思って性格の悪い女を娶る決心をした」


あーやっぱこの人の台詞ちょいちょい痛いな…?


「精霊が性格の悪い女を森の中央の水溜りのところに届けてやると言って去ったので、私はそれ以来この付近でずっと待っていたのだ。性格の悪い女が現れるのを。

そうしたらさっき急にお前が降ってきた。


お前が森の精霊の用意した性格の悪い女なのだな?

確かに性格の悪そうな顔をしている…」


イケメン二頭身にそう言われた私は手を上げ待てのポーズをした。よく犬にお預けをさせる時のポーズね。


「えっと…ちょっと頭の中を整理させてもらってもいいかなぁ?」




ね、性格の悪い女って私のこと?確かに性格の悪そうな顔してるって失礼な。

ってかこのイケメン二頭身、諸事情により私と結婚する気満々なんだよね?

私ってこの人の嫁になるために森の精霊にこっちの世界に召喚されたの?

そういうストーリーなの?


いや、言っておくけど私そんなに性格悪くないよ!?

昨日も課長のコーヒーに雑巾の絞り汁入れようかと思ったけどギリギリで止めたし…


業者さんからと○やの高級羊羹を差し入れられたときは「私が切りまーす。あ、カナちゃんは座っていていいよー、請求書のチェックで忙しいでしょおー」とか言って自分の羊羹だけ大きく切ったりしたけどさ、それって性格が悪いってより食い意地が張ってるって感じだしねえ?


あと子供のころおねしょしちゃったとき自分の布団に弟転がしてきて弟のせいにしたこともあるけど…そのくらいふつーするよね?

姉なら。


わざわざ他の世界から連れて来られて罰ゲーム的に使われるほどの突出した性格の悪さではないと思う。

うん。


いろんなことに戸惑う私にイケメン二頭身は待ちきれないように言った。


「さあ森の精霊に選ばれし性格の悪い女よ、私のこの呪いを解いてくれ!」と。


えーっと…


「あの、おたくのお話だと私がおたくと結婚しないと呪いが解けないんだよね?」


「そうだ」


そう言って二頭身は近づいて小さな手を差し出してきたきた。


うわ、怖い怖い。

顔の大きさ90×90×90センチ。

いくらイケメンでもこんな化物みたいなのとは結婚できないよー!


ん?待てよ?私と結婚すればこの人呪いが解けて元に戻れるって言ってたよね。

と、言うことは私はふつーのイケメンと結婚生活が送れるわけだ?しかもこの人この国の王さま…と言うことは私はお妃さまになれるわけ?


わ、したら毎日の伝票の打ち込みに追われることもなく、派遣の若い女の子にだけデレデレする課長の嫌なら君は辞めてもいいんだよ的なオーラにムカつくこともなく、いい服着てうまいもん食って幸せに暮らせる?!


…なわけ無いか。


バカなこと考えずに元の世界に戻る方法を考えよう。

ベットから落ちるというしょぼいきっかけでこっちに来たんだからきっとしょぼいきっかけで帰れるに違いない。


そんなことを考えていたとき、どこからかヒソヒソと話し声が聞こえてきた。




「…ブスで…性格の悪い女にすればよかったかな…」


「ブス…が抜けてたな…ブスが…」


「空間のひずみに浮かんでた中ではこいつが一番性格悪そうだったからこの世界に引き入れたけど…」


「いや…よく見てみろよ…充分ブスじゃね?」


「まあ…確かに可愛くはないよな…」


「うひゃひゃ」




あれ?


誰かが誰かをディスってる…。

この深い森の水溜り付近には私とこのイケメン二頭身しかいないのに…


「ねえ、人の話し声しない?」と問いかけた私に二頭身は「?…いや、私には何も聞こえないが…」と答えた。


ううん、絶対近くで誰かが話してるよ。

私は声がする方をよーく目を凝らして見た。


そしたら木漏れ日の中、樫の木と樫の木の間に透明の水飴で作った何体もの人形が溶けて合体したような不気味な物体が現れた。


「ひいっ!誰!」


思わず叫んでしまう。


いや、話の流れ的にこいつらが森の精霊だろうな…


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