タッグ
「スパイにルールなんてない、というかルールを恐れていては、何も行動できない。」「ルールはあります、あるはずですよ、暗黙のルールが存在するはずですよ。」タッグを組む相手の性格を見極めて、行動しなければ、例の資料は持ち出すことは、出来ない。しかもそれは、奪い合いなので武術も必要なのかもしれない。それを守る攻撃、守備、作戦を練って行動する。それを完璧にこなしてこそである。
「スパイとエージェント…。」どの時代にも彼らは存在していたであろう。しかし、存在はしたが存在は隠さなければならない。それは、どんな状況に置いてもだと言う。トロイの木馬、木でできた馬の中に人が隠れることができたと言う。「なるほど、しかし木馬の中に隠れることができても、大きさにもよるがバレるのではないか。」「ギリシア神話の装置ですから、試行錯誤の最中だったのではないか。」あくまで、情報を得るための任務である。このやり方では、情報を得るのは、困難ではないかと疑問を抱くが、情報よりも勝利の時代、問題は無かったのであろう。スパイは、正体を明かすことはない。それは、家族にでさえ嘘をつき、自分がスパイだとは明かすことはない。「動物でさえもスパイになることがあると言うが。」「まさかそんなことはないか…」
「コードネームは卑弥呼か…」卑弥呼には、スピリチュアルなパワーがあったとされている。しかし、それは本当なのかわからない。パソコンの画面には、でかでかと卑弥呼と書かれていた。「おい、柳田さんこれはどういうことだい。」最先端技術の情報を、盗みだそうとしている奴がいた。それが、卑弥呼だと言う。「スピリチュアルだか、なんだか知らねえがそんなパワーあるわけないだろ。」しかし、この情報は実際に盗まれていた。そのことにいち早く気付いたのが、桐崎である。「柳田さん何か知らないのかい。」「知るわけないだろが、だいたいお前が言うまで気付いてもいなかったからな、桐崎お前はどうなんだ、いち早く気付いたんだろ、怪しくないか。」と言って笑い出した。その時だ、ドアが閉まる音がした。「誰かいるのか」返事はない。現在は、午前1時、この日仕事に出ていたのは、柳田と桐崎の二人しかいないはずだ。しかし、あきらかに誰かの気配を感じる。桐崎がデスクの引き出しを開ける。そこに入っていた資料がない。「盗まれたのか。」慌てる様子はなかった。ドアの方へ桐崎は向かった。「おいおい桐崎、犯人探しか、まあ気をつけな」と他人事のようだ。ドアを開け、暗い廊下を携帯のライトで進む。階段の方で音がした。階段の方へ桐崎は走った。階段を上がる音だ。「上に上がったか」しかし、この階段を上がると屋上だ。このビルは8階建てだ。屋上だと逃げ場はない。屋上へと繋がるドアを開けた。「資料を返してもらおうか」辺りを見渡すと、一人の男が立っていた。「情報は頂いたが、任務は達成50パーセントといったところか。」「何を言っているんだ。」「今この場にもう一人いるとしたら。」「だから、何を言って…。」その時後ろから誰かに後頭部を何かで叩かれる感覚がした。桐崎は気絶した。倒れる前に薄っすらと桐崎の前に男と女の姿が見えた。「卑弥呼か…。」
「桐崎さん、桐崎さん…。」真っ暗闇の中声が聞こえる。「桐崎さん、桐崎さん…。」透き通った声だけは確かにわかった。「ハッ、ここはいったいどこだ。」昨夜の出来事はあまり覚えていなかった。夢かと思うくらいだった。「昨夜あなたは、ここに運ばれてきたのです。」「だから、ここはどこだ。」「桐崎さん落ち着いてください、今から説明しますから。」なんだか信用はしたくない気持ちだった。「とりあえず、君は誰なんだ。」「私が運んできたのに、お礼の一言もないのですね、桐崎さん。」「ああ、そうだったのかそれは悪かった、ありがとう、でも君は誰で、いったい何のために私をここへ運んできたんだ。」「いえいえ、どういたしまして、とでも言っておきましょう、まずは、私の名前でしたね、本名は明かせませんが、コードネームがありますので、そちらで。」「コードネーム、でコードネームはいったい何なんだ。」「私のコードネームは、切り裂きジャック…。」「切り裂きジャック、ねぇ…、でここへ運んできたのには、何か理由があるのだろ、何の目的なんだいったい。」「桐崎さんあなたは、私とタッグを組んでいただきます。」「タッグだと、急に何を言い出すかと思ったら馬鹿にしているのか。」桐崎が鼻で笑おうとした瞬間だった。殺気におそわれた。「ああ、わかった、切り裂きジャック、あんたとタッグを組んでもいいが、いったい何の目的なんだ。」「それはよかったです、桐崎さんあなたは会社に勤めていましたよね。」「ああそうだとも、昨夜資料を取り返そうとして…。」「卑弥呼ですね。」「卑弥呼を知っているのか。」「ええ彼女は有名だ、それとあなたはもう会社にはいられない状況になっている。」「何でだ、どういうことだ、教えてくれ。」「桐崎さん、あなたは、卑弥呼が資料を盗んだと言っているが、卑弥呼のパワーによって、あなたが資料を盗み、逃走しているということに会社ではなっていました。」「馬鹿馬鹿しい、そんなことあるわけないだろ、昨夜の出来事だぞ。」「それが、そんなことがあり得るのです、なので私が片付けておきました。」「片付けるって、いったい、どういう意味だ。」「桐崎さん、これ以上は聞かない方が…、ただ柳田という男だけは、逃してしまいましたが…。」「まさか、まさかだよな、おい、切り裂きジャック、おい、何とか言え、おい。」「落ち着いてください、桐崎さん、だいたいのことは、ご想像がつくでしょう。」切り裂きジャックとは、1888年にイギリスで連続発生した、猟奇殺人事件、またその犯人の通称でその事件は、未解決事件であり、現在でも犯人の正体はわかっていない。「私の正体は、絶対に、わからない…。」
「足利氏よ…。」「誰だ、誰の声だ。」「誰か、だって、俺の名前はあかせないな。」「ハッ、夢か。」しかし、これは夢ではなかった。「住職さんも大変ですねぇ、こんな朝早くに起きて。」「お前、どこから入ってきた。」「裏口が開いていたぜ、そこから入ったんだかな。」「このくせ者が、覚悟せよ。」「おいおい、その武器を降ろせ、刀というものか、まあなんでもいいが、とりあえず降ろせ、俺はあんたと戦いにきたわけじゃないからな。」「と、申すとどういうことだ、まずは、名を名乗れ。」「あー、わかった、わかった、だが、名は名乗れないのだ、だから、コードネームを名乗っておく。」「コードネームだと…、まあいい、早く名を名乗れ。」凄く小さな声で、ジ、ル、ド、レと聞こえた。「あー、俺のことは、ジルとでも呼んでくれ。」「ジルか、それで、いったい何のようだと言うのだ。」「そりゃあ、用があったから来たんだが、要件がまだだったな。」「詳しく説明してもらおうか。」「いや、ちょっとまて、詳しく説明している間もなさそうだ、刀を借りるぞ。」「おい、待てどこへ行く気だ。」「外の様子だ、外部に漏れちゃ困るからな。」ジルは、走って外へ出ていった。そこには女が立っていた。ジルは刀を突き立てた。その瞬間、身動きが出来なくなった。「あなたは、生かしておくわ、あともうここには用はないわ、いくよ。」女が姿を消した。「ちっ、逃したか。」バタッ、という音が聞こえた。「足利氏か、おいどうした。」気絶しているだけのようだが、部屋がかなり散らかっている。この短時間で何が起きたんだというような荒れ散らかり方だった。後日、気付いたことに、巻物がすべて盗まれていたという。だとしたら、やはりやつは、卑弥呼に違いない。
「1ヶ月前から、なんやら情報漏洩が流行っているようだが、これはいったい誰の仕業でしょう。」しかし、公のニュースにはなっていないようだった。「それは、そうですとも、公のニュースになってしまっては困りますからね、すべてがパーになってしまいますから。」「それは、いったいどういうことなの。」「詳しくは言えませんが、いずれにしろ私たちにだけは、わかることでしょう。」「私たちか、まあそのことはいいわ。」この時は、大したことないと思っていたが、いずれ巻き込まれることは、とんでもないことであるとは、知りも知らなかった。「ねぇ、白い死神さん、このことは、誰にも言ってはいけないのよね、じゃあ、さっき言った私たちというのは、間違いじゃないの、そうでしょう。」「いや、間違いではありません、私たちは任務を遂行しにこの地に来たのですから、その任務を遂行している者は私以外にもいますから、つまりその任務を誰が成し遂げるかのサバイバルみたいなものです。」「へー、そうなんだ、ってサバイバルなの、それは大変じゃない。」白い死神は頷いた。「そうですね、あなたを、大変なことに巻き込んでしまいましたね。」その時、窓が開いて、ものすごい勢いで風が部屋の中に入ってきた。」「伏せてください、白石さん。」白い死神が、弓矢を1発窓の方に放った。窓は、その瞬間に閉まり、弓矢は窓に刺さり、窓ガラスにヒビが入った。「何するのよ、危ないわね。」「いよいよですね、今のが卑弥呼という者ですか、いいでしょう。」小声で何かを言っているのには気付いたが、触れないことにした。
「情報漏洩など我には関係がないことだ、なあ、だろうよジョーカー。」「そうですね、我々には関係がないことですね、あくまで我々の目的は、例の資料ではありませんからね、黒川さん。」黒川という男は、常にフードを被り、黒い色のマスクをしていた。「黒川さんは、もともとどこに勤めていたんでしたっけ。」「そんな、どうでもいいことを聞くのか、ジョーカー。」「いえいえ失礼しました、そうですね、そんなことは関係がないことですね…。」「なぁ、ジョーカー。」「どうしさたか、黒川さん。」「この世の中がスパイだらけだったらどうするよ。」「スパイだらけですか…、それはどういうことですかね。」「スパイのスパイ、それも家族や友人ももちろん、全員スパイだったらだ。」「回答にこまりますね…。」沈黙の時間があった。「すまん、すまんジョーカー、からかったわけではないが、少しジョーカーの意見が聞きたくてな。」「そうでしたか。」「で、あいつの情報はわかったのか。」「卑弥呼ですね、昨夜足利氏所有のお寺に現れたそうですね。」「そうか、だとするとジョーカー、次にあいつが現れるのは、あそこだと思わないか。」「ええ、黒川さんが思われている場所で、間違いないかと。」窓の外が一瞬、もの凄く光って見えた。「ちっ、少し遅かったか。」黒川は舌打ちをして紙をくしゃくしゃに丸めた。「黒川さん、何やっているのですが、その紙は…。」「ジョーカー、今の光が何を意味するのか、わからないのか。」「えっ、それはどういう意味ですか、その紙は卑弥呼が現れる場所を書き留めたもの、その紙をどうして、どうしてですか。」「今の光こそ、白い死神が放った弓矢だとすると、どうするよジョーカー…。」「…、つまり、また振り出しに戻るということ、ですか…。」「ああ、そうだ、しかし、まだ当てはある、心配するなジョーカー、我に不可能はないからな。」「しかし、私が知っている情報と黒川さんが知っている情報は常に共有しているはずです。」「ジョーカー、さっきの話を覚えているか。」「スパイのスパイですか。」「ああそうだ、お利口だジョーカー。」「…、そうでしたか、やはり黒川さん、あなたはどこまでも面白い人だ、期待させて頂きますよ。」「ああ、任せておけ、ジョーカー。」朝が近づいていた。「まずは、足利氏のいるお寺を攻めるかジョーカー。」「何か、考えがあるのですね、黒川さんわかりました、夜明けとともに攻め込みましょう、始まる前にね。」「そうだ、始まる前に、始まる前にだ。」嫌な予感がした気がした。
「足利氏、足利氏、何か物音がする、おい起きろ。」現在、午前4時30分。「どうした、ジル、何かあったか、昨夜の出来事で疲れているのだ。」「今回は、そうもいかないようだ、やつらは本気で潰しにくる。」「おいおい、どうしてだ、もう巻物は一つもここにはないのだぞ、あの女が盗んでいったのだろ。」「何を呑気なことを言っているんだ、だからこそ、用がないから消されるとしたら…。」「おい、それは本当の話なのか。」「それが理由かは、わからないが間違いなく、来る。」その時だった、お寺の扉がすべて開く音した。「おい、何事だ。」足利氏の前に、黒いスーツに黒いハットを被った男がいきなり現れた。「おまえが、わしを消しに来たのか。」「ごもっとも、よくご存知で。」「いかにも、ジョーカーといった佇まいの格好だな。」「ほー、そうですか。」その時だった、ジルがジョーカーの前に現れた。「はい、はいそこまでですよ。」「おまえは誰だ。」「俺の名はあかせないが、コイツとタッグを組んでることは、教えてやるよ、おまえは俺らを消しに来たんだろ、だったら逆にやってやるよ。」「お手柔らかにお願いしますよ。」ジョーカーは、銃を二丁持ち出した。ジルを目掛けて銃撃が響く。ジルは、素早く刀を振り下ろした。銃弾が真っ二つに割れた。「なかなか、やりますね。」足利氏は、お経を唱えだした。「おい、これは、いったい…。」ジョーカーが銃を手から落とし、痙攣しだした。「やるじゃねえか、足利氏よ。」「代々伝わる呪文のようなものよ、卑弥呼という女に盗まれた巻物の方が協力だがな。」「そうか。」「わしの力と一番マッチングしている巻物だけは盗まれていなかったからな、これを使う。」「それは助かるぜ。」ジョーカーを目掛けてジルが走り、刀を振り上げる。「終わりだ黒スーツさんよ。」「終わりは、逆だ。」足利氏とジルの額から血が流れ出た。「う、う、うう、これはいったいどういうことだ。」「助かった、黒川さん、遅いですよ。」「ジョーカーだけで、いけると思ったが正体がバレたら元も子もないからな。」「確かに私が殺されていたら、正体がバレていたでしょうね、そしてあなたもね。」「まあ、どうでもいい、とりあえず始まる前に間に合った、引き上げるぞジョーカー。」「そうですね、巻物だけ燃やしておきましょう。」
新たな、スパイのやり方があるとすれば、それは何を意味するのか。
スパイが、スパイを消したということは、公になることはなかった。しかし、代々伝わるお寺の住職が、殺されたというニュースは流れた。「とうとう始まったな。」始まる前に、呪文の使い手が消えるということはスパイにとって好都合だったらしい。「やつらは、何考えてるか、わからないわ。」「そうか、レディでもわからないか。」「たぶん、お寺を襲ったのは、ジョーカーだわ。」「どうしてそんなことが、わかるんだ。」「そんなの女の勘に決まっているじゃない。」「だいたい、マタハリだって言うのも、あくまでコードネームなんだから。」「でも、あんたも、スパイだろ、レディー。」「それは、そうだけど、逆に言わせてもらうと、あなたもスパイなのよ、ミスター羽田わかってるの。」「ああ、わかっいるとも、タッグを組んだのも、例の資料を手に入れるため。」「わかっているのね、それはよかったわ。」しかし、わからないことが多くあった。なぜ資料を手に入れるのか、そして、その資料を奪い合うために、争いが起きていること、だが世間はそんなことは、知らない。もしくは、知らなくてもいいことなのかもしれない。それを支配している女がいることも。知らない方がいいのかもしれない。スパイを支配するということは、本来スパイが任務を果たした時なのかもしれない。ということは支配するということは、間違っていないのかもしれない。むしろ仕事を与えているのかもしれない。スパイにスパイという仕事をだが。その女はまた現れることになるはずだ。
「桐崎さん、とうとう動き出したようですが、どういたしましょうか。」切り裂きジャックは、身震いしている様子だった。そこに、一通の電話のベルの音が鳴った。しかし、桐崎はその電話に出ないまま、ベルの音は鳴り止んだ。「桐崎さん、電話に出なくてもよかったのですか。」桐崎は、何かを考えているようだった。「そうだな、今電話に出るのは、危険な気がしたからな。」「それは、確かにそうですね、私たちを狙っている者からの電話かもしれませんからね、迂闊に出るわけにはいきませんね。」桐崎は、険しい顔で切り裂きジャックに言った。「だが、誘き寄せるという手もあるな…。」「しかし、それには準備がいる、それでさっきの電話は出なかった、というわけですね、その作戦乗りましょう。」「物分かりがいいな。」何も言わずに、切り裂きジャックは頷き何やら準備をやり出した。「銃使いだと、こちらが不利になる、切り裂きジャックは接近戦を得意としている。」「何か言いましたか、桐崎さん。」切り裂きジャックがナイフを研ぎながら言った。「いや、なんでもないが準備はできたか。」「はい、バッチリですね、そろそろですか。」資料を取り戻すことが、今回の任務である。あくまでそのために動いているのだ。電話のベルの音が静かな部屋に鳴り響いた。3コール目に電話の受話器を取った。「ピー、ピー、ピー…。」桐崎が、受話器を置こうとした時だった。「新たな、資料、が、作成されようと、して、いる…。」途切れ途切れの言葉の直後に電話は切れてしまった。その時、窓の隙間から弓矢が飛んできた。そして、その弓矢は電話を直撃した。電話が燃えて、そこに白い死神という文字が、炎で浮かびあがった。「大丈夫ですか、桐崎さん。」「ああ、大丈夫だ、奇襲か。」「いや、それは間違いかもしれませんね。」「誘き寄せるつもりが、逆にやられるとは、みっともない。」「いえ、桐崎さんあなたは一つ情報を得ました。」「どういうことだ、切り裂きジャック。」「私たちを狙っている者ですよ。」「そいつが、白い死神だというのか。」「まあ、そうですね、そうかもしれませんね。」早めに仕留めないとやられると、桐崎は瞬時に感じた。「今動くぞ、切り裂きジャック。」「正気ですか、相手は弓矢使いですよ、しかも近くにいるとは限らないですし、私たちの居場所は把握されている可能性がある。」「ああ、危険だということはわかっている、だが早く動かないと逆にやられてしまう。」「うーん、それもそうですね、あまり乗る気じゃないですが、一人ここで消しておくと後々楽になると考えて、ここは動くとしましょう、それでもちろん作戦はあるのでしょうね。」「ああ、もちろんだ俺がおとりになるよ。」尋常じゃない汗が流れていた。
「私たちの居場所は、むこうには、わからないはずです。」「本当に大丈夫なの、燃えてる弓矢なんて放っちゃって。」「大丈夫ですとも、むしろあえて燃やしているのですから。」「あえてねえ、まあわからないから、大丈夫なら大丈夫でいいんだけど。」白い死神は、ビルの屋上で桐崎たちを見張っていた。「桐崎に切り裂きジャック、来ましたね、あの程度の挑発に引っかかるとは、あまいですね、完全にこちらが有利なことも知らずに。」白石が望遠鏡を覗いた。「あれが資料のありかを知ってるやつなのね、なんだかパッとしないやつね。」「ハハハ、まあパッとはしないかもな。」「ここは、あなたに任せるわ。」「わかりました、私にお任せください。」白石は、屋上から姿を消した。白石は、もともと資料には興味がない。ただ巻き込まれただけなのだから。「あなたと、タッグを組めてよかったと思っていますよ。」白い死神は、監視を続けていた。桐崎は、辺りを気にしながら迷っていた。その時、白い死神はあることに気づいた。監視を続けていたが、切り裂きジャックの姿は無く、桐崎しかいないことに気がついたのであった。「切り裂きジャックがいない、やつはどこに行った、まあいい、一人の方が狙いやすいからな。」白い死神が弓矢を射る準備に入った、その時だった。「終わりですね。」切り裂きジャックが白い死神の後ろで、ナイフを突き立てていた。「うう、切り裂きジャック、桐崎あれはおとりでしたか。」「そうですね、やはりあなたは賢いですね、だから面倒だ。」切り裂きジャックは、白い死神の背中を一刺しした。「うう、切り裂きジャックよ、私を生かしておくのですか…。」切り裂きジャックは、無言だった。「一発でやれるところを知っているやつが、とどめを刺さないとは、なんかがあるにちがいないな…。」「白い死神、あなたは卑弥呼を知っていますね。」「ああ、知っているとも、あいつが資料を持っているんだからな。」「そうか、やはり知っていたか。」白石に虫の知らせの予感がしていた。「何かやばい予感がするわ。」白石は、ビルの屋上に向かって走った。「やるなら、早くやれよ、切り裂きジャック、もう私に興味はないだろよ。」「そうですね、そろそろ終わりにしたいところですが、私とタッグを組んでいる者が、あなたを生かしておくよう言っていますのでね、とどめは刺しません。」白い死神はチッと、舌打ちをした。「それは、残念だ、ゲフォゲフォ。」白い死神の口からは、血が出ていた。「あまり喋らない方が、いいですよ。」「それは、それは親切に…。」「誰か来ましたね。」切り裂きジャックは姿を消した。そこには、白石が立っていた。スパイの姿がバレて、生かされておく屈辱を白い死神は、味わっているのかもしれない。「危なかったですね、もう一人の女に姿がバレるところでした。」現在となっては、両者の正体は、両者にはわかっているのかもしれない。
その時期は、とうとうやってきた。「小野里の季節か…。」次のシーンの撮影は、後日連絡しますという連絡がメールで、届いていた。「おっと、いけねーなぁ、寝すぎたか。」台本はすでに貰っていたので、セリフを覚えることはできた。しかし、そんなことは彼には関係なかった。「スパイはどこに潜んでいるかわからないからな、厳重にいかんとな、痛い目をみてしまう。」着信の通知音が鳴った。メールの通知音だった。明日に都内近郊で、撮影があるとの内容だった。「少し、急かなぁ、まあ、しょうがないか。」この男の芸名は、ジャックと言った。すると突然、家のチャイムが鳴った。ピンポーンと、甲高い音だ。ジャックは、家の戸を開ける。そこに立っていたのは、ジャックのマーネージャーと名乗る者だった。わざわざジャック宅に足を運んで、詳細を教えに来てくれたみたいだ。「わざわざこんな早くにすいません、ありがとうこざいます。」「いえいえ、これが私の仕事ですからね、当然ですよ。」へー、と感心気味のジャックだったが、話しは突然始まった。「私が来たのにも、意味があるのです。」「それは、どういうことですか。」「はい、その意味とは、少し申しにくいのですが、昨夜に主演女優さんが行方不明になったと、連絡が入りまして。」「え、展開が急すぎて、理解が出来ないのですが、え、どういうことですか。」「えー、急な展開ですいません、私もまだそれくらいの情報しか掴んでないんです。」「えっ、でも主演女優さんって確か白石さんだよな。」「えー、その通りです。」「とりあえず、詳しくは、撮影現場でわかるかと思いますので。」「あの朝の満員電車に乗るのか、やだなぁ。」「その件でしたら、少し集合時間が遅くなったので少し遅らして出てください。」「おっ、それでもいいのですか。」「はい、大丈夫ですよ。」「じゃあ、お言葉に甘えて。」「はい、では私はこれで失礼いたしますね。」時間までは、まだある。ジャックは頭を抱えていた。急すぎるまさかの出来事は、初めてで、まだ理解しきれていなかった。この時ジャックはまだ、大変なことに巻き込まれることは、知らない。
ロヒンギャ…。ロヒンギャ…。ロヒ…。スヤスヤと眠りながら、寝言を言っていた。「おい、おい、起きろスーチー。」「むにゃ、むにゃ、どうしたのよ、うるさいわね。」「寝ている場合じゃない、あんたにあいに来た方だ。」コードネームをテレサと名乗った。こちらのスーチーもコードネームだ。そして、スーチーを起こした男のコードネームが、ムハンマドだ。「テレサさんだっけ、私に何の用件が、あってきたのですか。」「用件はただ一つだけです。」「それは、いったい何なのよ。」「あなたがたに、ある資料を持ち帰っていただきたいのです。」「その資料って、あの資料のことよね…。」「そうですね、例の資料を持ち帰っていただき、破棄していただきたい、そうすれば平和が訪れます。」「平和かぁ、でも平和、平和言いながら、まだ平和は来ていないじゃない。」「まあそれは仕方のないことです。」「仕方ないじゃ理由になってないじゃない、わからないわ。」「大丈夫です、必ず平和になりますから。」「まあ、カッとなるな、スーチー。」「ムハンマドは、なんかこう意見みたいなものはないの。」「私は、私で自由を求める。」「平和と自由ねぇ…。」「宗教の自由も平和に繋がらないと、一つ間違えると、今や危険ですからね。」「難しい世界ね、わかったわ、資料ね、資料を持ち帰ってこればいいのね。」「やらせていただくわ、とりあえず行くわよ、ムハンマド。」「おい、ちょっと待てスーチー、テレサさん、あんたの横にいるその女性は誰だよ。」「はい、今回の応援のため、協力を頼んだ方です。」「私たちの仲間ね、わかったわ、早く紹介しなさいよ。」「はい、今回もっとも鍵を握っているお方の、コードネームは…。」「卑弥呼です、どうぞよろしくお願いします。」「ああ、わかったわ、よろしくね、ムハンマドなんかあの人オーラが凄いわ、何者なの。」と小声で言った。「ああ、凄いオーラだが、何者かわかんねーな。」「では、私はこれで。」「テレサさん、ちょっと待って…。」テレサはその瞬間姿を消した。卑弥呼以外は、テレサの事は覚えていなかった。
「この仕事は、神田さんに任せて帰ろっと。」「わかりましたよ、やっておきますよ。」「おっ、やっぱり助かるね、では、ありがとうこざいます、お疲れ様でしたー。」同僚が出て行った。「はー…。」溜め息をついた。最近神田は仕事に追われる日々を過ごしていた。帰る時間も遅い。しかし、帰ってからもすることはたくさんあった。それは、情報収集だ。「おい、神田早く寝ないと、持たないぞ。」そう言ったのは、神田とタッグを組んだ、コードネーム天草と名乗る者だった。「おっと、今夜マタハリという怪しい女が現れるかもしれない。」「そんなの明日で、いいじゃんよわざわざ今日じゃなくても。」「いや、天草、日がないんだ。」「相手もスパイだ、危険だし、やっぱり明日でいいんじゃない。」「いや、今日やつを片付けておく。」「相手が誘っている可能性があるのに、まったく、作はあんの。」「とりあえず、争いは嫌いだ、話しをする。」「まじで言ってんのか。」「ああ、まじだ、協力者を作る。」「あなたは、馬鹿なのですかね、協力してくれるはずないでしょう、だって、相手も相手でスパイ、スパイなんですからね、その辺はわきまえてくださいよ、まったく。」「ああ、それはわかっている、すごく緊張しているよ、ただのゾクゾクじゃないことも。」「なんだそりゃ、好きにしてくれあんたのな。」あと5分で家を出る。そして、近くのビジネスホテルで待機する。作戦という作戦ではないことは百も承知だ。天草に言われたことも、当然理解している。まさにギャンブル、賭け事だということもな。生きるか死ぬかはすぐに決まることも。「来たぞ神田。」天草から神田に合図があった。マタハリがこちらのビジネスホテルに入ってきた。やはり来たかといった感じだった。マタハリに目が行っている間に、胸の辺りに痛みが走った。赤く濡れいた。血が飛び散ったのだ。「いつの間に…。」神田は、もう一刺しされた。「あなたは、マタハリを理解していないようだな。」「ぐっ、どういうことだ…。」「それは、あなたがたが私たちの情報収集していることは、バレバレだったということだ。」「ぐっ、やはり、甘かったかな。」「あー、甘すぎる、甘すぎるよ、スパイに対してかもしれないがな。」「あっ、それより、天草はどうした…。」「あー、あの付き人か、しかもタッグの名を明かすとは、やはりあんた甘すぎるよ、今頃マタハリにやられているはずだがな。」「確かにこっちはマタハリと知っていて、あなたは天草と知らなかったとはいえ…。」「まだ何か言いたいか、この状況であっても、協力するかと思ってんのか、笑わせるじゃあねぇか、ハッハッハ。」その時だった、外で悲鳴が、「キャー」と聞こえた。「この声は、まさかマタハリか、これは、やばいな。」すでに、天草は自害していたみたいだ。その時、切り裂きジャックにマタハリは刺された。羽田と神田は、弓矢で貫通していた。白い死神の仕業かと思わせる為の作戦だ。効率が良い方を取る桐崎らしい作戦だ。彼らの情報は、桐崎と切り裂きジャックの手に渡った。だが、今回も、資料に直接関係があるものではなかった。「残念だ、二人分だったが、これが確率か…。」「また転機があるはずだ、こういった、第三者が横取りするパターンは、な。」「桐崎さん、賢いですね、漁夫の利ですか。」事件はまた起きた。いや、起きてして、起きたのだ。
香りは、人を印象づける、そして時には、人を騙す事もある。香水の匂いがする。天草は、自害したらしいが、双子の弟のコードネーム四郎が情報を嗅ぎつけていた。田神と名乗る男とタッグを組んでいた。香水好きの男だ。多種多様の香水を場面場面で使い分けていた。そのこともあり、四郎も香水をつけられていた。「おいおい、匂いが強すぎないか。」「こんなもん、どうってことないぜ。」「そうか、匂いが強い気がするがな…。」「匂いが強いのは、しょうがない、多めにふってるからな、だが、場面場面に使い分けているから心配するな、大丈夫だ。」「まあ、そう言い切るならしょうがない、任せよう。」ここは、ある半グレたちのアジトだ。半グレの名は、一輝と呼ばれているみたいだ。コードネームかは、わからないが半グレにコードネームもスパイもないだろう。ただのたちの悪い奴らだ。まあ、一輝も一揆からきているのかもしれないが、そんなことは、どうでもいい。何か近くで爆発音が聞こえた。「爆弾か。」「静かに、不意打ちを狙うんだ。」「そうか、正面突破は、面倒だからなそうしよう。」四郎は持っていた手榴弾を半グレのアジトめがけて投げた。アジトに爆発音が響いた。「なんだ、どうした、誰だ。」アジトの半グレたちが騒がしい様子だ。運良く直撃者はいないようだ。田神は、持ち出した銃で、出てきた半グレを狙った。アジトの中にいる人数は、時間が時間だけに少ないようだった。「アジトの中に例の資料があるのか。」「情報ではそうなっているが、デマの可能性もあるから、こればっかりは実際に行って確認するしかない。」「そうか、まあ入らないと始まらないよな。」ある程度、田神と四郎は銃と手榴弾で、アジトを襲った後、少し時間を待った。「一輝の確認は出来たか。」「いや、いるかどうかわからんな。」「まあ、こういうこともよくあることだ。」慎重にアジトに近く。アジトの扉を少し開けて覗く。中には負傷者を含め数人といったところだ。田神が慎重に銃を構えた。そして、5秒後に銃で連射した。アジトは赤く染まっていた。その直後、田神と四郎の後頭部にもの凄い痛みが走った。一輝に金属バットで思い切り叩かれたのだ。「アジトが無茶苦茶じゃねぇか、どう落とし前つけてくれんだ、なあ聞いてんのか、なあ。」一輝は、田神の握っている銃を奪い、田神と四郎を撃った。「名前も知らねー、お前らに興味はねえ、消えな。」そして、一輝は田神と四郎のポケットをあさった。「こいつら、なんか他に手持ちはあるのか、それが落とし前だ。」四郎の左側のポケットに手を入れた瞬間だった。四郎が爆発して、一輝ごと吹き飛ばした。スパイは、何も情報を残して死ぬ訳にはいかないと言わんばかりの有り様が目の前で起こった。桐崎と切り裂きジャックは少し遅れて現場に到着した。「また、また桐崎さん、漁夫の利ですか、運がいいですね。」「ああ、本当に運がいい、ついてるよ、闘わずしてだからな。」「そうですね、あなたは何かついていますよ。」「無駄話は後だ、さっさと現場を調査して帰るぞ、何か騒がれたら面倒だからな、切り裂きジャック。」「それも、そうですね、例の資料が目的なだけですから。」隅々までアジトを探したが、例の資料は無かった。しかし、卑弥呼に関する情報が書かれたものが見つかった。「これは、いったい…。」次の目的地に急がなければ、資料を盗られる可能性がある。向かうしかない。また、犠牲者が出てしまった。特に今回の件で見つかった資料はないが有力な情報を見つけることができた。新たなスパイに資料を、狙われないよう早く見つけ出さないといけない。「切り裂きジャックよ、次に行くぞ。」「はい、見当はついています、では行きましょう。」二人は、次に向かったのであった。
例の資料の中には、国家機密のマイクロチップが埋め込まれているらしい。どうやって資料の中にマイクロチップを埋め込んだのかは、未だに不明だ。しかしながら、この情報が入り、逸早く知れたのはいいことだと思う。「なあ、柳田さん、あんたが資料の中に、マイクロチップを埋め込んだんちゃいますか。」「さあな、それはさておき本題に入ろう。」「ほんまでっかあ、教えてくれてもええやんか、まあしゃーないか、本題に入りましょか。」「マイクロチップのことなんだが、もしかすると桐崎にも漏れているかもしれないんだ。」「なんでやねん、あー、せやな、あんたら元同僚やんな。」「そうなんだ、元同僚なんだ、そこで協力を願いたいんだ。」「なんやで、そんなことかいな、報酬はあるんでっか。」「もちろんだ。」「もしかして、このマイクロチップが埋め込まれた、資料ごとが報酬とか、まあそれはないか。」「いや、それが今回の報酬だ。」「あんた、ほんまに言ってんのかいな。」柳田の目は本当だった。それよりも、柳田が例の資料が渡るのを、阻止したいのか、渡したいのかどちらなのかと思う、協力者だった。「ほんで、協力してほしい依頼は、何ですの。」「依頼の内容は、もちろん…。」ガチャと、扉が開く音がした。「ここにはもう、誰もいないか。」「そうですね、桐崎さんこれだけ探して居ないとなると、ここには居なさそうですね。」「なあ、ちょっとだけ、待ってくれ切り裂きジャック。」「どうか、されました。」「いや、なんでもない、気のせいだったか。」しかし、何かを感じた桐崎だった。バタンと、扉が閉まる音がした。今使っているスキルは、スパイにとっては、もっとも重要なスキル。息を潜めることだ。完全に姿を消し、桐崎と切り裂きジャックから正体をバレずに逃れたのであった。「おいおい、柳田さんよ、会わなくてよかったのか、あえて会っていらんな供述をすりゃあよかったのに。」「いや、そんなことはしれはならないな、君もスパイの端くれならわかるだろ。」「ハハハ、端くれとはな、よく言ってくれるじゃねぇか。」「なら、その実力見せてくれ。」「わかったよ、ミッション開始だな。」桐崎を見つけたのは、ほんの数分だ。その間に何をしようとしているかは、わかった。「破棄されてしまう、それだけは阻止しなければな。」桐崎は一歩足を止め、振り返って見た。「どうしました、桐崎さん。」「いや、何でもない、やはり気のせいではなさそうだ。」そのまま、後にすることにした。
「出会す、100パーセント出会す。」桐崎が、アジトから出てきた。「ほら、ビンゴ。」「どうするのですか、ムハンマド。」「こうするんだよ。」と言ってから、催眠弾を桐崎目掛けて投げた。「マズイ、マズイよムハンマド。」と同時だった。「そこか、居場所はわかりましたよ、どこぞのスパイかまでは知らないですが。」次の瞬間だった。暗闇の中だったが、照らされた街灯が赤色に染まっていた。「だから、マズイと言ったでしょ。」「…。」ムハンマドからの返事はない。「仕方ないですね、無線連絡です。」しかし、無線の電波がわるい。「どうしてですか、こんな時に限って…。」「どうしてでしょうね、そんなに連絡をとりたい相手がいるんですか。」次の瞬間、そこからは聞いたことのないような悲鳴が、鳴り響いた。「あいつらは、切り裂きジャック。」「ええ、処理しておきました、それより催眠は大丈夫でしたか。」「ああ、なんとかな。」命中率が低く、助かったようだ。「あらあら、ダメですよ、乱暴は。」「誰ですか。」暗闇から静かに聞こえてくる。「二人は、どうされましたか。」「二人、もしかしてお前が二人を動かしていたのか、ということはあの二人へ…。」「スパイではないということですね、桐崎さん。」「ああ、そうみたいだな、気をつけろ、何か来る気がするぞ。」「お見事ですね、その通りですよ、勘が鋭いですね、いいことですよ。」「もちろんですよ、誰だと思っているのですか。」すると、ものすごい勢いで燃えた弓矢が飛んできた。「危ないですね、白い死神ですか。」弓矢が、狙っているのは、あきらかに卑弥呼の方だった。燃えた弓矢は、辺りを真っ赤に染めた。「ここは、いったん離れたほうがいいですね。」「そうだな、味方とは限らないからな、ぶがわるい。」「引き上げましょう。」「引き上げるのですか、卑怯ですね。」「その程度の挑発には乗らないですよ。」「そうですか、それは残念ですね。」燃えた弓矢は、桐崎たちの頭上を越えて、また飛んできた。また、数秒後何発か、燃えた弓矢が放たれていた。「どういうことだ。」「彼らにも何か、作があるのでしょう。」「だと、いいがな、あんなの居場所を…。」「誘っているのかも知れませんが、乗りませんね。」振り返ると、そこは炎の海になっていた。
炎の海は、まぼろしだったのか。桐崎は自宅で横になって、眠っていた。あの出来事は、夢だったのか。いや、夢ではない気がする。催眠弾が少し効いていたみたいだった。「あの出来事は、夢ではないですが、覚えていないのでしたら、それはそれで何よりかもしれませんね。」「それは、どういうことだ。」「まあ、それはさておきですね…。」
炎の海から、一人の女性が姿を現した。しかも、火傷ひとつおっていない、無傷であった。「白い死神、許しませんよ。」「おい、白石来るぞ。」「来るって何が来るのよ、もうやめてよ、こんなこと。」「待ったかい、白い死神。」「ああ、遅すぎて、待ちくたびれちまったよ。」至近距離から、弓矢をかまえて、卑弥呼に放った。しかし、放たれた弓矢は、手でキャッチされ、へし折られてしまった。「じゃあ、この弓矢はどうだ。」次に、燃えた弓矢を、卑弥呼の方に勢いよく放った。「何度やっても同じですよ、弓矢がもったいないくらいです。」「そんなことは、関係ねぇ、お前をやるまでな。」「それは、困りましたね、私は情報だけが目的なのですが…。」「だったら、こんなことやめてよ、お願いだから。」「じゃあ、早くケリをつけようぜ、卑弥呼…。」「フフフ、やはり知っていたか、まあ仕方がないですね、白石さんがいるのですからね、逆に知らないと怖いくらいですね。」「グチグチうるせえな、行くぞ。」燃えた弓矢を、数本放った後に、何か丸い塊を宙に投げた。その丸い塊を目掛けて、弓矢を一本放った。「マズイですね。」卑弥呼は、白石を抱き抱えた。「ちょっと、何するのよ、離してよ。」「ここは、危険です、テレサ様。」「何か勘違いしてない、ちょっと。」「勘違いはしていません、それよりまずは、命を率先しましょう。」卑弥呼は、窓を突き破り、外に出た。「白い死神、彼は、今は気が狂っている。」「えっ、そんな。」「あの広さしかない場所で、あれを撃ち抜くのは、まさに自爆行為です。」「仕方なかったんじゃない。」「あなたの言う通り、仕方なかった、勝てないとわかった瞬間に彼は自爆した、でもそれが狙いだった、テレサ様。」「だから、何回言ったら、わかるのよ、私は白石、白石よ、覚えてよね。」「いや、それが与えられたコードネームで、記憶を消されていたとしたら、どうしますか。」「あなた、私を馬鹿にしてるの、それとも前世の話しのこと、ねえ、どっちなのよ。」「フフフ、混乱させてしまい、すいませんね、少し時間をください、数秒で構いません、ハッ。」卑弥呼は、白石に何かをかけたようだ。「暗示のようなものです。」白石の頭は、一緒真っ白になった気がした。
「白い死神が、死んだだと、どういうことだ、切り裂きジャック。」「桐崎さん、落ち着いてください、仕方がないことです、あれだけ弱っていたのですから、それも時間の問題だったのですから。」桐崎の自宅に盗聴器が、仕掛けられていた。「白い死神が死んだのだとよ、ジョーカー。」「そうみたいですね、黒川さん、でも我々には関係ないことだ、むしろ好都合と言ったとこですね。」「おい、ジョーカー、声が入ってこないぞ。」「盗聴器、壊されましたね。」切り裂きジャックが、盗聴器に気づき破壊した。「危なかったですね、桐崎さん、情報がダダ漏れになるところでしたね。」「ああ、しかし、ここ最近は家に帰って来てなかったことが幸いした、ありがとう切り裂きジャック。」「いえいえ、スパイとして当然のことをしたまでですよ。」黒川は、声が入ってこないのに対して、少しイライラしていた。「黒川さん、まあそんなにイライラしないでください。」「ああ、わかっている、イライラはしていない。」「いや、黒川さんやっぱり側から見たら、イライラしているように見えます。」「口を慎めよ、ジョーカー…。」「はい、わかりました、すいませんね黒川さん、やはりあなたは、どこまでも面白い方ですね。」「聞こえなかったのか、ジョーカー、口を慎めとな。」「聞こえていますよ、黒川さん。」あなたを、裏切ることはない。「行くのでしょ、黒川さん。」「ああ、もちろんな。」桐崎は、依然働いていた会社に向かった。桐崎は、調査したいことがあった。そう、あの日のことだ。あの日の倒れるまでの記憶では、あの女は、間違いなく卑弥呼と呼ばれているやつだ。しかし、あの男の名は、わからないのであった。あくまでも、名前と言ってもコードネームになるが。「おい、お前が桐崎か。」「そういうお前は誰だ。」「先に名乗ったほうがいいのか、俺は黒川だ。」「桐崎さん、気をつけてください、奴もスパイの匂いがする、いや、間違いなくスパイかと思われます。」切り裂きジャックは、影に身を隠していた。黒川の横にもう一人、背丈の大きな男が姿を現したのだった。「黒川と言ったな、そいつは、誰だ。」「ああ、俺のツレの…。」すると、ジョーカーは銃を構えて、桐崎の足を目掛けて撃った。銃弾にナイフが辺り幸いにも、足に命中せずにすんだ。「チッ、はずしたか、それより出てこいよ、ナイフを投げた奴。」「私のことですか。」切り裂きジャックがビルの陰から出てきた。「なあ、お前何邪魔してくれているん…。」ナイフがいきなりジョーカーの顔面に飛んできた。避けたつもりだったが、頬をかすった。「チッ、血か、痛いじゃねえかよ、なあ。」「となりを、見てください。」「あー、なんだ、黒川さん…。」黒川の胸なナイフが刺さっていた。「いつの間に刺した。」「さっき投げたナイフじゃないかな。」「って、お前、桐崎いつの間に…。」桐崎は、ジョーカーの後ろにまわりこんで、ナイフを突き立てていた。「巻物を燃やしたんだってな、あの情報量の多いな…。」「燃やしたとしたら、どうした…。」「お前に、要はないと言うことだ、それと早くお前らを片付けて、調査しなきゃいけないことがあるんでな。」桐崎がジョーカーを刺すと同時くらいに、ジョーカーは会社に向かって、発砲した。「マズイぞ、切り裂きジャック…。」「そうですね、またマズイ展開ですね。」「こういうことは、スパイには付きものかもしれないな。」「まあ、ですね、そういうことかめしれませんね、とりあえず早く引き上げましょう。」「そうだな切り裂きジャック、言う通りだ。」桐崎たちは、また会社を前にして、引き上げた。「残る情報は、ここと…。」「あとは、あそこですね、早く急ぎましょう。」足取りが着く前に任務を遂行しなければ、意味がなかった。
「私が、テレサと言うことは、なんとなくだけど、理解したわ、でもなんでこんな争いをしているの、たかが資料なのよね。」「えー、それはおっしゃる通りですが、テレサ様、しかしこの資料が世界の平和への方向を決めるのです。」「そこなのよね、なんか世界の平和とか言われるとなんか、しっくりこないわ。」「しっくりこないことは、仕方がないのかもしれませんが…。」「とりあえず、見つけだすのは、柳田という男ね。」白石の頭の中では、完全に白い死神の記憶は、きれいに消えていた。「そうなのです、よくご存知でございます、柳田という男です。」「何か、ピンとくるというか、どこかで聞いたことがあるのよね、どこかというのは、忘れたけど。」白石は、女優業をする前に、桐崎と柳田がいる会社で働いていたことがあった。しかし、その会社で働いていた記憶は、無くなっていた。「柳田は、あそこにいるんじゃないかしら。」「どこでございますか、テレサ様。」「まあ、付いてきてよ。」「わかりましたが、警戒して行動するように、してください、私にも守れきれないことは、たくさんありますから。」「はい、はい、わかってるって、たしかジャックとか言った芸名で活動している子の、マネージャーの名前が、たしか柳田だったはずだわ。」「そうなんですか。」「撮影現場は、たしか…。」「撮影現場に行けばいいんですね。」透視能力を発動した、卑弥呼であった。「テレサ様、柳田が見えました。」「目的地はわかったのね、じゃあさっそく向かいましょう。」柳田は、その頃都内のとある公園のベンチに座っていた。卑弥呼は、ベンチに座っている柳田を見つけた。「テレサ様、柳田がいましたよ。」柳田も卑弥呼に気がついた。柳田は、辺りをものすごく警戒している様子だった。白石は、柳田を陰から観察していた。「あれ、切り裂きジャックがいないな、どこ行ったんだ。」桐崎は、辺りを探したがそこに切り裂きジャックの姿は、なかった。その頃、切り裂きジャックは、卑弥呼の近くにいた。明らかにチャンスを伺っていた。桐崎の頭の中に、ふと何かが浮かんだ。ある景色が浮かんだ。それが何を意味するかは、わからなかった。一瞬、切り裂きジャックの姿が浮かんだ。「あっ、あそこだ、あの公園だ、何か胸騒ぎがする、向かわないと。」何かの衝動に駆られた桐崎は、とある公園に向かって走った。
柳田は、ジャックを待っているようだった。桐崎は、とある公園に向かって走っている。切り裂きジャックは静かに、陰を潜めている。卑弥呼は、透視能力でこちらに向かって走ってきている、桐崎の姿を捉えていた。「そろそろ奴がきます。」「奴って誰よ。」「桐崎という男です。」「桐崎…。」柳田のもとに、ジャックらしき人物が、近づいていた。切り裂きジャックは、卑弥呼が柳田の方に気がいっていることを見抜いていた。柳田は、ジャックらしき人物に、資料を渡しているように見えた。「あなたが、柳田ね。」白石が話しかけた。「白石さん、あなた行方不明のはずだったんじゃあ…。」「やはり、それもあなたの作戦だったのですね、柳田。」「あー、やはりバレていたか、例の資料のこと…。」「あともうひとつ、マイクロチップのこともですがね。」切り裂きジャックが姿を現した。「あなたが、ジャックですか、偽物はいらないのですが、いかがでしょう。」そこに、桐崎が到着した。「ハァ、ハァ、ハァ、おい何やら騒がしいじゃあねえか、切り裂きジャック。」かなり、桐崎は息を切らして言った。「おお、桐崎か、久しぶりだな、だがもう終わりだ。」「や、柳田さんか、お久しぶりですが、何をやっているのですか。」「例の資料の件を、覚えているか。」「もちろん覚えていますとも、さっきまで、会社の中を調査していましたからね、それでわかったんです、柳田さんと、あともう一人の男が関与していることが…。」「持ち出したということの件だな。」「そう、最先端の技術を持ち出し、何を企んでいたかは、わからないが、そのマイクロチップに入っている情報は、核、核の兵器…。」「だとしたら、どうした。」「そのことを隠し、卑弥呼が核を狙っていると嘘をついた、しかしそれは間違いだった、卑弥呼は平和を願っていた、そして、柳田さん、あんたが本当の悪だ。」「そんなこと言ったら、お前も悪だがな、スパイどおしの争いに関しては、俺よりもお前のほうが悪だ。」「そんなことは、どうでもいいわ、早く資料を渡しなさい。」「…。」「ねえ、聞いているの…。」「あー、聞いているともよ、なあ、最後にひとつ聞かしてくれ…。」「最後、柳田、あんた何言ってんのよ。」「なあ、平和とは、なんだ、なあ、どういう意味が、本当の平和なんだ、そして何が悪なんだろな、平和のためなら、悪は、許されるのか…。」「そんなの、考えなさいよ、許されるわけが…。」「でも、今回は、どうだ…。」「それは…。」「テレサ様、相手にする必要ありませんよ、それより資料を渡しなさい。」「資料は、ない、なぁ、ジャック。」「はい、ありませんよ、これは台本ですから。」「じゃあ資料は、どこに…。」「まあ、落ち着けよ桐崎、お前、もう一人の男を見たんじゃあねえか、それはそこの女と現れたが、そいつは知らないはずだぜ、現れたタイミングと、場所がその女の死角だ。」切り裂きジャックが何かの異変に気付き叫んでだ。「逃げろ、逃げるんだ。」電子音のかすかな音に気がついたのだが。「こんなに小さい音に、気がつくとは、さすがだな、しかし、もう遅い、桐崎ジャック。」「えっ、どういうこと。」「ジャックは、人型の自爆ロボットっていうことだ、それが資料の中身の一部だ、あとの一部には、国家機密のマイクロチップを埋め込んだ資料があるが、それは、ある男が持っている…。」次の瞬間、ピーっと鳴って、ジャックが爆破した。「半径何メートルを吹き飛ばしたのだろうか、あれは。」ある男が遠くから、呟いた。後日この爆破事件は、ニュースになった。一週間ほど、このニュースで持ちきりだったが、周りは静かだった。そして、今日もどこかで生きているのだと気付く。静かにどこかに潜んでいるのだと気付く。だって、騒がないなんてありえないくらいの大きな事件のはずだった。何かの意図が働いたに違いない。静かに幕を閉じたようだった。例の資料は、静かに次のタイミングを待っていた。
その後の、争いの事を知る者は。また新たなスパイたちが、もうすでに活動しているのかもしれない。静かに動いて見える世の中だが、静かな事ほど意味があるのかもしれない。