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I believe you  作者: 希流優姫
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I believe you

「これで入校式は終了です。」

掛け声と共に教室にいた人が各々片付けを済ませ教室を後にする。

今日は自動車学校の入校式。

健気に頑張ったバイト代でやっとこの日を迎える事が出来た。

後は、いかに補習授業を受けずに免許を取得する事が出来るかが問題だ。

教室を後にし資料に目を通しながら廊下を曲がろうとした時、曲がって来た人とぶつかってしまった。

「すみません」

瀬尾幸司せおこうじくん。これから頑張って!」

ぶつかった相手はにっこりと笑った。

整った綺麗な容姿から放たれた笑顔に思わず胸が跳ね上がる。

「・・・どうして名前・・・?」

「ハハハ・・・そこに書いてあるから。」

彼が指を指した方に視線を落とすと資料の入ってた封筒にでかでかと自分の名前が記されていた。

じゃぁ・・・と、軽く手を挙げて彼は自分が通って来た廊下を歩いて行った。


それが最初の彼との出会いだった。






「何聞いてんだよ!!!もっと真ん中走れってさっきから言ってるだろう!!ほらっ!又左に寄りすぎだっ!!!」

 俺は慌ててハンドルを右に傾ける。

今日で二回目の教習。緊張して運転しているせいもあり上手く教官の支持通り運転する事が出来ない。

しかも緊張している上に初めからずっとこの調子で怒られっぱなしで完全に委縮して全然自分のペースに持っていく事が出来なかった。

 一回目の教習は半分以上は車の構造などの説明であまり運転はしていないし、『今日は馴らしみたいなもんだから』と、気軽に運転させてもらえたのだが。

今日の教官は相当俺にきつく当たってくる。

皆に対してこんな態度なのか、俺だけにこんな態度なのかは明らかでは無いが、担当がこの先生に当たってしまったら俺は多分免許を取るまでに相当な時間を費やす事になりそうだ。

それだけは避けたいな・・・。

「そろそろ元の場所に戻れ。時間だ。」

散々悪態を付かれた教習だった。

「ありがとうございました。」

最悪だと思いながらも礼儀は忘れずあいさつをして車を降りた。

 近くの椅子に座り返された原簿に目を落とす。

「はぁーー」

俺は思いっきりため息を漏らす。

今日やった項目は次に又やる事になりそうだ。

「担当早く決まらないかな・・・」

思わずぼそりと呟く。

「担当まだ決まってないんだね。」

ただの呟きに答えが返って来るとは思いもよらず、びっくりして顔を上げるとそこには綺麗な容姿に笑顔を浮かべた彼が立っていた。

そう・・・入校式にぶつかった彼。

白いワイシャツに紺のパンツ姿。教官の制服。

彼はここの教官だった。

「なんだか浮かない顔だね。その調子だと結構しぼられたかな?」

そう言いながら空いている隣の椅子に座る。

「あの・・・結構悪態つかれたんですけど、教官って皆そんな感じなんですか?勿論俺の運転が酷いせいなんですけど・・・」

すると彼は俺の手から原簿を抜き取り中を開く。

「ハハハ・・・成程ね。」

「・・・???・・・」

俺には彼の言おうとする事がわからなかった。

「まぁ~そう落ち込む事無いよ。まだ二回目だろう。皆が皆そんな感じでは無いし。で、担当はまだ決まって無いんだろう?」

彼は柔らかい笑顔で俺を励ましてくれる。

「担当はまだです。多分来週には決まると思うと今日事務所の人に言われました。」

俺は苦笑まじりに答えると原簿を教官から受け取る。

「担当決まるまでは一日一回程度にしといた方が良いかな。たまに空いていると連ちゃんで時間入れたりする人もいるけどあまりお勧めはしないかな。」

そう言い彼は立ち上がりもう一度俺に笑顔を見せた。

その笑顔に又俺は胸が鳴る。

男の人なのに本当に綺麗な笑顔。

思わず見とれてしまう。

「これから学科かな?俺もそろそろ行かないと・・・頑張って」

そう言って俺の肩をポンポンと二回叩いて彼はその場から立ち去った。

「あ・・・名前・・・」

折角励ましてくれた教官の名前を俺はまだ知らなかった。





 前回のトラウマと彼のアドバイスを聞き入れて俺は暫く教習を受ける事を避けていた。

自動車学校には学科を受けに足を運んでいたのだが。

そして何気に彼の姿を探してしまう自分が居た。

しかし流石容姿端麗。あまり知らない俺の事を気に掛けて声を掛けてくれるぐらいに優しい彼。

いつも若い女の子が彼に入れ替わり立ち替わり声を掛けている。

煩わしい表情一つせずいつも丁寧に笑顔で相手をしていた。

モテるのも当たり前だよな・・・。


「あっ!瀬尾くん!!ちょっといいかしら。」

事務所から事務員さんが声を掛けて来たので俺は足を運ぶ。

「こんにちは。どうしたんですか?」

「担当教官決まったから。今、原簿持ってる?」

「はい。」

俺は鞄の中から原簿を取り出し彼女に渡すと事務所の奥に行きページを開いて印鑑を押して戻って来た。

「担当決めるのにちょっと揉めてたみたいだけど無事決まって良かったわね。」

少し小声で彼女は俺に伝える。

「揉めたって・・・」

俺は眉をひそめる。

「担当本当は春田教官だったのを無理やり佐藤教官が割って入ったって。しかも佐藤教官、担当枠に余裕ないのにかなり強引だったらしいわよ。」

佐藤教官って・・・?ろくに教官の名前を憶えていない俺には誰だか分らなかったが、心底胸を撫で下ろしたのは間違いない。何故なら春田教官は二回目の教習で悪態ばかりつかれた教官だったからだ。

「佐藤教官って誰ですか?」

彼女は目を丸くして「知らないの?」とびっくりした顔をしている。

「はぁ・・・教習結局まだ二回しか受けてなくて・・・」

「それでもあのモテ男を知らないなんてって・・まぁ男の子だから男には興味ないかな?」

フフフと笑いながら彼女が言った。

あのモテ男・・・って・・・

「何となく分かりました・・・。」

モテ男ってきっと彼の事だろう。

あんなに目立っていつも女性に囲まれているのだから。

でもどうして彼が俺の担当をそんなに強引に引き受けてくれたのだろうか。

あの日の落ち込みよう・・・俺そんなに酷かったのかな・・・

でも彼にしてみれば俺なんてただの生徒の一人でしかないのに。

でもそんな彼に今は凄く感謝している自分がいる。

多分春田教官に担当がそのまま決まっていたら俺の車校生活は絶望的だったに違いない。

「あっ!この事は内密にね!私首になりたくないから。」

てへっと彼女は笑って次の教習の予約の手続きも済ませてくれた。


 佐藤教官と一言でも話せたらと思い姿を探すが今は教習時間でもあり姿は見当たらなかった。

次の教習で必ず会えるのにこの感謝の気持ちを少しでも伝えたいと思う気持ちが強かった。

教習時間が終わるまで三十分近くあるが自習室で学科の勉強でもしながら時間を潰す事にした。

 自習室には過去問が置いてあるのでそれを手に目を通すが、内容はさっぱり頭には入って来なかった。

何故なら彼の事が気になって仕方なかったからだ。

たった二度しか話した事のない彼に俺はかなり心を奪われていた。

相手は男・・・

ブンブンと頭を振る。

そう恋愛感情とかそういう事ではきっとない。

俺は今の今まで男を好きになったことなど勿論ない。

容姿端麗。綺麗な笑顔。優しい気遣い。

男として完璧・・・。

性格は知らないのでなんとも言えないがこれまでの俺のデーターからすれば格好いい大人の男。

俺はきっと彼に憧れているのだ。

決して恋愛感情ではなく、憧れ・・・。

そう自分に言い聞かせる。

大体まだ二回しか会話も交わしていない。

そのうち初めての時なんか会話と言う会話ではなかったのだから。

「好きになる訳ないだろう・・・」

誰に否定する訳でもなく呟いた。

幸いこの部屋には今のところ自分以外誰もいなかった。


「キーンコーンカーンコーン・・・」

終了のチャイムが鳴り響く。

今まで閑散としていたロビーが教習を終えた生徒や学科を終えた生徒で騒がしくなった。

俺は自主室から出て事務所を覗くが彼の姿はまだ見えなかった。

教習車が止まっている辺りを見ると数人の女の子に囲まれた彼の姿を発見した。

声を掛けたい・・・

でも俺にはそんな勇気がなかった。

暫く離れた所でちらちらと、見ていたが女の子達は、はける様子はなかった。

・・・今日はやっぱり諦めよう・・・。

そう思った時彼が俺に気付いたかこっちに手を振っている。

俺はそれに気付いて軽く会釈した。

彼は女の子達に手を振って俺の所に駆け寄って来た。

「こんにちは。」

いつもの綺麗な笑顔。

「こんにちは。あの・・・」

「担当決まったって聞いた?!」

彼は嬉しそうに言葉にした。

「ありがとうございます。さっき佐藤教官に決まったと事務所の人に聞きました。」

俺は頭を下げる。

「あっ!俺の名前初めて言ってくれた!佐藤拓海さとうたくみだ。よろしく。」

フルネームでの自己紹介をしてくれて手を差し出された。

「こちらこそよろしくお願いします。」

そう言って差し出された手を軽く握った。

笑顔と一緒で暖かい手・・・。

「あの・・・担当強引に変わってくれたって聞いて・・・ありがとうございます。」

周りに聞こえないよう小声でお礼を口にした。

「参ったなぁ~そんな事まで聞いちゃったんだ・・・」

苦笑いを浮かべる彼。

「俺、感謝してます!!」

「でもどうする?俺もめっちゃ怖いかもよっ!」

「そんな~でも大丈夫です。」

佐藤教官となら・・・

「予約入れた?」

「はい。明日の17時です。」

「そうか。明日楽しみにしておくよ。」

彼はそう言い事務所に戻って行った。



 翌日。

教授の話は上の空。

俺は教室の窓の外を呆然と眺めいつからか彼の顔、そう佐藤拓海教官の事を思い浮かべていた。

初めての彼の教習。二人で何を話せばいいのか。

違う意味で緊張しそうだな。

でも早く夕方にならないかちょっと、いや、かなり楽しみだったりする。

俺は、もっと彼の事が知りたくなっていた。

「よう!幸司!何そんな阿保顔あほづらして何考えてんだよ。エロい事でも妄想してたな」

ニタニタ笑いながら友人の間宮圭太まみやけいたが話し掛けて来た。

辺りを見るといつの間にか授業は終わっていた。

「バーカ。お前じゃないんだから変な妄想なんかするかっ!!」

変な妄想・・・。エロい事は考えていないがあながち外れてもいないかも・・・。

「学食行こうぜ!」

「ああ・・・」

俺は形だけ机に出された教科書を鞄に突っ込み立ち上がり圭太と学食へと足を運んだ。


「ところで車校はどうなんだ?」

A定食のコロッケを突っつきながら圭太は口にした。

「学科は結構受けたけど教習は今日で三回目かな」

「まだ二回しか乗って無いって事?」

ちょっと驚いたように圭太は顔を上げた。

「やっと前回担当が決まったんだよ。二回目の教官が最悪でちょっと乗るのためらってね。」

「そうなんだ」

圭太はそれ以上は突っ込んで来なかった。

それから他愛もない会話で圭太と時間を過ごした。

圭太は大学入ってからの付き合いだが気の合う友人の一人だった。

 「じゃぁ今日も車校頑張れや!俺今からバイトあるからお先!」

綺麗に食べつくしたお皿の乗ったトレイを抱えて圭太が席を立つ。

「おう!免許取ったらお前の車運転させろよな!」

冗談を口にする。

「嫌なこった!お前に車貸したらボコボコになって返ってきそうじゃん!」

「ふざけんなぁ~!」

俺は笑いながら拳を振り上げる。

「それに、お前は俺の助手席に乗ってればいいのっ!・・・じゃぁなっ!!」

そう言い残し圭太は学食を後にした。

あいつ、ふざけやがって。

「なんだよ助手席って・・・」

俺はお前の彼女かよっ!!

思わず心の中で突っ込んで立ち上がり学食を後にした。















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