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幼稚園年長篇 その2  あのカレーがとうしても食べたかった

午後12時をまわり、昼ご飯時を迎えた園内では園児たちがごった返していた。

この日は週二回目の給食の日であり、各人が好きなだけお皿に盛っていただくいわゆるバイキング形式をとっている。

メニューを見てもラザニアにポテトサラダ、フルーツポンチといった子供には贅沢すぎるものばかりで園児たちは週二回だけのこの時間を今か今かと楽しみにしている。

「成田くん、みんながお腹をすかしているのに自分だけ独り占めするのはやめなさい。」

「良美さんもちゃんと順番を守って。」

シスター紫子がバイキングの取り合いをしている二人の園児たちを少し叱ったような口調で注意しつづける丸

とやかくこの二人の園児、食欲が非常に旺盛でありバイキングの時間ともなると両者とも譲らない。

「まあ、二人とも食べ盛りの子供なんだしちゃんと量さえ守っていれば問題ないでしょ。」

二人の園児を注意する紫子(ゆかりこに対し、園長らしき初老の男性がそう諭した。

「ですけどね園長、この子達が将来肥満体型になってみんなからいじめられることになったらそうするんですか。」

「いやあ、子供っていうのは一杯食べて大きくなるようなもんだよ。だって中東のアフガニスタンやらシリアなんて紫子さん知ってるだろ。あの年代の子供達の大半が日々の食事に欠いているんだから。」

シスター紫子が園長の発言に反論したことを耳にしたのかこの幼稚園に用務員として勤務する中年男性がそう発言した。

渡辺知晴-周囲からなべともさんもしくはナベさんの愛称でそう呼ばれているその男性は、用務員となってかれこれ10年以上経つベテランである。

パチンコや競馬といったギャンブルの類が趣味であり、プロ野球では阪神タイガーズの大ファンで六甲おろしをカラオケの十八番としている。

またワンカップ焼酎やスルメが大好物であり、仕事が休みの時はそれらを片手にしながら桑園駅近くの札幌競馬場や札幌ドームなどへ頻繁に出没している。

用務員一筋のなべともさんは学歴や教養は芳しくないものの、ギャンブルやプロ野球をはじめ政治・経済・芸能・裏社会の事情などあらゆる分野の雑学に精通しているほか人生経験も非常に豊富である。

しかもなべともさんは普段とぼけてはいるものの時々的を得た発言をすることも多く周囲も舌を巻くことが非常に多い。

「まあまあなべともさんの言うとおりだよ、紫子先生。育ち盛りの子供たちをむやみに押さえつけたりするのは決してよくないことだろうし。」

なべともさんの傍らで一言付け加えるような発言をしたのはこの幼稚園の補助教諭をつとめる真島亘神父である。

年齢は30歳代半ばから後半ぐらい。

高校2年次にカトリックの洗礼を受け、大学では社会福祉学とりわけ児童福祉を専攻。

大学卒業後は大手クリーニング会社に事務職として勤務した後、27歳の時に聖職者になることを決意して修道生活に入ったのち、3年前からこの幼稚園近くの教会で神父をつとめている。

教会の神父として儀式の執り行いや早朝の朝ミサ、聖書の研究会などといった宗教的な業務のほかこの幼稚園の補助教諭として施設の修繕整備や食事の準備、さらにはブログの配信などといった様々な業務をこなしている。

また真島はボランティア活動にも非常に熱心で、最近でひとり親世帯をはじめとした低所得者層の子供たちの食事の世話をしたりするような活動に力を注いでいる。

「そういえば紫子さん、昨日はなんだか騒がしかったけど何かあったの?」

「実はですね真島先生、私幽霊を見たんですよ。例の創生川で自殺した人の。」

゛まさか"と真島は確信していた。

実は真島も霊感があり、仕事柄教会の催事などで忙しいにもかかわらずキリシタン大名として名高い高山右近や島原の乱でおなじみの天草四郎時貞の幽霊に接する機会が非常に多い。

「紫子さん、その幽霊の人はどんな感じだった。」

「うーん。服装もきちんとしていないようだったし,いかにも風采が上がらない感じでした。」

「表情とかたたずまいとかはどんな感じだった?」

「髭は全く剃っていないし、両手をズボンのポケットに入れたままボーッと立ちすくんでいる。表情は全くパッとしない感じでしたね。」

フレンドリーな感覚で質問した真島に対し、紫子の態度は終始一貫して険しいものだった。

普段は清楚かつ貞淑で尚且つ植物や小鳥、子供たちに深い愛情を注ぐ年若きシスターにとってあの幽霊だけは不浄なものとして忌み嫌っているのだ。

さらにもう一言付け加えるかたちで紫子は強い口調でこういっ

「私はあの幽霊の存在すら許せませんし、断固として排除します。」

「このような発言は聖職者としてあるまじきものですが、もしあの幽霊が子供たちに危害を加えるようなことをしたらそれこそ一大事です。そうしたらあの幽霊は疫病神以外の何者でもありません。」

それを聞いた真島もわからないことはない。

自分も聖職者であり子供と関わる仕事をしている以上、あの幽霊のことは気にはかけている。

その一方で本当にその幽霊を排除してよいのだろうかさらには聖職者として人間としてとるべき行為なのだろうかもっと良い接し方があるのではないだろうか?

そんなことを考えながらも真島は紫子の言うことに耳を傾けていた。


その翌日は調理学習の日であり、カレーライスづくりが行われていた。

この幼稚園では総合活動の一環としてカレーライスのほかにも、ホットケーキやサンドイッチなどを作ったりする授業を積極的に行っており、園児たちは玉ねぎを切ったりジャガイモやニンジンの皮をむいたりと皆一生懸命だ。

そのなかでもひときわ目立つのがいかにも家庭的な雰囲気を醸し出す黒髪の三つ編み・一つ結びに赤いバンダナを頭に巻き兎の刺繍が入ったピンク色のエプロンを身に着けた少し背の高い年長のかわいらしい女の子だった。

紫子が受け持つクラスに所属するその女の子は常時おちついた様子で野菜を切るところからお皿に盛りつけるところまで非常にてきぱきとこなしていた。

「あとは福神漬けやラッキョウを盛り付けて完成です。かつおだし醤油も用意しましょう。」

「涼花ちゃん、大人顔負けの出来栄えです。みなさん拍手!!!」

拍手の音)パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ・パチ

紫子は涼花(すずか)という名前のその女の子の幼稚園児とは思えない手際のよさに感嘆し、他の園児たちとともに惜しみない拍手を送った。

それもそのはず、この園児-横山涼花(よこやま すずか)は幼稚園年少の頃から父方の祖母や母親の料理の手伝いをしたり、著名な料理人や女流料理研究家の書いた本を耽読してはそれをノートにメモをしたりするなどそんじょそこらの幼稚園児の女の子とはくらべものにならないほど料理の腕や味覚に磨きがかかっているのだ。

「先生・皆さん誰一人口にしていないのにいきなりほめたりするのはどうだと思います。私自身、料理の腕がまだまだ未熟なものですから賞賛に値するものではないと思います。」

周囲のほめ殺しに違和感を覚えたのか、涼花は子供とは思えないものすごく丁寧な口調で謙遜さを示すような態度で返答した。

「それでは皆さんお腹もすいたところだし、出来上がったカレーを食べることにしましょう。」

紫子:「いただきます」

園児たち:「いただきます」

紫子は早速、円状のお皿にきれいに盛り付けのされた涼花が作ったそのカレーライスを実食した。

カレーを口に入れたその瞬間、紫子はミスター味っ子の味皇こと村田源二郎になりきったかのように非常に絶賛した。

実は紫子は大のマンガ・アニメファンでもありとりわけ「ミスター味っ子」をはじめとする寺沢大介の作品や「美味しんぼ」「ザ・シェフ」などといったグルメマンガを学生の頃から愛読しているのだ。

そのためなのからか紫子はカレーを口に入れた瞬間から様々なことを妄想するようになり次第にそれが膨れあがる始末となった。

たとえば、美食倶楽部主宰で稀代の食通である海原雄山が“これぞカレー本来の味を最大限に引き出した至極のカレー”と大判を押す姿や孤児院育ちのさすらいの料理人味沢匠が見習いのコックを引き連れて「子供の味覚というのは実にたいしたもんだ。本物のカレーというのは一流のホテルやレストランでまかなわれているものではなくこのような素朴でありながら愛情のこもったごくありふれたものだ。」と幼稚園で園児たちと食事をしながら一言述べるシーンがそれである。

紫子の妄想は涼花のカレーを一口一口入れるごとに次第にエスカレートしていきしまいには園長先生や真島神父からも心配されるハメとなった。

その傍らでは幽霊田中雅司が幼稚園の教職員と園児たちがにぎやかな様子でライスカレーをおいしそうに食べている光景をうらやましそうに眺めながらこうつぶやいた。

「あのカレーがそんなに旨いのなら五島軒のものにも匹敵するのか?」

「あんな年端もいかない妙に大人びた女の子の作ったカレーに皆がしたづつみをうつなのなら一度食してみる価値があるのかも知れんな。それにしても腹が減った。」

「よし何が何でもあのカレーを食おう。」

そう思い立った雅司は自分が幽霊である立場を利用するかたちでこっそりと幼稚園の中に忍び込み食事会の行われている部屋にひっそりと忍び込んだ。

ちょうどその頃、紫子は妄想から目覚めたかの如く異様な気配を感じ取った。

「もしかして例のあいつがまた現れたのだろうか?」

そう察した紫子は戦闘モードに入るかたちで自らの持つ霊力をフルに活用させたかたちでその正体を確信することができた。

「やはり、いつものあいつがやってきたのか。」

いつものあいつ―田中雅司に異常なアレルギー反応を示す紫子は聖職者として子供たちを守る立場からあの汚らしくていかにも人相が悪そうな人間の屑ともいえるこの男だけは断固として排除しなければならないと考えている。

だが雅司はそんなことなどおかまいなしに涼花の隣の席を陣取るかたちでただ飯のカレーライスをいただこうと考えていた。

その瞬間、どこからともなく雅司の存在を見抜いたシスター紫子がとっさに現れてあつかましいともいえるその行為を力ずくでやめさせることに必死となった。

そして紫子は毅然たる態度で雅司にこう言い放った。

「あなた今自分のしていることが何だか分かっているんですか。あなたのやっていることは乞食と一緒ですよ。それにこんな小さな子供たちの前でみっともないことをするなんて恥とは思わないのですか?ここから10秒以内に立ち去らなければ警察を呼びますよ。」

このような紫子の発言に対し雅司はこう反論した。

「僕だってお腹がすいていたしこのカレーだって並大抵の園児が作ることのできるものではないでしょ。普通園児の作るカレーなんてこんな上出来なものなんかじゃないしこんな美味しいカレーなら他所の人が寄りついてもおかしくなんかないんじゃない。それにあんた聖職者なら万人に対等に接しなきゃダメでしょ。しかも何も悪いことなんかしようとしてないのにいきなり排除しようとするなんて本当におかしいよ。」

雅司の反論は本人としては的を得たものと思っているのであろうが紫子にとっては自己弁護以外の何物でもなかった。

さらに紫子が一言釘をさす。

「あなたのような嘘やごまかしが多い人ほど自分の過ちを素直に認めなかったり何の根拠もなく自分を正当化したりするのです。そんな汚い身なりでよほどお腹をすかしているのなら神の教えにしたがって清潔・貞操・勤勉を心がけなさい。」

それに対し蛇足の形で雅司がこんな言い訳をした。

「だいたい神の教えなんてそんなものお寺とか教会で働く人たちだけが勝手に信じているようなものでしょ。大抵の人間は神の教えなんか信じないし僕自身もそんなものくそくらえと思っている。そんなもんに縛られていちゃあんた一生つまらない人生おくるぞ。」

これを聞いた紫子はついに堪忍袋の緒が切れてどこから調達したのか雅司に照準を合わせるかたちで巨大バズーカ砲を発射した。

身長は159cm、体重44㎏の清純派シスターが抱える3・5インチのバズーカ砲から放たれた無誘導ロケット弾は狙ったターゲットは決して逃がしはしない警察犬の如く執拗に雅司を追いつめていった。

標的(ターゲット)になってしまった雅司もこんなところでくたばってたまるかと必死で無誘導ロケット弾からうまくさけようとつとめたものの運悪く命中するハメとなってしまった。

この勝負で軍配が上がったのは当然紫子であった。

紫子にとってあの男は疫病神以外の何物でもない。

バズーカ砲が見事命中しその疫病神を抹殺することができたのは彼女的に言えば「善の勝利」と言ってもよいだろう。

この幼稚園に通う園児たちが安心していろんなことを勉強したり健やかに成長すること、そして何よりも望ましいのが無事平穏に日常生活を送るころができるということそれ一言に尽きる。

このような状態を維持していくためにも園児たちに危害を加えるかもしれないあの男だけには消えてもらうしかなかったかもしれない。

今回は本当にやりすぎたかもしれないが紫子自身はこれにて一件落着と安堵の表情を浮かべるとともに邪魔者がいなくなってせいぜいしたと大きく息をふーっと吹いた。


その頃ミサイル弾の餌食となってしまった雅司は全身が黒焦げとなり着たきりすずめの服もボロボロになりながらもなんとか生きながらえていた。

結局あのカレーを食べ損ねてしまったせいか昼時よりもまして腹が減る。

腹が減っているので気力そのものがなくなっていく。

コンビニでおにぎりやサンドイッチなどを買おうと思ってもお金がないので買うことすらできない。

水を飲んで腹を満たそうと思ってもタダで飲めるような場所が見つからないので話にならない。

また自分があのような態度といい最後に言ってしまった余計なひと言のせいでこのような酷い目に遭ってしまったことは深く反省してもどうすることもできない。

そんなことで途方に暮れていた雅司は行くあてもなくたまたま寄りかかった公園でベンチに深く座り込んだ。

結局自分は何をやってもダメな奴だった。

今までこの30年間何をやったいたのだろう。

自分の人生は何だったのだろうか。

そんなことを考えていた雅司は両手をボロボロのズボンのポケットに入れたまま公園のベンチに何時間も座り込んでいた。

雅司が公園のベンチに座り込み続けている間にとうに時間が過ぎていき、気が付けは夜の7時となっていった。

日も暮れて札幌の空も真っ暗になっていく。

空が暗くなっていくに伴って雅司の体もどんどん冷えていくようになりやせ細っていくような感も否めない。

この時に限って救いの手を差し伸べる人がいたらありがたいもののそのような気配は全くといっていいほどない。

なにせ神の使いである修道女(シスター)にさえ忌み嫌われたろくでなしなのだから。

雅司がすべてに絶望してベンチにふさぎこんでいたその時、どこからともなく二人の男性らしき人影が公園の方へと足を向けていた。

人影に気付いたのか雅司はハッと男たちの方を振り向いた。

人影の正体は真島神父とベテラン用務員のなべともさんだった。

2人は雅司のことがよほど心配だったのか幼稚園の勤務時間を終えた後に、雅司の居場所を探しまわしていたのであった。

「やあ、今日は紫子先生があんなことをしてしまって本当にすいません。お腹を空かしていたかと思って涼花ちゃんの作った和風カレーと僕が作ったハイチ風カレーの二種類をタッパーに入れて用意しましたので一緒に食べませんか?」

「いゃあーお前さん本当は悪い人じゃないのに紫子さんがいきなりバズーカ砲をぶっ放すなんてあればないでしょ。異常といってもいいくらいだよ。本当に。」

幽霊であるはずの雅司のことが見えるからなのか、2人は雅司に手を差し伸べるようなかたちで紫子の非礼をわびるとともにタッパー一杯に入れたあのライスカレーを3人で分け合うかたちで雅司にも差し出した。

「このタッパーに入っているのが涼花ちゃんの作った和風カレーでこれが僕の自信作であるハイチ風カレーです。」

「両方とも召し上がっていいんですか。」

「もちろんです。」

今日朝ごはんとして菓子パン二つとコーヒー牛乳で済まし、昼からは何も口にしていない雅司にとっては空腹を満たすことができることへの安堵感が漂っていた。

やっとのことであのカレーを食べることができるようになった雅司は真島神父が用意したその二品を飲み物を飲みこむような感覚で短時間で胃に流し込んだ。

涼花の作った和風カレーはだいぶ冷めてはいるものの非常にあっさりとしており出汁の風味もでていて逸品である。

また真島の作ったハイチ風カレーもフルーツの風味がまろやかでなかなかのものである。

男三人でカレーを食べ終えた後、なべともさんが雅司について気になっていたことを質問していくことになった。

「雅司さんって今仕事何してるの?」

「以前本屋につとめていたんですが色々と事情があって今は無職です。」

「家とかはどこに住んでいるの?」

「母親と二人暮らしでしたが仲たがいをして追い出されてしまいホームレス状態です。」

「食事とかはどうしているの?」

「基本的に1日2食か1食で日々の食事に事欠くこともあります。」

「彼女とかはいるの?」

「昔付き合っている女性とかはいましたが、女運が悪いもので今はいません。」

なべともさんの質問に対する雅司の受け答えはぎこちないものがあった。

雅司の返答に不可解な点を感じたなべともさんは更に核心をつくような質問をした。

「お金のやりくりとかはどうしていたの?」

「ギャンブルにのめり込んだり本を買ったりするなどして借金が膨れ上がり1000円札があるだけでもありがたいです。」

「就職活動とかはちゃんとやっているの?」

「なんとか就職しようとは思っているのですが一次試験でさえ通らないものですからなかなか就職できません。」

「服とかはどうやって調達しているの?」

「以前はしまむらなどで購入したりしていたのですが今はお金がないので靴下すら買い替えることもできません。」

さらになべともさんの質問は鋭いものになっていく。

「好きな芸能人とかはいるの?」

「高倉健さんや渡哲也さんあたりですかね。いかにも男らしくて渋いところが気に入っています。」

「スポーツとかは何かやっていた?」

「スポーツなどはやっていませんが、高校時代3年間吹奏楽部でトランペットを吹いていました。」

“やはりそうだ”と真島神父となべともさんは確信した。

そしてなべともさんが一言付け加えた。

「あんたあの創生川で投身自殺した人でしょ。前に週刊誌で読んだんだけど高校時代トランペットをやっていたりギャンブルにはまって借金まみれになってやくざに追われたりと大変だっただろうに。」

実は雅司が創生川に投身自殺したニュースは、道内最大手新聞社系列の出版社が刊行している週刊誌でもわずかながら取り上げられており高校は男子校出身で吹奏楽部でトランペットを担当していたことや江別の四年生私立大学卒業であること、さらには一時期パチンコや競馬、麻雀などのギャンブルにのめり込んでかなりの額の負債があったことなどをなべともさんは知っていたのだ。

「いゃあ分かっちゃいました。僕幽霊なもんですから周りの人は見えることができないもんでそれで就職できない有り様なんですよ。だから自分で何でも屋をやるかするしかないんです。」

「いゃあ詮索して悪い悪い。こうしてお前さんのことを見ることができるのは幼稚園の職員のなかでも俺と真島さんと紫子さんだけだったからついつい気になってしまって。」

「それにしても奇遇ですね。こうやってあなたのような幽霊(ひと)と出会うことができたのも。雅司さん、よかったら僕たち3人でトリオを組みませんか。」

「いいですねそれ。僕もずっと独りで寂しかったものだったし、これを機会にいろんなことを経験してみたいです。」

「それじゃ早速明日から行動開始だ!」

自分の存在を信じてくれる2人の心強い仲間を得ることができた雅司はこれまでの絶望的な状況から一歩ふみ出るかたちでこれからは自らの手で生きる希望を見出そうと心に誓った。

「ところで紫子さんは僕のことを許してはいないんでしょうか?」

「いや、紫子さんもそのうち許してくれると思いますよ。彼女も自分のやったことを心から深く反省しているみたいですし。」


そのシスター紫子は料理会でのバカ騒ぎやバズーカ砲発射が修道女たちの間で知れわたることになり、女子修道院長による説教と懺悔(ざんげ)の一夜を過ごす派目(ハメ)となった。





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