作戦案
独立諜報機関リインカーネーションの心臓部。
それは影騎士と精霊通信手をつなぐ精霊通信室の事である。
壁の一面には超大型魔導式黒板や、中型精霊式白板などの魔道具がすらりと並んでおり、本棚には各所の地図や機密情報が隙間なく収納されている。
「リインカーネーションの心臓部、精霊通信室へようこそ。歓迎するわ。リーゼロッテさん」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。アビゲイルさん」
ただにこやかに微笑むアビゲイルにビビりまくるリーゼロッテ。
まあ、あの拷問器具の数々を見れば怯えてしまっても仕方ないよ。同情する。
「さて、早速だけど先の不良共から得られた情報から話すわ。ちなみにあの子たちはすぐに情報を話してくれたわ。……もうちょっと楽しみたかったのに」
しょんぼりと肩を落とすアビゲイル。頼れる仲間だが俺も怖いと思う時がある。
「不良たちの証言によると、彼らを雇ったのは『ヘルメスの靴』の商任騎士で間違えないみたい。
彼らのうちの複数人が雇い主のローブに靴のマークがついていたと証言し、再現魔導でも確認したけれど確かに『ヘルメスの靴』のロゴだったわ。
残念ながら雇い主の目的までははっきりしなかったけれど、代わりに素晴らしい事が判明したわ。
雇い主の商任騎士は王都発の特急列車の乗車券を購入していたの。きっと砂漠都市ゴアに向かうつもりなのでしょう。
だって砂漠都市ゴアには『ヘルメスの靴』の傘下企業、ゴールデンエレクトロニクス社とその研究所があるもの。間違えないわ。
これが今回分かった情報。後の準備は一任するわ」
ふむ、今回分かった情報を整理して、今の現状を整理しよう。
今回の依頼者、リーゼロッテは『夕凪騎士団』、『ヘルメスの靴』。そして『ミリノ魔導学院』、三つの諜報機関に狙われているが、彼女の扱いは組織によって差が存在する。
今回の依頼内容はリーゼロッテの姉の救出。彼女の姉はどの組織に拘束されているかは定かではないが、各組織の行動から推察するに『ミリノ魔導学院』の可能性が一番高いと見られる。
しかし『ミリノ魔導学院』への潜入はリスクが高く、入念な準備が必要だ。
かといって各組織の出方を伺っていると取り返しがつかないになる恐れがある。とりあえず尻尾を見せた『ヘルメスの靴』を当たるとしよう。
「アビゲイル。早朝発の特急列車の予約と、ゴールデンエレクトロニクス社の偽造社員証の作成、今日中に頼めるか?」
「ええ、もちろん。ああ、あとせっかくゴアまで行くのだからついでに別件の暗殺対象の始末お願いね」
「GE社の魔生物工学のミスホワイトと同社製の傀儡人形だったか?」
「覚えていたの? 流石ね。詳細なデータは精霊回線に頒布しておくわ。目を通しておいて頂戴」
精霊回線を開くと今回の暗殺対象の詳細なデータが確認できた。
しかし今は先に”旅行”の準備を終えてしまおう。なに、セントラル鉄道に乗ったら風景でも眺めながら確認すればいい。時間はたっぷりある。
「リーゼロッテはここでアビゲイルと待っていてくれ。ここなら安心だ」
「えっ……。た、確かにそうだけど」
「なに。アビゲイルもいきなり依頼主を拷問にかけること無いさ。それにこの眼鏡型精霊通信具でこちらの様子も確認できる」
「でも……」
「大丈夫だ。俺の応援をしていてくれ。必ず姉さんを助けるから。誇り高き妖精族のリーゼロッテさんにお願い申し上げます」
「そうね。存分に力を発揮してきなさい。誇り高き妖精族のリゼとの約束なんだからね」
そうして俺とリーゼロッテは互いの小指を併せ、約束を確認した。
こういうのは死亡フラグの様に見受けられるかも知れないが、人間って言うのは死ねない理由を持つと死なないものなのだ。
これは影騎士シノブレイブの体験談でもあり勇者ドレッドノートの経験談でもあるのだから間違えない。
長椅子に体重を預けながら、そんな事をぼんやりと考えていると長い長い一日が幕を閉じた。




